第12話 『穴に落ちた先で』
「いてて」
「大丈夫?」
背中から落ちたリアムに、私は手を差し伸べた。落ちてきた穴を見上げると、とてもじゃないが登れそうにはなかった。
「すまねえ」
「まいったわね。どうやら地震の影響か、なにかで崩れやすくなっていたのかもね」
「らしいな」
元の祠の場所に戻るのは諦め、洞窟は先に進めそうだったので進むことにした。
「グルルー」
コボルトがスコップを横に振り回す。私はそれをバックステップでかわす。
大振りになった隙を突いて、私はコボルトの後ろに回り込み、コボルトが態勢を立て直すべく振り返る前に背中から心臓をめがけて一突きする。コボルトは口から血を垂らすと力なく倒れ込み絶命する。
「鮮やかだな」
「これでも元B級冒険者だからね」
「この洞窟は俺が大剣を振り回すには、やや狭いから助かるぜ」
私が倒れたコボルトをみると――
「このコボルト。恐らくレッサーコボルトね」
レッサーコボルト――コボルトは鉱山に好んで群れをなしている獣人型の魔物だ。その群れから追い出されたコボルトは群れの中にいるコボルトよりも力などが弱く小さめなのが特徴だ。
「でも、コボルトがいるっていうことは、モンノワール山脈のどこかの鉱山に繋がっているのかもな」
「まあね。はぐれだから、鉱山までは距離があるかもしれないけど――」
私が言い切る前にリアムが遮ってきた。
「出口があるってことだろ?」
「そういうことになるわね」
しばらく行くと縦穴を見つけた。そこを覗き込むと一際、広い場所に出た。ここで一息つくとしよう。
「おお、狭苦しかったから羽を伸ばせるぜ」
「そうね。ここは見通しもいいし。天井の高さもあるから、ここで食事にしましょ」
「まじか!?いやー腹減ってたんだよな」
周囲を警戒しつつ、リアムは火を起こすために燃やせるものを探す。コボルトがいるから、結構そういう木材とかは結構、転がっている。私は料理の準備に取りかかる。
玉ねぎ、人参をみじん切りにする。朝に使ったワイルドボアの肉の余りを取り出す。朝のようにメインとして使うほどは残っていない。これを野菜よりは大きいひとくち大の大きさに切る。これでワイルドボアの肉も使い切った。
「さて、メニューはなんだ?まさか、さっき倒したコボルトのステーキとかじゃないよな?」
「そんなんじゃないわ。文句あるなら食べなくてもいいんだけど」
「冗談だよ、冗談」
「そうね。いい機会だから、ちょっと伝えておくわね――」
そう断りを入れて、私は説明を始める。それは魔物食材についてだ。魔物食材は、魔物だったら何でも魔物食材になるかと言われれば答えはノーだ。分かりやすく説明すれば、基本的には獣系の魔物は食材になる。バーゲストや、それこそアメミットだって食材になる。だが、コボルトやゴブリン、オークなどの獣人などは食べれない。こういう魔物は死んでしまうと、即座に全身に魔素が広がってしまうようで、食材にはならない――と長々と私はリアムに説いた。
「そうなのか。なるほどな」
「でも、逆に食べれなそうって思うような、昨日食べたスライムだったり、シャドウデーモンやスモッグとかは食べれるんだから不思議よね」
背中を向けて焚火に火を点けようとしていたリアムが驚きのあまり、振り返る。
「え?シャドウデーモンとかスモッグ食べれるのか?」
「ええ、なかなか美味しいのよ」
「すげえな。魔物食材」
「そうなのよ。さあ、私の準備はできたわよ。そっちは?」
「おお、こっちもだ」
「さあ、いくわよ!あなたに再び、命を吹き込んであげる」
鍋にバターを入れて溶けたら、切り出した玉ねぎと人参を鍋に入れて塩を加え、炒める。ある程度、野菜に火が通れば、生米を投入する。それを見たリアムが反応する。
「お、ご飯ものか。今回もリゾットか?」
「そうじゃないわ。まあ、出来上がりを楽しみにしてて」
私は人差し指を振って、リアムの予想を否定する。鍋に今度は水を入れていく。そして、中心までしっかりと沸騰したら蓋をして、火の弱い所に鍋を置いておく。
「あ、そうだったわ」
私はエーデルと別れた滝の近くで山菜を取っていたのを思い出した。それを荷物から取り出す。ランプという山菜で、見た目は山菜というよりも葉物野菜といった形をしている。ほうれん草ほど葉は大きくないが、一番近い形をしている。しかも、このランプという野菜は別名、ワイルドガーリックとも呼ばれるもので、味や香りはその名の通り、ニンニクに似たものとなっている。これをざく切りにしておく。
そうしたら、鍋の蓋を取るするとお米がしっかり足りている。バターが入っていることで普通に水で炊くよりもパラパラとなっている。
これに先ほどざく切りにしたランプを入れて、ワイルドボアの肉も入れる。そして、あとは豪快に鍋を煽る。
ジュワアアアア!
