第13章-8 見える見えない
ジュリはイライラとしながら病室のベッドに寝っ転がる。足をパタパタと振り、枕に顔を埋めてため息を吐く。
そしてゆっくりと仰向けになると、真っ白な天井を見上げる。ふと壁に掛かった時計を見ると、午後8時過ぎを指していた。
「あ~あ、入院生活が長引いちゃったわね……」
ジュリがいる場所は病院の個室。その個室の中心辺りに設置されたベッドに寝っ転がりながら、なんともなしに自身の右腕を見つめる。傷口が開いてしまい、再び縫われて包帯が新しくなった右腕を宙にひらひらと翳しながら独り言をつぶやく。
全速力で”死んだ看護婦探し”をしたために、治りかけていた傷口が開いて入院期間が延びたことを医者から告げられたのであった。
「に、しても……」
ジュリは枕元からA4サイズの茶封筒を取り出すと、中から数枚の書類を取り出す。
ベッドの上に置かれた空の茶封筒には『警視庁』の文字が、大きく印字されていた。
「病院だからって、人が死にすぎでしょ」
資料は昼間に会った警視庁に所属している清水から送られたものであった。資料の内容は、17年前に起こった清水が関わった事件と今回の大量飛び降り事件についてのものであった。
まずは今回の飛び降り自殺についてまとめた資料を目を通す。
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2022年11月2日午後2時2分 『人が飛び降りた。落ちた先に停車してあった車に墜落して、車が激しく燃えている』という通報により消防隊員及び救急隊員が明治病院の東駐車場に到着。
消防隊員が消火活動中に数分遅れて付近に居た警官が到着。現場を一時封鎖した。消火後、黒焦げとなり人相を判断できないほどになった遺体が3人、車の上で発見される。歯の治療痕及び骨格、事件後行方が分からなくなった入院患者と照会により3人のうち2人の被害者を判定。
同日午後2時28分 同病院の西駐車場にて3人が飛び降り自殺が発生。
現場に駆けつけた警官が3人の救護を行い、同病院にて蘇生処置が行われるも死亡が確認された。
*死亡者(東駐車場)
・??? 30~50代 女性 付随事項:身元不明。病院内にて入院している患者と照会したが、類似した患者は発見されなかった。
・荒木 夏 17歳 女性 付随事項:不整脈にて検査入院中であった。
・植木 佳奈 26歳 女性 付随事項:車両事故にて左上腕骨を骨折。一般病棟にて治療中であった。
*死亡者(西駐車場)
・佐藤 由梨 21歳 女性 付随事項:盲腸により入院。一般病棟にて治療中であった。
・竜胆 しづね 31歳 女性 付随事項:膵臓癌ステージ1。検査のため入院中であった。
・ジェシカ・レインウェル 61歳 女性 付随事項:くも膜下出血により緊急入院。現在、個室にて経過観察中であった。
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ジュリはパラパラと他の書類に目を通したが、後は入院患者がどの棟に入院していたということや、最後に被害者たちがどこで見られたのかといったことが簡素に書かれているだけであった。
ジュリは次にこの病院で清水が担当した猟奇事件の捜査資料を取り出した。その資料は十数年という時間の流れのためかやや黄色く変色しており、微かにカビの臭いがしていた。
「なんか、この資料の紙臭うわね……」
ぶつくさと文句を言いながらも、ジュリは資料を読み始める。数枚に渡った資料であったが内容を要約すると次の通りであった。
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事件発生日 2004年11月7日 発生場所 明治病院東棟1階女子トイレ
*被害者
・見城 美由紀 34歳
明治病院4階女子トイレにて換気扇に詰められているところを発見される。発見時には既に死後1時間以上は経過していたにも関わらず、発見同時刻に病院内を歩いて居るところを複数の患者から目撃されていた。
2002年2月より同病院にて勤務。周囲の人間からは信頼されていて、患者からの評判も良かった。
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「兄さんが言っていた噂話とほぼ同じね」
全ての資料を読み終えたジュリは資料を封筒に戻そうと手を伸ばす。
そこでまだ封筒にまだ古いA4の紙が1枚残っていることに気がついた。
ジュリはその資料を取り出して、内容を読み始める。
それは2004年に発生した事件の補足事項であった。1つ目、敷地内でバラバラにされた挙げ句、薬品を掛けられて身元不明の遺体が見つかったこと。2つ目、その薬品は病院内から持ち出された可能性が高いこと。
3つ目、病院内からは行方不明者はおらず、目撃者もいなかったこと。
ジュリはここで今回の事件と、最初に起きた事件の共通点を見つける。
「身元不明者が毎回出てる……?」
ジュリは少しだけ考えたあと、改めて資料を全て封筒に戻す。
そしてピンクのカーディガンを羽織ると、携帯を手に持って病室から出て行くのであった。




