第47話 わたしを愛してくれたあなたへ
数ある作品の中からちらりと覗いてくださりありがとうございます。
47話で完結となります。
深い祈りを捧げた翌朝。
裏庭の慰霊碑の前には、再び手を固く繋ぎ合わせたアルチュールとブランシュの姿があった。
彼女がそっと目を閉じ、繋いだアルチュールの手から彼の心地よい魔力の余剰分を優しく吸い上げた、その瞬間だった。
ブランシュの全身から、まるで真珠を溶かしたかのような、雪の輝きのような眩い光の粒が無数に溢れ出し、天へと、そして足元の大地へと静かに零れ落ちていく。
光の粒が優しく地中へと染み込んでいった次の刹那――まだ肌寒い裏庭の寒さを置き去りにするようにして、二つの墓標を包み込むように、色鮮やかで美しい花々が一瞬にして咲き乱れた。
「……綺麗ですね、陛下。きっとお二人も、喜んでくださっていますわ」
「ああ。……さあ、行こう。お前をいつまでも、こんな寒い場所に置いてはおけない」
アルチュールはブランシュを愛おしそうに抱き寄せ、本館の最奥へと歩き出した。
辿り着いたのは、あの事件の前にアルチュールが「使うのは一年先だ」と言い放ち、ロザリーにチクチクと小言を言われていた、あの広大で豪奢な――夫婦の寝室。
重厚な扉が閉まり、二人きりの静寂が訪れると、アルチュールはおもむろにブランシュの前に跪いた。漆黒の鎧を脱ぎ捨て、1人の男として、自らの夜色の瞳を真っ直ぐに輝かせて彼女を見上げる。
「ブランシュ。……いや、お前だけの特別な名前を、今ここで贈らせてくれ」
アルチュールはブランシュの細い手をとり、その甲へ優しく、誠実な口づけを落とした。
「お前の愛称は……『シュシュ』だ。我が帝国の古い言葉で、――世界で一番、可愛い人、という意味を持っている」
「シュシュ……」
その愛らしい響きを口の中で転がしたブランシュが、ポッと頬を赤く染める。アルチュールはその愛おしい姿に微かに口元を緩め、けれど、これまでにないほど真剣で、熱い眼差しを彼女へと注ぎ込んだ。
「本当の言葉をまだお前に伝えていなかった」
アルチュールは立ち上がり、ブランシュの華奢な身体を、一部の隙もないようにぴったりと自らの腕の中へ抱き寄せた。短くなった彼女の純白の髪へ、優しく愛おしそうに指先を絡める。
「お前が俺の痛みを分かち合ってくれたあの日から、いや、お前のボロボロになりながらも凛としたこの目を見たあの最初の日から、俺の魂はお前だけのものだ。……ブランシュ。俺の可愛いシュシュ。俺は、お前を心から、魂の底から愛している。生涯をかけて、お前だけを幸せにすると誓う。だから――俺の妻になってくれ」
初めて告げられた、不器用で、けれど何よりも真っ直ぐな「愛してる」の告白。
ブランシュ――シュシュは、胸の奥が甘くドロドロに溶かされていくような幸福感に、純白の瞳を涙で濡らしながら、彼の胸へ深く顔を埋めた。
「はい……っ、はい、アルト様。わたくしも、あなたを愛しております……!」
「……シュシュ、お前は何度言っても呼び方を改めないな。もう一度、名前からやり直してくれ」
と彼女の頬に手を添えて上を向かせながら言った。
「……アルト…。わたくしも、あなたを魂のそこから愛しております」
蕩けるような微笑みを浮かべ、心の底から想いを告げる。
崩壊したルベリオンの朝陽ではなく、今度は自分たちの本当の我が家である帝国の優しい光のなかで、二人は二度と離れない永遠の誓いを、熱い唇の重なりと共に交わすのだった。
◇
かつて『焦土を好む死神』『殺戮を愛する狂王』と世界から恐れられ、重苦しい静寂と武力に支配されていたヴァランシエンヌ帝国は、今や嘘のように、豊かな花と瑞々しい緑に溢れる美しい国へと生まれ変わっていた。
