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灰の降る街  作者: 白玉
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檻を破る鳥

レンが脱出の決行日に選んだのは、ミオが亡くなってからちょうど一週間後の夜だった。



季節外れの濃い霧が、街全体を立ち込めていた。視界は数メートル先も見えないほどで、壁の上の見張り台からの監視も、今夜ばかりは役に立たないはずだった。


レンは、数ヶ月前から密かに調べていたルートへ向かった。


それは、街の地下を流れる排水路だった。工場の有毒な廃水が流れるその場所は、悪臭と毒気のために見張りの兵士も滅多に近づかない死角だった。



排水路の最奥、巨壁の真下には、頑丈な鉄格子が嵌め込まれている。


レンは、毎日の労働の合間に少しずつ盗み出していた古い鉄のヘラを使い、何日もかけて鉄格子の根元の岩を削り続けていた。指の爪は剥がれ、血が滲んでいたが、痛みなどとうに忘れていた。



「……ここだ」



霧の立ち込める暗闇の中、レンは排水路の冷たい濁流に身を浸しながら、鉄格子に取り付いた。


削りに削った岩盤に力を込める。ミオの夢を背負った少年の身体に、火事場の手げんとも言うべき凄まじい力が宿った。



みちみち、と不穏な音が響き、やがて――ガガッ、と鈍い音を立てて、鉄格子が丸ごと一本、外側へとへし折れた。


子供が一人、辛うじて通れるほどの隙間が生まれる。


レンはその隙間に、這いつくばるようにして身体を滑り込ませた。


ドロドロとしたヘドロが顔にかかり、鼻を突く悪臭が肺を刺す。それでもレンは前へ進んだ。一歩進むごとに、あの忌まわしい『灰の揺り籠』の気配が遠ざかっていくのが分かった。






どれほど暗闇の中を這い進んだだろうか。



不意に、目の前の景色が開けた。



排水路の出口から外へと転がり出たレンは、激しく咳き込みながらも、ゆっくりと顔を上げた。


そこにあったのは、冷たい玄武岩の壁ではなかった。


遮るもののない、圧倒的な広がりを持った空間――。霧の向こうに、見たこともないほど広大な大地が、暗闇の中で静かに息づいていた。



上を見上げる。



街の中からは決して見えなかった、本物の夜空がそこにあった。霧の切れ間から、零れ落ちそうなほどの無数の星々が、冷たく、しかし美しく瞬いている。



「あ……あ……」



レンの口から、言葉にならない声が漏れた。


頬を撫でる風は、石炭の匂いもしなければ、工場の熱気も帯びていない。ただただ、冷たくて、どこまでも清らかな、本当の風だった。



「ミオ……見たよ。これが、外の空だ……」



レンは泥だらけの地面に突っ伏し、星空を見上げながら、静かに涙を流した。



ついに彼は、檻を抜け出したのだ。たった一人で。

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