邂
凛の家は、天子(五国の頂点である王)の住む雄黄で代々、鍛冶屋をやっていた。
過去形なのは凛が一人前になる前に、父が急逝したので鍛冶屋は廃業となったからだ。今は時たま、ご近所さん相手に見習い価格で剣や包丁の研ぎ直しをしているくらいである。
とは言え、十四歳であり未成年である凛は今、一人ではない。新しい保護者と一緒に暮らしている。
だが、新しい保護者は鍛冶師でも職人でもなかった。子供の頃に会い、一年くらい前に再会した保護者は、特に武術の流派に所属している訳ではないが、五国の裏社会では知る人ぞ知る有名人らしい。
ただ、そんな凜の保護者は人嫌いと『されている』。つい最近まで人里を離れ、山で隠遁生活を送っていたくらいだ。
だから保護者の代わりに仕事はないかと探す為、凜は時折、衛局(民間で運送業と警備業と保険業を兼ねた商売)の建物に行く。そして今は、その帰りだったのだが。
「待てっ、このガキ!」
「待てるか! ってか、んなこと言われて素直に従うのは、ガキじゃなくて赤ん坊だっての!」
怒鳴りながら追いかけてくる二人の男に、凛は怒鳴り返しながらも走り続けた。
そんな凛を、居合わせた通行人達が目を丸くしたり、何事かと顔を顰めながらも避けてくれる。いや、まあ、前者はご近所さんであり、後者も顔を顰めている者達は凛にではなく、後ろの男達に関わりたくないからだが。
下手に人目を避けると捕まった時に厄介なので、わざと通行人のいる街中を走っているが、男達は諦めてくれない。全く、困ったものである。
ちなみに一人ならもう少し早いが、今の凛は自分よりも二、三歳くらい下の──元々、男達に追いかけられていた少年の手を引いて、走っている。
すると怒鳴りこそしないが、凛が手を引いている少年からも話しかけられた。
「なん、で……っ、お前に、関係な」
まあ、凛と少年は知り合いでも何でもない。何なら今日、初めて会った相手なので少年の言い分は理解出来る。
出来るが、凛としてはいかにもガラの悪そうな男達に殴られ、連れていかれそうになるのを見てしまったので放っておけなかった。
「話は後! もうちょっとだから、口じゃなく、足動かせっ」
そう言うと、凛は万が一にでも振り払われないように握る手に力を込めた。そう、あと少しで凛達は目的地に到着するのである。
そして、目的地──保護者と住んでいる自分の家に、ほとんど飛び込む勢いで駆け込んで凜は叫んだ。
「斬月……ごめん、助けて!」