アルチュールの強すぎる破壊の魔力が、シュシュという完璧な調律者を得たことで、すべて大地を潤す豊かな祝福のエネルギーへと変換され、帝国のライフラインや農地へと常に循環し続けているからだ。治世の成功と、持てる者が持たざる者へ捧げ合う世界の美しさは、臣民たちの豊かな暮らしと幸せそうな笑顔を見れば、誰もが確実なものだと理解できた。
そんな、いつも明るく平和な帝都の街並みが、この日はより一層、特別な熱気で浮き足立っていた。
「ねぇ、もう一回見に行きましょうよ!」
「ええ、行きましょう! 何度見ても見飽きないわ!」
どの通りにも所狭しと華やかな露店が出され、なかには新しいお祝いのためにと、無償で飲食を振る舞っている店まである。誘い合いながら、スカートの裾を翻して中央広場へと楽しげに駆け出していく数人の町娘たち。
彼女たちが辿り着いた中央の美しい噴水広場では、すでに地鳴り(じなり)のような人だかりが、ある一枚の巨大なキャンバスを中心に発生していた。
「あぁ、本当に素敵だわ……! アルチュール陛下、御髪を短くされてから、なんだか高貴さが増して胸のときめきが止まらないわ!」
「それを言うなら、ブランシュ陛下のこの白くて細い首元から、胸元にかけての美しいラインを見てよ! お美しすぎて、女の私でもドキドキして倒れてしまいそうだわ!」
「でもそれより何より……あぁ、なんて可愛らしいのかしら……まるで、世界で一番尊い至宝。……ええ、まさに神様からの祝福そのものだわ」
民たちが、感極まった涙を流しながら見上げている視線の先。
そこに掲げられていたのは、この美しいヴァランシエンヌ帝国を優しく、力強く治める、若き二人の統治者の真新しい肖像画だった。
短く切り揃えられた漆黒の髪をなびかせ、世界で最も穏やかで優しい、深い夜色の瞳をした皇帝アルチュール。
そしてその隣で、肩の上でまばゆく揺れる純白の髪を輝かせ、世界で一番幸福な、聖母のような微笑みを浮かべている皇后ブランシュ。
何より民たちの目を引いたのは、ブランシュの腕の中に大切に、大切に抱かれている、生まれたばかりの小さな、小さな赤子の姿だった。
その愛らしい小さな頭には、父親と同じ、夜の闇を溶かしたような、美しい漆黒の産毛がふわりと生え揃っている。
――ヴァランシエンヌ帝国に、待望の第一皇子がお生まれになられ、世界へとお披露目された、光あふれる、祝福の日の出来事だった。
かつて呪いと蔑まれた白は、今や世界を救う唯一の奇跡となり。
かつて孤独に身を灼いていた黒は、今や世界を優しく包み込む絶対の慈悲となった。
繋いだ手の温もりをそのままに、お互いの祝福を捧げ合い、循環させていく二人の。
そして、新しく紡がれた小さな命の、美しき夜明けの物語は、これからもこの豊かな世界のなかで、永遠に、どこまでも優しく続いていくのだった。
お読みいただきましてありがとうございました。
こちらで2人のお話は完結となります。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
これまで執筆活動などした事がなかったのですが、自分がこういう関係のふたりが好きだ、こんなシーンが読みたいという欲望のまま、初めて筆を取りました。
自分の性癖をただただ詰め込んだ、自分が読みたいだけのお話でしたが多くの方に目を止めて頂き嬉しかったです。
ブックマークを1件頂けた時は驚きのあまりスマートフォンを落としてしまいました。
まだ消化できてない性癖がいくつかあるのでそちらも文章化していければいいなと思っています。
また覗いて頂けると幸せです。
この度はありがとうございました!




