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ママ  作者: 真田真
12/12

ママ

結婚生活は最初の3ヶ月は意外と楽しいものだった。


私自身、もしかしたらこのまま、一生、こんな感じで生きてもいいかなぁ……と錯覚したくらいだった。



しかしすぐに現実が訪れるし、そういう運命にもある。



それは私が潜在的に望んだものでもあるし、もう逆らえない運命になっている。



どの時点で結婚生活が楽しかったかというと、5か月の身重の身体で九州に新婚旅行に行ったくらいから、かつきが生まれる前までかな。



あれはどうして九州に行ったんだろ?



身重なので外国へは行けない。



二人がまだ行ったことのないところ……という理由で選んだんだっけ。


別府の温泉、長崎ハウステンボス、博多の街。


レンタカー借りて回った。



あの人は、自分のルーツでもある宮崎まで足を伸ばしたかったみたいだけど、私が拒否をした。



どうも、行く気になれなかった。



身重だという理由で、宮崎には行かなかった。



富山に帰ってきてから、あの人は片道40kmくらいの通勤を毎日していた。



私は毎朝送り出し、滅多に夕方には帰ってこないので、母やみどりと一緒に夕食を摂り、夜遅く帰ってくるあの人の食事の世話をする。



それでも休みの日などは一緒に買い物に行ったり、近所の温泉や水族館などに行ったりして、楽しかったものだ。



かつきが生まれる時は、うまいこと翌日、あの人が休みの時だった。


あの人が仕事中に陣痛が来たので、母に病院に連れて行ってもらった。



元々タイミングがよければ立ち会う予定だったので、早退してあの人は来てくれた。



しかし、いざ生まれる時になると、外でついつい寝てしまった……と言い訳をして、その場にいなかった。みどりに呼ばれて、やっと来た時にはもう生まれてしまっていた。



そこからケチのつき始めだ。



やっぱり、この人とは破滅に向かっていく。



私は自分の存在や求めているものの理由がこの時はまったくわからなかった。


ただ、動物……というより爬虫類的な本能で動いて、探しているのだと、このとき思っていた。



私は生まれた時から、伴侶を探していた。



ただ、生まれて物心がつくのはいつも中学生くらいの歳だった。



いつも……?この感覚もよくわかっていない。


小学生より前の記憶や写真などがないことも、自分の中では考えてはいけない事だと理解していた。



私は何のために生きているのか、どうして生を受けたのか?



目的はわかっている。



ただ、理由がわからない。



過去に何があったのかもこの時は、何もわからなかった。



ただ、なんとなくであるが繰り返しているんだ、という感覚はあった。



繰り返している……。



生と死を。




どこに生まれて、どこに死ぬのか……。


わかっているはずなのに、その記憶に辿りつけないもどかしさがある。


ただ、わたしは伴侶を探さなければならなかった。


そして子供も産まなければならなかった。


男の子を……だ。



両親や、みどりは私のことをどう思っているのだろう。



私の過去……。


中学生前の記憶。



私がわからないのだけど、家族にも考えさせてはいけない。



私にはいくつかの特殊能力があることを私自身が本能で知っている。



毒蛇は自分が毒を持っていることを自覚しているだろうか?



私は自覚していると思う。



私がそうだからだ。


私には、視線で相手をコントロールする能力がある。



正確には頭で念じたことを、相手に思い込ませる能力である。



しかしこれも相手によって個人差があり、睨むことによって、その場で強く言い聞かせる形と、常に傍にいて、真綿で首を絞めるようにじわじわと私が流し込む情報を信じ込ませる効果があった。



老若男女によっても変わってくる。


だから、私は、母とみどりを父や兄から引き離し、別居するように仕向けた。



母とみどりは一緒に生活し、視線はあまり使わないで、肌に水を馴染ませるように私のことを刷り込まなければならない。



これは、時間がかかるので、毎日少しずつパワーが損なわれていく。



多分、母やみどりはふとした拍子に私の過去を不審がるだろうが、その度に頭が痛くなって、考えるのをやめるだろう。



それを繰り返していくと、だんだん考えなくなり、不審に思うことも少なくなるはずだ。ただ、そうなるためには何年もの月日が必要だった。少なくとも十年。



それに時折、あまりにも私のことを訝しげに思った時は、きつい視線を浴びせて、瞬間的なマインドコントロールもしなければならない、ただ、男性と違って、効果は一瞬で、あまりやりすぎると精神を破壊してしまうので、ここぞという時しか使えない。



私はみどりも母も、家族として好きなのだ。別れたくない気持もある。



男性と老人は、一瞬の視線で持続する。



だから時々会いに行くだけでいいはずだ。



相手をコントロールするにはパワーが必要だ。睨みつけるだけで、全力で100メートルを走った後くらいの疲労がある。



だから、おばあちゃん、父、母、兄、妹と一緒に暮らすということは。私にとって、かなり苦しいことだった。



母とみどりを隔離して、時々、実家に帰り、必要ならば父や兄に刷り込む作業を行うほうが、体力的に効率的だった。



老人はどこからが老人かによっても違うが、おばあちゃんは私の中では男性と同じ扱いだった。



多分、生殖機能が失われたら男性と同じになるのだろうと思う。



ただ、その男女間においてもメリットとデメリットがあり、女性はただ、毎日一緒にいればいいのだが、男性は視線が効かない男性もいて、効果にばらつきがある。



父や兄はそんなことはなかったが、かず君の場合は、少しばらつきがあった。



経験上、効果がまったくないのが、旦那になるべき人だ。

経験上?私はこんなことを何回も繰り返したのだろうか?



