第16話 『休息』
「いやー、ルイズ。お前、本当に元B級か?A級の俺よりも強いんじゃないか?」
「ほんとに凄かったよ。最後の一撃は、遠くから見てて、やっと目で追える速さだったよ」
アメミットを倒して、肩で息をしている私にリアムとエーデルが駆け寄ってくる。
「無我夢中だったから、よく覚えてないわね」
「けど、昨日、このアメミットからよくエーデル、逃げきれたな」
「逃げ切ったというより、それこそ無我夢中だったから、どう逃げたか覚えてないよ」
「そっか。さてと、アメミットの牙をいただくとしますか」
リアムは絶命して口をだらしなく開けているアメミットの牙を取りにいく。魔物討伐した証として、牙や角を持ち帰ってギルドに提出することで報奨金が出るのだ。
「けど、ギルドにも、この辺りでアメミットが出るっていうのを報告しなきゃいけないよな」
牙を取り出しながらリアムが私に向かって話しかけた。
「そうね。今までもの魔物の出現ポイントを改めないと冒険者の被害が出ちゃいそうね」
これはあくまでも、私の推測の域を出ないけど。レーヌの話と、このアメミットの行動から推測すると、森の中心を縄張りとするアメミットが、森の外側に位置するモンノワール山脈の麓に出るようになったのはエーデルの母親であるレーヌの影響があると踏んでいる。どういう思惑があったかは分からないけど、野生の大森林の魔物のテリトリーをコントロールしていたのはレーヌの存在があったからだろう。
竜人である、レーヌの潜在的な力を神殿を通して、魔物のテリトリーをコントロールしていたというのが、神殿に飛竜華を供えていた人物たちの手によるものだと考えられる。その人物たちが何物かは分からないが、レーヌの死期が近くなり、その影響力が及ばなくなっていたんだろう。この野生の大森林はノースノワール王国の領土内にあるものの、場所柄、どこの国にも統治されていない場所で管理、監督という意味では冒険者ギルドが魔物出現エリアなどを調査などを行っているぐらいだ。
「どうかしたの?」
「なんでもないわ」
エーデルが考え事している私に話しかけてきた。なんにしても、こういう推測の話をエーデルに話すのはやめておこう。
「よし!確保できたぞ」
「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
色々とあり過ぎた1日の終わりを茜色の空が知らせてくれていた――
私たちはあのあと一晩、野営をしてアンファングの街に帰ってきていた。
「これが、街か?母上の話には聞いていたけど、こんなにいるなんてお祭りでもあるの?」
「ないない。これが普通の街の人の数さ。王都なんかいけば、もっと多いぜ」
「へー、そうなんだ」
神殿と野生の大森林で暮らしていたエーデルにとっては、聞いたことはあっても見るもの全てが初めてだった。エーデルは終キョロキョロと街を見渡している。
「ねえ。ホントに私の討伐記録ってことでいいの?」
「ああ、昨日も散々、話したじゃねえか。トドメを刺したのはお前だし。ルイズの冒険者復帰祝いにくれてやるさ」
「ありがと。リアム」
「じゃあ、俺とエーデルは、このカフェで時間を潰しておくからギルドに報告いってこいよ」
「わかったわ、ちょっと行ってくるわ」
ギルドに着いて、アメミットの牙を鑑定して魔物討伐の査定をしてもらっていた。その間に私は今回の依頼の報告書を書いていた。もちろん、エーデルのことは伏せて。ちょうど書き終わったころにリュネットがカウンターに戻ってきたところだった。
「お待たせしました。ルイズさん」
「ちょうど報告書を書き終わったところだったから」
リュネットに報告書を手渡す。
「先ほど、口頭でも仰っていた地下の神殿についてですが、いま簡単にですが、調べてみましたが――」
「――なにもなかったってことね。私も野生の大森林に入ったのも一度や二度じゃないから、そんな気はしていたけど」
私はリュネットの答えを先回りして遮った。リュネットは表情は変えなかったが、ちょっと癇に障ったのか、リュネットが眼鏡をクイっと上げる。
「でも、調べてくれてありがとう」
「業務ですから」
その後に、今後も何か情報が入ることがあれば、知らせてくれると付け加えてくれた。
「あと、これがアメミットの討伐報奨金です。俄かには信じがたいですが、鑑定魔法で調べた結果ですので、まず間違いないでしょう」
リュネットの言う信じがたいというのは、あのエリアにアメミットが出たことだった。
