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第二話 御縁

 眞城の今言った『前世』。兄もぴくりと反応したようではあったが、僕は思わずその言葉を繰り返す。


「前、世……?」

「そう、前世。君のお兄さんだって……」


 眞城がそこまで言いかけたところで、突然、けたたましい警報の音が鳴り響く。


 ジリリリリリリリッ……!


 唐突な警報音に、思わずびくりとする。

 この警報は……今まで僕も、何度か聞いたことがある。


「これ、は……」

「魔物出現の警報……かな?」

「……っ、待って、眞城くんは……、」

「ごめん伊月くん。僕、行かなくちゃ」


  僕が状況を飲み込むより早く、眞城は凛とした真顔を残し、会場内へと戻っていってしまった。……が、その直後。会場には警報と、本日の()()()()()を告げるアナウンスが流れる。


『只今、海の方角より魔物が発生した模様です。誠に残念ながら、本大会の決勝戦は中止と致します。各校監督の指示に従い、速やかに避難してください。繰り返します……』


 ……っ、中止!? 延期ではなく???


 『中止』という、無情な響き。僕は驚くと共に、ピシャリと冷や水をかけられたようなショックを受ける。積み上げてきた稽古の日々が、汗が、希望が……得体の知れない魔物の出現ひとつで一つの夢が絶たれたような感覚に、戸惑いを隠しきれない。今までこんなにもがんばって来て、あとは決勝戦だけだったのに……!


 なんで、こんな時に魔物なんか……っ


 ……


 …………だけど、この騒動では……悔しいけれど、そんなことを言っている場合ではない。何よりも人命が大事だ。

 辺りを見回すと、館内も騒然とし、わぁわぁと混乱し始める。


 ……どうしよう。


「晃も(はよ)ぉ学校んとこ戻った方がええんじゃないん」

「……兄ちゃんは」

「俺は、」


 僕のことを気にかけつつも、扉の向こうをじっと見る兄は、冷汗が浮かんでいる。その横顔は、事態の深刻さを物語る。

 ……不安だ。この兄は、確かに剣道の腕は凄いのだが、やや優柔不断なところもある。それも、今手に持つのは()()()()()。本物の魔物と、実際に命のやりとりをするのだ。


 竹刀とは、きっと重みが違う。


 だけどそんな時、先ほど体育館へ戻った眞城が走って出入り口の扉へ向かっていくのを見る。


「……っ、眞城くん……っ」


 眞城の小柄な体は、迷うことなく、風のようにするすると人と人の間をすり抜けてゆく。そしてそのまま、傘もささずに外へと駆けていってしまったのだ。


「……!」


 僕が眞城くんと話したのは、ほんの数秒。

 だけど、彼の圧倒的な存在感とその言葉は、僕の心を掻き立てる。


 ……彼は、何を知っている?

 『前世』とは? ……なぜこれほどまでに、僕の心はその言葉に惹かれ、揺れるのだろう。

 それから……一度会ったことがあるような、えも言えない既視感。それも恐らく、()()()()()()()()()()()


 ……この違和感のその正体を、きっと彼は知っている。


 行かなくては。


「……っ、晃!?」


 兄の声がするより早く、僕は何も持たずに会場を飛び出していた。


「おい、晃っ!!」


『繰り返します、本日の決勝戦は中止といたし……』


 館内では、繰り返し本日の大会中止と避難の案内が流れている。

 大会自体の、中止。ここまできて、こんなにも悔しいことなんてないはずなのに……だけどそんなことすら気にならないほどに、今の僕の心は眞城くんに囚われて離れない。


 僕の、()()は。


 大雨の降りしきる中、試合会場という小さな世界を飛び出して、僕は走り出している。眞城くんが何を知っているのかも、どこへ行ったのかも、わからないのに。


 だけど僕は……なぜか、眞城くんのことを放っておけなかったんだ。

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― 新着の感想 ―
改めて、やはり世界観や設定が秀逸ですね( ˘ω˘ )
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