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第1話「特待生の少女達」

外伝「月影の双星」

第1話「特待生の少女たち」

――6年前。

まだ、七星紛争が始まる前。

月明かりに照らされた巨大な宇宙都市。

そこは、アルカディア財閥がノクティス帝国内に建設した軍事教育都市だった。

その中心には、アルカディア財閥が創設した軍人養成学校――

アルカディア士官学院。

各星から集められた優秀な少年少女たちが、軍事学、魔力制御、MAS操縦、戦術理論を学ぶ場所。

その正門前に、一台の輸送車が停まった。

扉が開く。

最初に降りてきたのは――

一人の少女。

黒髪。

静かな瞳。

十歳とは思えないほど落ち着いた雰囲気を持っている。

夜城レイ。

その後ろから、もう一人。

明るい表情。

少し勝ち気な瞳。

レイとは対照的に、周囲を興味深そうに見回している。

月影ミサキ。

二人とも十歳。

そして。

二人とも、この学院の特待生だった。

「……ここがアルカディア士官学院?」

ミサキが目を輝かせる。

「大きい……!」

レイは校舎を見上げる。

「軍人養成学校……」

「楽しみだね、レイ!」

「……うん」

二人の前に、一人の男が立った。

黒い軍服。

鋭い眼差し。

だが、その表情には二人を歓迎する柔らかさもあった。

天城レイヴン。

「夜城レイ」

「はい」

「月影ミサキ」

「はい!」

レイヴンは二人を見る。

「今日からここがお前たちの学ぶ場所だ」

「特待生として、学院でも特別な教育を受けることになる」

ミサキが胸を張る。

「頑張ります!」

レイヴンは小さく笑った。

「その意気だ」

そして。

「ただし――」

二人を見る。

「無理をする必要はない」

「お前たちはまだ十歳だ」

ミサキが少し頬を膨らませる。

「でも、私たち強いですよ?」

「知っている」

レイヴンは答えた。

「だからこそ、焦るな」

レイは黙って頷いた。

「……分かりました」

学院へ入った二人を待っていたのは。

同年代とは思えないほど高度な授業だった。

魔力制御。

戦術理論。

星醒者適性試験。

そして。

MAS基礎理論。

「この年齢でここまで……」

教官たちが驚く。

特に。

レイは常に上位。

そしてミサキも、それに食らいついていた。

「またレイが一位……!」

試験結果を見たミサキが悔しそうに叫ぶ。

レイは淡々と答える。

「一問差」

「一問差なら次は私が勝つ!」

「うん」

「その『うん』が腹立つ!」

レイは少しだけ笑った。

二人は正反対だった。

それでも。

互いを認めるライバルだった。

その頃。

学院の別棟。

一人の少女が二人の入学を見守っていた。

水城セリア。

アルカディアに来て間もない彼女は、二人の特待生について説明を受けていた。

「十歳……」

セリアは二人を見る。

小さい。

まだ、妹のリュウナよりも幼い。

その姿を見ていると。

どうしても。

妹の顔が浮かんだ。

「……リュウナも、こんな頃があったわね」

セリアは小さく笑う。

その日の昼。

食堂。

レイとミサキが二人で食事をしていると。

セリアが近づいてきた。

「隣、いい?」

ミサキが顔を上げる。

「はい!」

レイも小さく頷く。

セリアは二人の食事を見る。

「ちゃんと食べてる?」

「食べてます!」

「ならよかった」

セリアは笑った。

ミサキが少し首を傾げる。

「セリアさんって、私たちのお世話係なんですか?」

「ふふ。そんな大げさなものじゃないわ」

「ただ――」

二人を見る。

「慣れない場所でしょう?」

「困ったことがあったら言ってね」

レイが静かに答える。

「……ありがとうございます」

セリアは微笑む。

その表情には。

妹を思う姉のような優しさがあった。

数日後。

二人は学院地下の研究区画へ呼び出された。

「ここは?」

ミサキが周囲を見る。

「アルカディアの研究施設だ」

レイヴンが答える。

その最深部。

巨大な黒いシステムが存在していた。

ノクティスシステム。

通常の星醒者では扱えない。

魔力を極端に吸収する危険なシステム。

研究員が説明する。

「普通のSAが接続すれば、魔力を吸い尽くされる可能性があります」

「最悪の場合――死亡します」

ミサキが息を呑む。

「……え?」

レイの表情も僅かに変わる。

「では、なぜ私たちが?」

その時。

研究区画の扉が開いた。

一人の青年が入ってくる。

黒い髪。

静かな瞳。

二十三歳。

それでも。

研究員たちは彼を見ると、一斉に姿勢を正した。

「クロウ大佐」

青年――

黒羽クロウ。

彼は二人を見る。

そして。

「怖いか?」

ミサキは強がった。

「……怖くないです!」

レイは正直に答える。

「少し……」

クロウは笑った。

「正直でいい」

二人の前にしゃがむ。

「無理はするな」

「苦しくなったら、すぐ言え」

ミサキが尋ねる。

「……途中でやめてもいいんですか?」

「ああ」

クロウは即答した。

「お前たちは実験道具じゃない」

その言葉に。

二人は黙ってクロウを見る。

クロウは二人の頭に手を置く。

「俺が守る」

その瞬間。

ミサキの胸が強く鳴った。

レイも。

初めて感じる、不思議な感情に戸惑っていた。

試験開始。

「魔力接続――」

ノクティスシステムが起動する。

「魔力吸収開始」

「……っ!」

レイの顔が歪む。

ミサキも歯を食いしばる。

「ぐっ……!」

魔力が吸われていく。

「停止!」

研究員が叫ぶ。

だが。

「まだ……できます」

レイが言う。

「私も……!」

ミサキも続く。

その時。

クロウが立ち上がった。

「やめろ」

「しかし――」

「限界だ」

クロウが二人の前へ歩いていく。

「実験は中止する」

二人をシステムから外す。

「大丈夫か?」

レイは息を整える。

「……はい」

ミサキも苦しそうに笑う。

「まだ……できます」

「駄目だ」

クロウは優しく言った。

「死んだら意味がない」

ミサキはクロウを見る。

その言葉が。

胸の奥に残った。

――守ってくれる。

――自分たちを見てくれている。

そして。

レイもまた。

静かにクロウを見つめていた。

「……クロウ様」

二人にとって。

その日から。

クロウは特別な存在になった。

まだ恋と呼ぶには幼い。

それでも。

心の奥には。

同じ言葉が芽生えていた。

――クロウ様のためなら。

それから六年。

二人は成長した。

十六歳。

ノクティスシステムは完成した。

完全適合者は。

レイ。

ミサキ。

そして。

クロウ。

三人だけ。

だが。

システムはまだ。

クロウの中に眠る巨大な力を完全には引き出せなかった。

研究は続いていた。

そして。

同じ頃。

ノクティス帝国が動き出す。

標的は――

光の星。

七星戦争。

その開幕

光国への軍事行動が始まった。

そして。

その裏側で。

アルカディアから、秘密部隊が派遣される。

隊長――

黒羽クロウ。

その部隊には。

レイ。

ミサキ。

そして特級クラス、上位クラスのSAたち。

表には存在しない。

記録にも残らない。

闇の戦場を駆ける。

秘密部隊。

その存在を。

まだ誰も知らなかった。

第1話「特待生の少女たち」――完。


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