「今後は、魔物出現スポットの調査を見直す必要がありそうですね」
「その際には、この私をご贔屓に」
「ええ、そうさせていただきます。あと今回のアメミット討伐の件を加味してルイズさんの冒険者ランクを再びB級ランクに認定させていただきました」
リュネットは依頼報酬と討伐報奨金、合わせてた金額のお金と一緒にB級冒険者の認識票を渡してくれた。
「そうだったの。ありがと」
「業務ですから。あと、前回いらしていた時に言っていた借家の件ですが――」
リュネットは条件に合った10軒くらいの物件情報の書かれた紙を渡してくれた。
その中から私は3軒に絞った。
「わかりました。この3軒ですね。では、明日の朝に、またいらしてください。内見に向かいますので」
「え?リュネットさんが担当してくれるの?」
私が驚いた反応をすると、リュネットが不思議そうに尋ねる。
「私では何か問題でも?」
「いえいえ、お願いします」
慌てて取り繕って、リュネットにお願いをした。
「では、また明日――」
そう言うと席を立って、カウンターの奥へとリュネットは消えていった。
「ぷぅー食った!食った!美味かったな」
「そうね」
「でも、ルイズの飯には敵わないけどな」
「確かに」
リアムに反応してエーデルも、うんうんと頷く。
「ちょっと、お店に来ておいて、なに言ってるのよ」
私はリアムを肘で小突いた。すまん、すまんと謝るリアム。
「なあ、明日は自宅兼店舗になる物件を見に行くんだろ?」
「そうよ、なんで?」
「ええ!?ルイズも家無しなの?」
「まあ、今は……ね」
エーデルの質問に苦笑いで返事をする。
「本当に魔物食材の食堂を開くつもりなのか?」
「ルイズ、食堂を開くの?」
「ええ、そうよ。エーデルと2人でね」
私はエーデルにウインクをして返事とした。それを聞いたリアムがテーブルに一枚の紙きれを置いた。
「これは――」
そこに書かれていたのは飲食店を開くのに必要な道具を買い揃えることができる店のリストだった。食材の仕入れ業者、調理器具の雑貨屋、内装を手掛ける大工などが書かれていた。
「ルイズがギルドに行ってる間に用意してたんだよ」
エーデルが茶化すように口を挟んできた。
「バカ野郎!言わない約束だったろうが!」
「しらなーい」
慌てるリアムにエーデルが笑って誤魔化した。
「リアム――ありがとう」
「これでも食らえ!」
「やったなー!」
私はお風呂から上がって部屋に戻ってきた。
「ちょっと、もう遅いんだから静かにしなきゃでしょ。他に宿泊客もいるんだから。リアムも一緒になって、はしゃいでどうするの」
「「ハーイ」」
2人は私に注意されて、しゅんとして大人しくなった。
「あっ!?」
エーデルが私の髪をみて、声を上げた。
「ああ、私が髪を下ろしているのを見るの初めてだったわね。いつも、結んでるから」
「あ、うん」
エーデルの反応は、どこか引っ掛かるような生返事だった。でも、私にはそれが何かまでは分からなかった。私たちは、しばらくして私たちは床に就いた。
「んんっ――」
私は、ふと夜中に目を覚ました。うるさいくらい賑やかなアンファングの街は静まり返っている。
「――うえ」
エーデルのベットを見ると、毛布をはだけていた。私はそれを直しにエーデルのベットに近づき、毛布をかけ直した。その時にエーデルが寝言を言っているのに気が付いた。
「――母上」
微かに耳をこらさないと聞こえないくらいの声で、時折、母上とエーデルは寝言を繰り返していた。エーデルの顔を覗くと頬が少し濡れている。寝ながら泣いていたようだった。
私は小さく優しい声で――
「大丈夫、大丈夫」
と、エーデルの寝言が落ち着くまで頭を撫でながら声をかけた。その時に、ふと窓ガラスに映った自分の姿に気が付いた。
さっき、なんでエーデルが私の顔を見て、反応したのか。
私の髪色は明るめの紫髪でエーデルの母、レーヌの銀髪とは色自体は似ても似つかないのだが、下ろした髪の長さがレーヌと同じだということに私は気づいた。
エーデルは明るく振る舞っているが、まだ子供だ。その頑張って我慢しているのを私はエーデルが涙を流すまで気づいてあげられなかった。私は、エーデルの保護者として失格だった。私は、もっとしっかりしなくちゃと、エーデルの頭を撫でながら、想いを強くした。
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