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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
初心(ウブ)と少女とチェーンソー
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第14章-11 初心(うぶ)と少女とチェーンソー

ファリスの頭部に、まるで鶏冠《トサカ》のようにチェーンソーの刃が深々と刺さっていた。

刃の食い込んだ頭部の隙間から、エメラルドグリーンの液体とやや赤みがかった肉塊が細々とこぼれている。


「ああかかうrf」


 ジュリは回転するチェーンソーの刃を頭蓋から引き抜くと、勢いをつけてファリスの首へとめり込ませる。

刃はファルスの表皮を裂き、筋肉を断ち、血管をズタズタにし、延髄を両断する。刃が首を通り過ぎ、さらには反対側を通り抜けると、支えを失った頭部はぐらついてゆっくりと地面へと落下する。

そして司令部である頭部を失った胴体は、重力に逆らうことなく床へと倒れ込んだ。ファリスの背に乗っていたジュリもまた重力に逆らえずに地面へと落下した。



「きゃっ!?」



 短い悲鳴を上げて、ジュリは地面へと叩きつけられる。先ほどまでは無機質な灰色をした床や壁がエメラルドグリーンや跳ねたピンクで染められていた。

その原色めいた空間でジュリは強かに腰を打ったうえに鮮やかなエメラルドグリーンの液体塗れになり、さらには手に持ったチェーンソーが無意味に宙を切っていた。


「……正造さんは?」


 ぽつりと静かにつぶやくと、ジュリはすぐさま立ち上がって周りを見る。

一面、鮮やかな緑とピンクがデコレートされた中には正造の姿は見えなかったが、ジョンと雪江が正造を掴んでファリスの巨躯から引っ張り出しているところであった。


「おーぅ……」


「あなた~、大丈夫~?」


「正造さん、大丈夫ですか!?」


 正造はファリスに何度も壁に叩きつけられて意識を失っていたが、顔面に液体が掛かったお陰か目を覚ましていた。 

ジョンと雪江に支えられてゆっくりと立ち上がった正造であったが、自慢の黒スーツは泥とすすけた壁の塗料で汚れ、裾からは緑の液体が滴っている。おまけに、左腕は脱臼でもしたのかだらりと下がっていた。

正造の顔面が緑一色に染まっているのを見て、雪江はハンドバッグからシルクのハンカチを取り出すと正造の顔へと近づける。


「あなた~、腕が外れているわ~?」


「ああ、そうだな」


 雪江に顔を拭かれながら、正造は動く右手で左腕を掴むと思いっきり力を込める。

一拍置いた後にバキりと奇妙な音が静かな廊下に響き、左腕が元通りに動くようになった正造の姿があった。


「ふぅ、ちっとばかししてやられたな。 ……少々腑《ふ》に落ちないこともあるが」


 正造は暗くなった廊下へと目を向けると、小首をかしげる。

胸に着けていたLEDライトは先ほど壁に何度も叩きつけられたせいで至る所にヒビや欠けがあったが、まだライトとしての機能は生きていた。

真っ暗な闇の中を一筋の光が明るく照らす。


 そこには、ただの古ぼけたコンクリートの廊下が続くばかりであった。


「正造さん、腑に落ちないことってどういうことかしら?」


「数が少なすぎるのよ。もっと出てくると思っていたが、今回は当たりかもな」


「?」


「あいつら、無限に”扉”から出てくるのは知っているだろう? だがな、一瞬で扉をくぐれるわけじゃないんだ。今、お前たち2人が見たようにこんな化け物が延々と出てきたら人類なんてとっくの昔に滅ぼされてるだろ?」 


「ええ、まあ」


「あいつらの増え方を見るに、1匹が扉を抜けるのに数時間はかかるらしい。一度だけあいつらが扉を抜ける瞬間を見たことあるが、まるで出来の悪いゼリーが型から無理に押し出されているようだったよ」


「……じゃあ、正造さんの推測じゃ何匹居るの?」


「さぁ、の。10匹も居ないと思うが」


 ちらりと正造は廊下の奥を見やる。

そこには、ゆっくりと天井を匍ってくる、巨大な肉塊―――――ファリスが数匹見えた。


「あなた~、挟み撃ちみたいよ~?」



―――――バァンっ、と重い破裂音が1発辺りに響く。そして、連続して数発、同じ破裂音が響き渡る。



 雪江は後ろを振り向きながら、バレットM82Aの弾丸を自分たちが降りてきた階段の方に向けて吐き出していた。

そこには、雪江の弾丸によって数本の脚がもげたファリスが、鮮やかな緑の血液をまき散らしながら差し迫っていた。


「雪江、適当に脚をもいだら先に進むぞ。わしらを追ってこれんようにな」


 正造は床に落ちていたハチェットを手に取ると、廊下の奥へと駆け出す。

2匹のファリスの白刃の鎌が迫るが正造は白刃が自身へと突き刺さるその瞬間、頭から大きく飛び込む。



ちょうど、正造は2匹の間をすり抜けるような形で両の手に持ったハチェットを振り抜いた。



 次の瞬間には、2匹のファリスはバランスを失って、お互いを押しつけ合うような形で倒れ込む。 

正造が切り裂いたのは、2匹のファリスの脚、計6本。 そしてトドメと言わんばかりに背中へとハチェットを深々とたたき込むと、ジュリとジョンに向かって叫ぶ。


「ボサボサしてないで、早く来い!」


 正造はそれだけ言うと、暗い廊下の奥に向かって歩を進めたのだった。



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