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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
舞宇道村:再
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第15章-11 舞宇道村:再

チェーンソーの刃がその祭壇を真っ二つにした瞬間、女の泣き声がぴたりと止まる。

その代わりに、しわがれた老人のすすり泣きが何十にも折り重なるように響く。



「おぉーん……」「うぉーん……」「うわーん……」



『……やっぱりあの村長か』



 いつの間にか辺りには咲いた女の代わりに老人の顔が咲き誇り、怨嗟と悲しみが入り交じったかのような声を上げるがそれもすぐに収まっていく。

老人の顔が白から枯れたような茶色に変り、遂には粘土のようどろりと崩れていく。




「おぉ……ーん……」「う……ぉーん……」「うわー……ん……」



 崩れながらも、大量に咲いた顔はジュリを見つめ続ける。

途切れ途切れになりつつも、怨嗟の声は確実に大きくなっていく。




『……?』 



 だがそれもつかの間のこと。

床に落ちてぐずぐずになった顔がゆっくりと床に溶けていく。

後には枯れ果てた植物の残骸が、からからとしなび果てているだけであった。



『ふぅ、早く病院に行きたいわね』 


 ジュリは真っ二つにたたき割った祭壇を思いっきり踏みつぶすと、ようやくチェーンソーのエンジンを切る。

一息ついたジュリも耳にかさりかさりとしなびた植物たちが奏でる音を割るように、公民館の入り口から大きな音が響き渡る。



 ガラスを突き破る音、ドスドスと廊下を乱雑に走る足音、そしてジュリの居る部屋の扉を蹴破る音。

そして現れる赤く染まったジョン。



「外の植物どもが一気に枯れたから何かあっただろうとは思ったが。お前、大丈夫か?」


 

 ジョンは構えたソードオフ・ショットガンを下ろして、ジュリの元へと駆け寄る。

そしてジュリの喉が大きく裂けているのを見ると、慌てて肩を貸す。ジュリもまた力尽きたのかジョンに身を任せる。




「あの祭壇、お前が壊したんだな?」



 ジョンは歩きながら、ジュリに尋ねる。

ジュリは力なくコクンと頷くとニコリと微笑む。



「ここに来るまでに、あの村長の家がまだあったから調べていたんだがな。どうやらあのじいさん、生け贄を差し出して神に教えを乞いていたらしい。あいつらの教義の大本はブゥードゥーから来ていた物だからな、基本的には精霊と対話をすることで力を得ていたらしい」




ジョンは肩でジュリを支えながら言葉を続ける。




「それで、最初にここで白い芋虫に喰われたって話があっただろう? どうやら、あれは”種”みたいなもんらしい。人を喰って栄養たっぷりに育ったのが、あの密林なんだと」



 淡々と今までにあったことを話し続けるジョンを、ジュリはぼやけた視界で見続ける。

ジョンの衣類は所々裂けて血が滲んでおり、指先にも深い裂傷が見て取れた。ジュリの肩を押さえる指先から血が床へと滴り落ちる。



「ったく、入り口でお前とはぐれるわ、女の顔した実は降ってくるわ、最悪な目に遭ったぜ。しかも無理してジャングルを抜けたら、いつの間にか終わっているしよ」



 ケラケラと笑いながら武勇伝を語るジョンの横で、ジュリはほとんど意識を失いかけていた。

割れた公民館の扉を抜け、意識を失う直前目に入る”紅い海”。



『ああ、綺麗』



 紅い海に見えたモノ、それは密集して生えていた木々の葉が完全に落ちきって倒れて地面が紅い葉に覆われているためそう見えるのだった。

朽ちて倒れる木々の音を聞きながら、ジュリはゆっくりと意識を手放すのであった

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