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エルフは筋トレ本を拾った。 →聖書として崇めた。→筋力が上がった。  作者: 青桐
1章 筋肉エルフと少女勇者、時々、学者
18/25

チンピラが現れた(2回目)

「入り口はあんなに賑わっていたのに、中には人がいないんですね」


暗い入り口を抜けて、薄暗い石の通路を歩きながら、桜が言った。


「迷宮は空間が歪むから、3分くらい入るのがずれれば、別の場所に出るわ。その歪むタイミングで入ったのよ。

だから、前には人がいる可能性は低いわ。それなりに広い迷宮だからね」


「じゃあ、地図とかってないんですか?」


「ええ、迷宮の中も結構変わるから。

よくある怪談話として、永遠に外に出れないで彷徨っている冒険者の話があるけど、聞く?」


悪戯っぽい笑顔を見せるサマーに、桜は黙って首を振る。

メロスは、この壁、筋肉で殴れば、壊れるんじゃないかと真剣に考えていた。

サマーが桜の反応を見て、少しつまらなさそうに息を吐く。


「それなりに面白い話なのに。

……まあいいわ。

迷宮の入り口は、大体、地下1階の階層に出るの。だけど運が悪いと、深い階層に出てしまうこともあるのよ。今の私たちにとっては、そっちの方が都合がいいけどね。

ちなみに、切り替わった瞬間に入ったから、他の人に出会う確率は低いと思うわ。

ただ、私達を追って来た人たちは巻けなかったけどね」


さらっと、重大なことを告げつつ、サマーが肩をすくめた。


「うむ、研究所を出た時から、2人付いて来ているな。

そして、広場でさらに4人増えた」


「えっ?」


桜が驚きながら、魔法を使った。

感覚を強化する魔法だ。

そうすると、4人ほどの足音が聞こえた。


「4人くらいいるのはわかったけど、他にもいるの?」


「ええ。

多分、任命官よ。

途中で増えた4人には、心当たりはないけど、何かしらね。

ハンドサインでしか会話してないから、わからないわ」


「なんで、ハンドサインをしてるなんてわかるんですか?」


「質量のあるものは、空間を歪めるの。

それを感知すれば、空間に存在するものは把握できるわ。

まあ、物凄く小さな歪みだし、さっきも言ったように、迷宮そのものも空間を捻じ曲げるから、そこまで当てにはできないけど」


「すごいですね、空間魔法って」


桜が驚いていると、メロスが口を開いた。


「桜、追って来ている内の3人は、お前も知っている奴らだぞ」


「えっ?」


桜のこの世界の知り合いは、ミリーとメイ、シエラとボラン、後はメロスとサマーで全部だ。

心当たりはなかった。


「冒険者ギルドで、我が大胸筋を楽しんだ男たちだ。

どうやら、我が筋肉を忘れられなかったようだな。仕方がない、神殿に連れて行ってやるか」


少し嬉しそうにメロスが笑った。それを見て桜が、半分顔も忘れたチンピラに、同情する。

もちろん、メロスを止めることはしないが。たとえ、メロスの集中トレーニングで死にかけても、因果応報だ。


「ここで待ちましょうか。

ついて来られるとは思わないけど、一応ね。面倒ごとは早めに片付けおくのが1番よ」


「わかりました」「わかった」


そして生贄、もとい、チンピラ3人組+αが現れた。

桜たちの見覚えのない男は、普段のメロスよりは細いが、かなり鍛え上げられた肉体だった。

その男を随分頼りにしているようで、メロスに締め上げられた男たちが、自信満々に喋り出す。


「おう、絶壁の嬢ちゃんよ。

昨日はよくもやってくれたな」


「昨日の借りを返しに来たぜ」


「幸い、あのイカれた筋肉エルフはいねえようだしな。

さあリーダー、こいつらです。やっちまいましょう」


筋肉が引き締まり、脱がない限りは普通のエルフに見える、今のメロスには気がついていないらしい。


「お前が、俺の仲間を攻撃しやがったお嬢ちゃんか。

ふざけやがって」


リーダーと呼ばれている男が激昂する。


「なんの話?」


サマーが不思議そうに首を傾げた。正直、このお馬鹿な雰囲気の男たちと、桜とメロスは結びつかない。


「昨日、私たちに絡んで来て、メロスに締め上げられた冒険者です。

1人、新顔がいますけど」


桜がざっくりと説明をした。


「絡んだだと?

俺たちは命がけの死闘を制して、ドラゴンを狩ってきたんだぞ。

乳の一つや二つ、揉ませるのが世の情けってやつだろうがよ。

俺がひん剥いて教育してやる。

俺たち、ドラゴンスレイヤーズに逆らうってのが、どんな罪なのかってのをな‼︎」


ドラゴンスレイヤーズのリーダーが、桜に飛びかかる。その男をそのままメロスがキャッチした。

釣り上げられた魚のように、男は捕らえられている。


「はっ? なんだテメェ。

貧弱なエルフが、調子に乗ってんじゃねぇぞ。

俺様と力比べしようとなんて、100年鍛えてからにしやがれ」


男がジタバタと暴れだす。

それでもメロスは1ミリも動かない。


「では100年鍛えたこの筋肉、ぜひ味わってくれ。フンッ」


メロスが気合を入れると、筋肉が膨らんだ。

いつものメロスに戻り、ようやく男たちは、メロスがいたことに気がついた。

チンピラ3人の顔が青ざめていく。

ついでに捕まっている男の顔は、筋肉で締め上げられて青くなっていく。

そして、そのまま完全にリーダーは気を失った。

メロスはリーダーをポイっと捨てると、残りの3人をまとめて抱きしめる。


「ゆ、許して」


「ごめんなさい、出来心だったんです」


「やだ、もう大胸筋は味わいたくない」


メロスは彼らの言葉に耳を貸さず、そのまま締め上げた。

男たちはまたしても意識が落ちた。


「ではこの男たちは、神殿で預かろう。

心と体を鍛え、二度とこのような真似をしないよう、聖書の教えを覚えさせる」


メロスは彼らを連れ去ろうとしたが、サマーが肩を掴んで止めた。


「待って。

今、その人たちを連れて行かれると困るわ。

もう地上との出入り口は変わってるはずよ。

そう簡単には出れないはずだし、出れたとしても、帰ってくるのに時間がかかるわ。

また今度にしてくれないかしら?」


「う、む。わかった」


メロスは残念そうに、男たちを捨てた。


「それじゃあ、行きましょうか」


サマーが促すと、桜が引き止める。


「任命官っぽい人たちはどうするんですか?」


「戦うのも面倒だから、そっちは無視していいわ。

たぶん、1番良い時か、悪い時に出てくるから」


「なおさら、早めに手を打った方が良さそうですけど……」


桜が控えめに提案する。

サマーはそれを困ったように笑った。


「桜ちゃん。

相手は一応、国を跨いだ組織よ?

特に攻撃された訳でもないから、何もできないわ」


「あっ、そうですよね。

国連の職員みたいな人たちでしたね。

忘れてました」


桜は恥ずかしそうに笑った。

お読みいただきありがとうございます。

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