第3章-1 ガンプと呼ばれた怪物
これまでの主要な登場人物
・奏矢ジュリ
大型チェーンソーを振り回し、怪異を狩り続ける。一家で怪異狩りの依頼を請け負っているが、休みの日が潰されることを非常に嫌がる。
都内の理系大学に通っており、専攻は応用生物学科。学年は2年で、20歳。髪型はショートで黒髪。碧眼であり、膝上ぐらいの長さのスカートを(怪異狩りのときも)好んで着用する。
好きな色は黄色。
・奏矢ジョン
奏矢ジュリの兄で、怪異狩りのときには銃火器を好んで使用する。依頼の時には、妹とともに向かうことが多い。身長178センチで体重は89キロ。髪型はツーブロックで、妹とは違い黒目、黒髪である。怪異狩りのときには、軍用の分厚いジャケットを着込む。
現在年齢は25歳で、日々修行と食い扶持を稼ぐために家業に邁進している。
好きな色はワインレッド。
奏矢 ジュリは目の前で破られつつある扉を見ながら、うんざりとしていた
「なんで休みの日まで、働かなきゃいけないの……」
今、ジュリが居るのは、廃病院。廃病院なんかに居る理由は、肝試ししに来たからであった。
\ドッワハハハ/
じっとりと蒸れた空気が、体を包む。不快な湿気が体を伝う。
どこからか大人数で笑う声が近づいてくる。”あいつ”が……”ガンプ”がこっちに来る……
ジュリは小型チェンソーのエンジンを吹かすと、襲来に備えて身構えたのであった。
どうしてこんなことになったんだっけ?と、ジュリは今日のことを思い返していた。
事の起こりは2、3日前に同じ大学に通う友人の奈緒から合コンに誘われたことであった。その日は、依頼もなく暇だったのでなんともなしに了承してしまったのだった。
三日後、合コンにはジュリを含む女子3人、男子3人の計6人が参加した。
当日、居酒屋のお座敷に通された6人はそれぞれ男女に分かれて、対面に座った。
「みんなー、何を頼むー?」
「じゃあ私はカシスオレンジで」
ジュリがその声に応える。
全員に注文したお酒が行き渡ると、幹事が乾杯の音頭を取る。
各々がグラスを片手に、その音頭に合わせる。
「カンパーイ!」
乾杯から程なくして、自己紹介タイムが始まる。まずは男性陣から立ち上がり、順番に自己紹介をし始めた。
「僕の名前は横溝 雅司って言います! よろしく!」
ジュリの目の前に座っていた男が少し噛みながらも自己紹介タイムを終えた。座った後、雅司はジュリの顔をジロジロと見つめていた。ジュリはその視線に気がつき、その碧眼を向けると、気まずくなったのか雅司は下を向いてしまった。
雅司が自己紹介を終えた後、次々と男性陣が自己紹介を行う。
先輩の佐藤 剛が立ち上がる。
「今日は集まってくれてありがとう!俺のことはタケちゃんって呼んでね!」
友人で幹事の田中 篤も続いて「えー、今回の会の幹事の篤です。今日は楽しんでいってください」と発言する。
次は女性陣の自己紹介の番だ。同じく幹事の佐久間 奈緒、一見するときつそうな性格の志村 紫苑、そしてジュリに順番が回る。
「奏矢 ジュリって言います。今日はよろしくね」
「ジュリちゃん、もしかしてハーフ?」剛が声を上げる。
「そうだけど?」
「ああ~、可愛いねぇ」
剛は思いっきり、ジュリに粘っこい目線を向ける。
席替えした後、ジュリの隣に陣取った剛は「ジュリちゃん、今彼氏居るの?」だとか「この後、2人でどっかに行こうよ。」などと絡まれるが、ジュリは不快そうな表情を隠しもせずにお酒をあおり続けていた。
その後は別段、何があるわけではなく、わいわいと楽しい時間を過ごした。
三時間ほど経った頃、篤が立ち上がる。
「そろそろ時間が来てしまいました!とりあえず、いったんお開きしたいと思います」
その言葉を聞いたメンバーはぞろぞろと居酒屋から退出し始める。
居酒屋を出てすぐに、次どうする―?などとみんなで話し合っていると、剛がここぞとばかりに大きな声で提案する。
「なぁ、肝試しに行かないか?」
ジュリは内心うんざりしていたが、この提案に篤と奈緒と紫苑がのってしまう。所詮、酔っ払いである。
ジュリは友人の顔を立てて、肝試しに参加することになってしまったのであった。