第3話「二つの月」
第3話「二つの月」
――三年。
長い時間だった。
レイは。
ノクティスシステムを使い続け。
戦闘データを積み重ねていた。
ミサキは。
ライトオルトロシステムを手に入れた。
二人は。
それぞれ違う道を歩いていた。
格納庫。
完成したルナ・ケルベロスを。
ミサキが見上げる。
六基のライトオルトロが。
不気味に輝いている。
「……レイ」
振り返る。
そこには。
ケル・ベロの前に立つレイ。
「完成したんだね」
「うん」
ミサキは笑った。
「やっと」
レイは微笑む。
「おめでとう」
「……ありがとう」
一瞬。
昔の二人に戻ったような。
そんな空気が流れる。
けれど。
すぐに。
ミサキはルナ・ケルベロスを見る。
「これで……」
「私は、クロウ様の役に立てる」
レイは黙る。
その言葉に。
胸の奥がざわついた。
「……ミサキ」
「何?」
「その力を……どう使うの?」
「決まってる」
ミサキは答える。
「クロウ様のために」
レイは。
何も言えなかった。
ミサキは。
今では完全に。
クロウの言葉を信じていた。
「クロウ様が必要としてくれる」
「クロウ様が認めてくれる」
「クロウ様のために戦える」
それだけで。
幸せだった。
その幸福の中に。
闇影の意図が隠れていることを。
ミサキは知らない。
クロウは。
二人を見ていた。
レイには。
ノクティスシステム。
ミサキには。
ライトオルトロ。
そして。
その先に。
自分の力を完全に引き出すための。
新たなシステムを思い描いていた。
九基。
さらに強大な遠隔兵装。
オルトロシステム・オロチ。
後の――
ノクターン・オロチ。
その計画は。
まだ始まったばかりだった。
ミサキは。
ルナ・ケルベロスの前で。
クロウを見つめる。
「……クロウ様」
「どうした?」
「これからも……」
少しだけ迷う。
「私を見ていてください」
クロウは微笑む。
「もちろんだ」
その一言だけで。
ミサキの心は満たされた。
「……はい」
レイは。
少し離れた場所から。
二人を見つめていた。
「……クロウ様」
小さく呟く。
レイは。
ミサキとは違うものを感じていた。
クロウ様の中に。
時折現れる。
あの違和感。
冷たい。
感情のない。
別の何か。
それでも。
「私は……」
レイは目を閉じる。
「クロウ様を信じます」
二人とも。
同じ人を愛していた。
けれど。
その愛し方は。
違っていた。
一人は。
その闇に違和感を抱き。
もう一人は。
その闇さえも。
クロウ様の一部として受け入れた。
やがて。
ルナ・ケルベロスの試験運用が始まる。
六基のライトオルトロが。
月のように浮かび上がる。
紫黒の光が。
暗い宇宙を照らす。
ミサキは操縦席で。
静かに笑った。
「……行きます」
通信が入る。
『ああ』
『行け、ミサキ』
「はい」
ルナ・ケルベロスが。
ゆっくりと浮上する。
六基のライトオルトロが。
その周囲を舞う。
月影の名を持つ機体。
その操縦席に座る少女。
彼女は。
まだ知らない。
その力が。
やがて。
七星戦争の最終決戦で。
レイと刃を交えることを。
そして。
最後には。
自分が愛した男を。
レイへ託すことになることを。
――十歳の頃。
ただの特待生だった二人。
同じ人に惹かれ。
同じ人を信じ。
同じ戦場を目指した。
けれど。
その先で。
二人の月は。
別々の闇を照らすことになる。
外伝「月影の双星」――完。




