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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
舞宇道村:再
122/229

第15章-5 舞宇道村:再

 地上でジョンが奇怪なモノに襲われている中、一方で洞穴へと転落したジュリ。

微かな明かりの下、洞穴の中でジュリは1人倒れ伏していた。


「……痛っ」

  

 ジュリは湿った土の感触と肌を撫でる微かな風で目を覚ます。

爪先にある冷たい感触以外は、見上げると見える自身が落ちてきたであろう洞穴の入り口。

元来た道を戻ろうと、近くに落ちていたチェーンソーを手に持つ。


「壊れてなくて、良かった」


 深紅のチェーンソーについた土汚れを手で払い落とすと、感触を確かめるようにエンジンを入れる。

エンジンの調子を確かめるように数回吹かすとエンジンを切る。そしてチェーンソーの刃を背中に背負うと、洞穴の入り口に戻ろうと傾斜のある土の壁に手を掛けた。だが、手を掛けた途端に、ボロボロと壁は崩れていく。


 次にジュリは地肌に飛び出していた木の根に手を掛けるが体重を掛けた瞬間に鋭い痛みから咄嗟に手を離す。


「……戻るのは無理みたいね」


 根に細かい棘でもあったのか、両手の手の平がぱっくりと裂け白い傷口が顔を覗かせる。

そしてゆっくりと玉のような細かい血液が滲み、傷口からあふれ出す。


 その様子を無表情で見ていたジュリであったが、ポケットから紺色のハンカチを取り出すと2つに裂く。

そして包帯の代わりに手の平に巻き付けると、上を見上げる。そして自身の背後に続く暗闇を見つめるとため息を吐く。


「えぇと、ペンライトがあったはずよね」


 ジュリは腰のポーチを漁り、小さなペンライトを取り出す。

そしてそれを咥えると、背負ったチェーンソーを持ち直すと臨戦態勢を取る。洞穴の広さは人1人ぐらいなら走れる程の大きさであり、チェーンソーを構えたままでも移動に支障はない。


『あんまり、ものを咥えるの好きじゃないんだけど。不潔に感じるし』


 そんなことを考えながら、ジュリは真っ暗闇の洞穴へと足を踏み入れる。。

ただでさえ寒い12月。洞穴の中は輪に掛けて寒い。ダウンジャケットを着込み、十二分に防寒対策をしていたジュリであったが、それでも骨身に染みる寒さであった。

吐息は白くなり、ペンライトを咥えた唇は血の気が引いて紫となる。


『……こんな寒いのに、なんで上はあんな青々とした植物が生えているのかしら。寒さに強い針葉樹ならともかく、あれはどう見ても熱帯植物。そもそも春ぐらいに来たときは、こんな密林じゃなかったはずだし』


 ジュリはまるで洞穴をクモの巣のように塞ぐ根の壁を切り払いながら考える。

その度に切断面からはじけ飛ぶ鮮やかな赤い液体。もはやそんなことは一切気にせずに切り払い続ける。


『それに、こんな早く成長をする植物が日本にあるなんて聞いたことないわ』


 


 ぷちゅ。



 何か柔らかいモノを踏みつぶした感触が、靴底から足裏へと伝わる。

ジュリは眉をひそめて、ゆっくりと足をどかす。そこには平坦に潰れた長い触角を持ち、黒光りした蟲が靴底一杯に広がっていた。


『真冬に、しかもこんな寒いところに蟲?』


 蟲の真っ赤な粘液が、靴底から地面へと糸を引く。

足をどかすと同時にぽたりと何かがジュリの耳元へ降ってくる。


『えっ?』


 その何かを認識するよりも早く、耳に走る鋭い痛み。

思わずその何か掴むと、力一杯地面へと叩きつける。


『何よ、この蟲……』


 ”それ”は6本の足を天へと動かしながら小さくキィキィと鳴いていた。

手の平ほどの大きさのそれは、ある一点を除いては大きくなったゴキブリそのものであった。

ただ一点違う点、それは頭部が人間そのものであったこと。そしてジュリはその顔の持ち主を知っていた。


『浦河……リオ……さん?』


 それの顔の持ち主。それは前回この村の探索を依頼した浦河智也の妻であるリオ。

そして、哀れな供物として生け贄に捧げられていたのであった。


『いったい何が』


 今まであった情報を整理しようと思考を巡らせる。

しかし僅かの間の後、思考が中断させられる。


「キ「キィキィ」ィキィ」「キィキィ「キィキィ」」「キィキ「キィキィ」ィ」


 死にかけた蟲が仲間を呼んだのだろう。

辺りから金属を擦るような鳴き声がうねりとなって近づいてくるのであった。

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