葉物のランプは火を入れ過ぎたらクタクタになってしまう、ワイルドボアの肉も既に火が入ってるから温め直す程度にして、素早く煽って器に盛って黒胡椒を多めに振りかければ――
「ワイルドボアとワイルドガーリック。2つのワイルドが織りなすシンプルで豪快なワイルドガーリックピラフの完成よ!」
おおーと声を上げて拍手をするリアムをみて私は我に返った。
「なんか自分の世界に入ってわ。ごめん」
「いいぜ!みてて楽しいし、美味そうだからな」
さっそく器に盛って2人で食べ始める。
「うおおおおお!」
リアムも私に当てられたのか勢いよく声を上げる。
「うめぇ!具材はシンプルなのに味はしっかり濃い目!いや、米は味控えめで、肉と葉物を口に入れるとそれが混ざり合う感じだ」
これだけ喋りながらも、食べるのは止まらないリアム。
「しかも、このランプっていうのがホントにニンニクみたいな味と香りだけど、しっかり葉物のシャキシャキ感はあるってのも良い!」
「このパンチがある胡椒との相性もいいでしょ?」
「そうそう。派手さはないけど、シンプルに力強さがある感じな」
2人で、そんなことを言いながらガーリックピラフをペロっと平らげた。
食事と休憩をとった私たちは再び、洞窟の奥へと歩き始めていた。
「いやーあのランプっていうの野菜?山菜?初めて食べたけど美味かったわ」
リアムがガーリックピラフの味を思い出してにやけている。
「よっぽどだったのね」
「おう、よっぽどだったぞ」
「まあね。あんまり出回ってるものじゃないし。こういう山とかに映えてるから珍しいんだけど。ちょっと気をつけないといけないのよ」
「ん?気を付ける?マンイーターみたいに襲ってくるとかか?」
マンイーターは植物型の魔物。それを引き合いにしてリアムは茶化してみせた。
「そうじゃないわ。でも、ある意味、マンイーターよりも恐ろしいかもしれないわね」
私はなにか怖い話をするかのような言い方で話し始める。
「リアムもムゲットっていう花は知っているでしょ?」
「ああ、知っているぜ。花が小さな鈴みたいなのが沢山ついてる花だよな」
「ええ、そのムゲットなんだけど。花が咲く前の状態が、さっき食べたランプに似てるのよ」
「それで間違って食べちまうってことなのか?」
「そうなのよ。花にも根にも葉にもあるからタチが悪いの」
リアムは怖いなと小さく呟く。
「こういう山とかに生えてるから冒険者は特に気を付けなきゃいけないのよ」
リアムはなるほど、そうだよなと同意の頷きをする。
「しかも、白い花のムゲットの毒の症状は腹を下すとか、めまいが起こるっていうものなの」
「美味しいランプだと思って腹を下すのは地獄だな」
リアムは、あからさまに嫌な顔を浮かべた。
「しかも、白い花の中心が赤いおしべがあるムゲットは死のムゲットと呼ばれて、死に至ってしまうの」
「そこまでなのか」
私は無言で頷く。
「せめてもの救いは、ランプを知っている冒険者が少ないから、そもそもムゲットとランプと間違えて食べようっていうのが少ないってことかしらね」
「そうだな、俺も冒険者やって長いが初めて食べたもんな」
そういう話をしながら、洞窟を進んでいた私たちは、またひらけた場所に辿り着いた。さっきのキャンプ地にした場所よりも広い。
「うへぇ、モンノワール山脈の地下にこんな場所があるんて知らなかったぜ」
リアムは、その広さに冒険心をくすぐられてるのか、ワクワクしながら周囲をキョロキョロと探索している。それ以上に、今まで通っていた洞窟のエリアとは、あきらかに雰囲気が違っていた。
私は冒険心をグッと抑え、むしろ警戒心を高めて、いつでも動けるように神経を尖らせていた。
「あれ?なんだ?」
先を行っていたリアムが驚きの声を上げた。その声に引っ張られるようにリアムのいる位置まで駆け寄る。
すると、私たちの目の前には小さな神殿のような建物が目の前にそびえ立っていた。
私たちは、そこに向かって歩き始めた――
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回のエピソードに出てきたランプは行者にんにく、ムゲットは鈴蘭です。この食べ間違いは実際、あったりするエピソードです。
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