番外章:ひたひた呼ぶ
ジョンが”妹の姿をしたモノ”の首を掻き切ったと同時に、それは姿を変える。
「こいつぁ……」
ジョンが見下ろすそれは、金毛混ざりの年老いた猿であった。
猿は右の手の平と頸部から血を流して倒れており、少しの間だけ痙攣をしていたがそれもすぐに止まる。
「これが怪の正体か。無駄に時間を取らせやがって」
そう言うとジョンは右足を高く持ち上げると、思いっきり勢いをつけて猿の頭蓋を踏み抜く。
バキリッと生木を折るような重い音が響く。
「ざけたマネしやがって」
頭蓋が割れ、灰色とピンクの何かを垂れ流した猿の死骸を置いてジョンは自宅へと歩き始める。
猿のその死体にはどこから死臭を嗅ぎつけたのかカラスが飛び回り、肉や脳漿を啄むのであった。
――疲労から重い足取りで自宅の扉を開けるジョン。
一歩自宅へと入ると、慌ただしそうに出かける準備をしている妹のジュリの姿があった。
ジョンは妹から距離を取り、警戒しながら話しかける。
「……お前、ジュリだよな?」
「何、いきなり。寝ぼけているの?」
「いや、確認のため、な。あと、俺一晩中居なかったことを心配しないのか?」
ジュリは急いで居るのかキッチンで朝ご飯を食べる手を止めない。
そしてケラケラと笑いながらジュリは答える。
「え。兄さん、私に心配して欲しいの? 兄さんが一晩ぐらい居なくなったって心配しないわよ。まぁ、一週間ぐらい居なかったら、考えるけど」
「だよなぁ。それでこそ、俺の妹だわ」
謎の安心感に安堵するジョン。
その横をご飯を食べ終えたジュリが走り抜ける。
「兄さん、そこどいて。講義に遅刻しちゃうわ」
「あ、ああ。悪い」
玄関から勢いよく飛び出した妹の姿を見ながら、ジョンは今度の”妹”は本物であると確信する。
「あの無愛想さは間違いないな。……あ」
ジョンはいつもの癖で煙草を口に咥えようとするが、そこで煙草を全て吸いきっていることに気がつく。
ジョンは頭をガリガリと掻くと、大きなため息を吐く。
「今度から煙草を買うときは、カートンにしよう……」
そうジョンは考えながら、汗を流すために脱衣所へと向かうのであった。




