第14章-1 初心(ウブ)と少女とチェーンソー
これまでの主要な登場人物
・奏矢ジュリ
大型チェーンソーを振り回し、怪異を狩り続ける。一家で怪異狩りの依頼を請け負っているが、休みの日が潰されることを非常に嫌がる。
都内の理系大学に通っており、専攻は応用生物学科。学年は2年で、20歳。髪型はショートで黒髪。碧眼であり、膝下ぐらいの長さのスカートを(怪異狩りのときも)好んで着用する。
冬はこたつでアイスを食べる派。
・奏矢ジョン
奏矢ジュリの兄で、怪異狩りのときには銃火器を好んで使用する。依頼の時には、妹とともに向かうことが多い。身長178センチで体重は89キロ。髪型はツーブロックで、妹とは違い黒目、黒髪である。怪異狩りのときには、軍用の分厚いジャケットを着込む。
現在年齢は25歳で、日々修行と食い扶持を稼ぐために家業に邁進している。
冬はこたつで冷凍ミカンを貪る。
・横溝 雅司
『第3章 ガンプと呼ばれた怪物』にて、事件に巻き込まれてジュリに救われる。大学2年生で、20歳。ジュリとは別の大学に通っており、オカルトは好きだが、無縁の生活を送っていた。
髪型はソフトモヒカンで、身長は172センチ、58キロ。臆病ではあるが、咄嗟の勇気と判断力はそれなりにある。
実家にこたつがないため、いまいちこたつの話に乗りきれない。
関連章 ・『第3章 ガンプと呼ばれた怪物』 ・『第4章 水にストーカーされる女』・『第5章 長いトンネル』・『第7章 天国地獄診断機』
・清水 明夫
警視庁捜査一課第三特殊捜査係、通称”SIT3”(special investigation team 3)に所属。47歳で妻子持ち。
奏矢兄妹に事件の依頼をすることで、協力体制を取っている。個人としては、奏矢兄妹とは、十年来の知人である。
関連章 ・『第2章 妖精博物館』・『第6章 異世界より』・『第8章 愚者のハーレム』・『第9章 祝福されし仔ら』・『第10章 人家』・『第12章 血濡れの守護天使』・『第13章 見える見えない』
・篠生 鈴
年商58兆円を誇る篠生財閥グループの会長の孫。年齢は27歳。表の顔は建設・電気会社のCEOを兼任している。一方で裏の顔は、「オルハ評議会」と呼ばれる穏健派怪異集団の評議員を勤める。
「第11章 オルハ評議会」にて、”祝福されし仔ら”からとあるものを守るために奏矢兄妹と接触した。
関連章 ・『第11章 オルハ評議会』・『第13章 見える見えない』
・祝福されし仔ら
怪異集団。ジュリとジョンの両親を殺した因縁がある。祝福されし仔らの証として、手を逆さにした形の紋章、そして紋章の下に読めない字が書かれている印章を持っている。
関連章・『第8章 愚者のハーレム』・『第9章 祝福されし仔ら』・『第10章 人家』・『第11章 オルハ評議会』
「……もう一度言ってもらえるかしら?」
「だから、なんでジュリさんがチェーンソーを使っているのか知りたいんです」
ジュリは自身が通う大学の最寄りの駅に併設された、ここサンマール・カフェでショートケーキをつついていた。
そして、2人掛けの席の対面に座るは横溝 雅司。彼の手にはメモ帳とペンが握られていた。
「実はジュリさんを元にした小説を書こうと思いまして」
「いや、急にそんなことを言われても嫌なんだけど」
ジュリは不機嫌そうに眉をひそめながらも、ショートケーキを突く手を止めることはない。
しかし、横溝は諦めずにジュリに何度も頼み込み、ジュリはとうとう諦めたようにため息を吐いた。
「わかった、わかったわよ。その代わり、ここのお代は雅司君が持ってよね?」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、どこから話そうかしらね」
ジュリはショートケーキをつつくのを止めると、少し間を置いて話し出した。
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話は今から6年前、私が14歳の頃の話。
そして私がまだ怪異を退治し始めてまだ間もないお話。時期は、梅雨に入る直前くらいの蒸し暑くて不快なある日のことだった。
中学校から家に帰った私は、制服を着替える間もなく兄の乗る車に詰め込まれたわ。
『おい、ジュリ。近くの山の廃ホテルに化け物カマキリが出たって通報があった。 たぶん”ファリス”が現れたんだ』
兄さんはそのとき高校を卒業して、”怪異退治”をこなし始めたルーキーみたいな存在だったらしいわ。
いつも兄さんは怪異退治に行くときは、まるで近くのコンビニに行くみたいな態度だったのに心なしか焦っているようだった。
『ね、ねえ、兄さん? ”ファリス”って何?』
『不細工な人間の頭、カマキリの体と鎌、脚の代わりに4対人間の腕、オマケに人間の倍はある体躯のデカさ。ああ、コンクリートの壁くらいならぶち破る力も忘れてた』
『そ、それだけ? そのぐらいなら、前に兄さんと倒した海に居た化け物と似たようなものじゃないの?』
『無限に湧くんだ、奴等は。で、人間に対して”友好的”ときたもんだ。人間を好んで連れて行っちまう』
『え?』
『……順序立てて話すか。奴等は何の変哲もない扉から突然出てくるんだ。どうもその扉は奴等がこっちの世界にやってくるための通路になっているらしい。で、どこに繋がったかは分からない扉の向こうに、人間を拉致していくんだ。家畜の様に繁殖させて喰っているのか、あるいは知的好奇心からかは分かっていないがな』
『無限に出てくるって言ったわよね? そんなのどうするの』
『答えは簡単。奴等の世界と繋がっている扉を閉めれば良い。 ……ああ、扉のある建物ごと空爆したらとか考えるなよ。扉が吹き飛ばされたら、奴等を扉の向こうに追いやることが出来なくなるからな。昔、ロシアでそれを実行した馬鹿が居てな、”ファリス”を封印するためだけに地殻まで大穴を掘って建物ごと捨てたらしいからな』
『……そんなの2人で相手できるの?』
『安心しろ。助っ人は頼んださ』
そうして、私は兄に連れられてその”ファリス”が出たって言う郊外の山まで行ったのよ。
その時はいつもの通り、兄さんが突っ込んで私がフォローって考えてた。
いつもと雰囲気の違う兄さんの姿に、私は手に持った純銀のクロスボウをさらに強く握り込んでいたわ…。
そして小一時間も車で走ったぐらいに、ようやくその山に着いた。今でも山の名前を忘れたことはないわ。その山の名は”黒山”。
この事件がきっかけで、私はチェーンソーを振るう様になったのよ。
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