かず君の時は、まだ若いから、ばらつきがあるのだと勘違いしていた。


その後、あの人と出会い、まったく視線が効かないことを理解し、本当に、この人が求めていた人だと思ったものだ。



学校でもこの能力を使って、家でも使い、私の外見は若いが、内面はぼろぼろだ。



若い殻を被っている老婆のようだ。



身体の節々も痛いし、病に倒れたら長引くので、健康には気をつけている。


まあ……寿命はもともと短い。ある意味長いが……。



ともかくあの人には睨んでもなんの効果もない。



だから、好き勝手に遊ぶし、愛人も作る。



かつきが生まれてから、ますます激しくなっていた。



ただ、目に見えて私を攻撃するわけではない。



家に帰れば、ホテルでアルバイトやお客さんに話している口調ではなくなり、無口で大人しい、何を考えているのかよくわからない雰囲気になる。



酒を飲んで暴れるわけではない。



それよりも性質が悪いかもしれない。



最初の社交的な優しさとは裏腹に、家ではおとなしいしゃべり口調。



休みの日に家族がだれもいない時にインターホンがなっても出てこない。回覧板を廻しに来た近所の人は、車があるからいることはわかっているのに、出てこないので印象が悪い。それどころか道で会っても挨拶しない。



田舎なので町内会で草むしりみたいな行事があり、大抵が世帯主が出るのだけれども、そういうものにも参加するのは私か母である。


まあ、土日は滅多に休みがないから、その辺りは仕方ないのだが……。


近所からは、何を考えているかわからない旦那ということになっているだろう。



職場から家が遠いのと、客商売なので、夜遅くなる日も多くなることがあの人に言い訳の手段を与えている。



最初は1か月に一回くらい。



それが段々激しくなって、週に1回くらいのペースで会社に泊まると言って、愛人の処に泊まっている。


あの人の勤めているホテルでアルバイトしている友人がいるので、噂は聞くのだ。



携帯電話でメールができるようになったのも最近だ。


時折、覗けばどういう風に約束を取り付けているのかはわかってしまう。


一度、ホテルからホテルへと転職する間、研修と称して、東京に2週間ばかり行くことになった。



それも、愛人と沖縄に行っていたことを私は知っている。


ご丁寧に羽田周りで帰ってきて、東京土産を買ってきていた。



かつきのおむつも替えない……というより、単発的に遊ぶ以外、ほとんど世話をしない。



パチンコに行く金は、消費者金融から借金をしてると思われ、時々、住所とありきたりの名前を名乗って電話がかかってくる。



仕事と偽ってパチンコしているから、私の兄に見られたりする。



本当に、浅はかで、夫として最悪の行動だ。


しかもそれらを隠すことができていると思っている。



自分の中で何かしら浮気をする理由を正当化している。



わかる……。


私にはわかる……。



幼い頃から母親がいない事が、あの人が浮気をする理由。


アルコール依存症の父親に育てられた事が、子育てのできない理由。


自分の行動に理由をつけ、深みに落ちて行く。



まだ、本人が酒に溺れていないだけまだましだが、それも、時間の問題だろう。



私がいなくなって、かつきと二人きりになれば……それが運命なのだ。



廻る廻る……私たちの運命は廻る。



そう言えば、私が物心ついたときから持っている、刀……。



汚れた箱に入った、思ったより長くなくて、鈍い色を放っているが、肉を思い切り切るのに適した刀。



やっと最近、この刀の意味がわかってきた。


わたしの記憶は多分、その日が近づくにつれ、少しずつ紐解かれていくのだろう。



中学、高校くらいの時は理由はわからず、ただ本能のみを信じ行動していた。



かつきを産んでからは朧げながらその意味も感じることができ、寝ている時に過去の記憶がフラッシュバックのように、脳裏を横切る。



学生時代……。


何故か私は、この刀が人肉を切るためのものだと思っていた。



だから試し切りも必要なんだと……。



その日が来ると、多分、この刀で肉を切らなければならない。



かといって人を切るわけには行かない。


私は、人目につかない場所で、野良犬や野良猫を切っていた。



野良猫は難しかった。警戒心が強いからだ。



野良犬は、ちくわやソーセージを持っているとすぐに近寄って来る。


私の足元に餌を置き、私が立って見下ろしていると、ちょうどいい位置に来る。



ゴールデンレトリバーのように背の高い犬ならよかったが、大体の野良犬は低い。



だから、振り下ろす時に添えた手でのコントロールが必要だが、それも慣れた。



首を下げて、必死で、生きるために餌を食べている犬の首に、私は何のためらいもなく、刀を振り下ろす。


私も生きるためなのだ。



蛇が生きるために鳥の卵を飲み込む様に、私は生きるために、生暖かく、獣臭のする返り血を浴びた。




この匂いはどこかで嗅いだことがある。


それはそんなに嫌な匂いではない。


ただ、目の中に入ってしまうと毒になりそうなので、あわてて、顔のべっとりとしたスライムのような血の塊をぬぐった。



視線の先には4本足で立ったまんまの茶色い犬の身体が、微妙に痙攣していて、元、首のあった部分から、どくどくと、どれだけ身体の中に溜めていたのだろうと思えるくらい、血や体液の混じった微妙な色の液体を噴き出していた。



噴き出すというのは描写にそぐわないかもしれない。



スローモーションのように、私には見えたからだ。



まだ生きているようにも見えるが、足元にゴロンと転がってきて、色の変わった、生きものではなくなってしまった舌がダランと伸びているのを見ると、「ああ、死んでいるんだなぁ」と実感する。



切り口から神経なのか血管なのかわからないいそぎんちゃくの様なものが垣間見える。



骨があるはずなのに、骨まで切ってしまう。



改めて刀の威力を思い知った。



ただ、一回だけの試し切りでは飽き足らず、私は何度も標的を見つけては切っていった。



もちろん刀をぶら下げて歩くわけにはいかないので、ソフトボール部に入っていた私は、バットケースにバットと一緒に入れて持ち運んだ。



ゴルフバッグにような素材のやつだ。



死体を埋めたりするのは大変だし、その作業を人に見られたら面倒くさいので、切ったらその場からすぐに離れた。



もちろん、周りに人がいないことを確かめる。



だんだんこじんまりとした野良犬では満足できなくて、2回、飼い犬を切ったことがある。



なるべく町から離れて、遠くに犬を探しに行った。



富山の田舎なので、一軒家は多い。



鍵をかける習慣も少ないが、まあ、少なくとも家は鍵をかけていただろう。ただ、庭へは普通に入れた。



周りに人がいないことや、そのうちのインターホンを押して留守なのを確かめてから入って行き、大きな犬に近づく。



吠えられては困るので、睨みつける。


犬に効くのかどうかは疑問だったけれど、かず君の犬や実家で飼っていた犬で試したことがあるので、実験済みだった。



少しの間、黙らせることができる。



記憶まで操作できるのかは、犬のことだからわからないが、睨みつけると怯えたように大人しくなる。




大人しくさせておいて、私は大きな犬をばさりと切る。


大きくなると手ごたえも抜群だ。



最初の犬は身体の真ん中から切った。



あばら骨も何もかも丸ごと切れた。



すごい刀だ。



2回目は縦に切ってみた。



思い切りが大切だとこの時にはわかっていた。



セントバーナードのような横幅の広い犬を選んで、脳天から真っ二つにできた。


中から変なものがいっぱい出てきたが、私の眼には虹色のウジ虫がうにょうにょ動いているようにしか見えなかった。




結局、猫でも少し試し、新聞等に載って警戒されたので、やめた。


実際は一回、女の子に見られたが、そういう一瞬の記憶はちょっと睨みつけるだけで忘れてしまう。



便利な能力だ。



かず君の犬も私が切った。



かず君を試すためもあったので目の前で、そうするしかなかった。



だけどかず君は私の期待を裏切ってくれたので、睨みつけて忘れさせようとしたが、かず君の操作にはばらつきがあったので、もしかしたら不完全だったかもしれない。



自分の飼い犬も私が切った。



それは一番最初の試し切りだった。



実際は、ずたずたに切り裂かれて発見されたのだけれども、家族の心の中では、用水路で溺れた記憶にすり替わっているはずだ。



みどりに刀を見られたこともあった。


あれは不注意だった。





かと言って、外で隠すところはないので、家の押入れに隠すしかなかった。



みどりが興味を持ち、不審がるたびに睨みつけるしかなかった。



今は古い一軒家に住んでおり、屋根裏倉庫のようなものがある。



2階は私たち夫婦とかつきが住んでいるので、そのスペースはほとんどわたししか使わない。



あの人も、一人暮らしの時に使っていた家具や電化製品で、使わないものや、ボストンバッグに詰め込まれた、詩などを同じ場所にしまっているが、私の物を触ったりはしない。



それに、もう、試し切りはかなりして、威力はわかっているので、後は外に持ち出す必要はない。



時々、抜いてみて、錆ついてないか調べ、手入れするだけだ。



わかっている。



人間も切れる威力だ。



この刀の箱……。


文字がかすれていて読めないけれど、先日、私の脳裏にフラッシュバックが来て名前を知ることができた。

「天心丸」と。


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