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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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別タイトルはノーサンキューで



 商業都市オルテンシア。

 ゲームだとここに来る事はなく、精々仲間の会話で名前がちょっとだけ出る程度だった。行こうと思えば行けなくもないが、ゲームのオルテンシアは商業都市という割に品ぞろえは他の――それこそメソン島の店とそう変わらず、わざわざ時間を経過させてまで行く程のものでもないといった存在だ。

 蒼碧のパラミシアの地図では西の大陸のギリギリのところに表示されているが、別に西の大陸の果てというわけではない。この先にだって色々な街があるがゲームではその先が表示されていないだけだ。


 数日かけてオルテンシアに辿り着いた頃には、道に雪が薄っすらと積もるようになっていた。とはいえかなり降ったとしてもある程度溶けてしまうので、雪国のような防寒対策が必要な程でもない。気を付けるべき事といえば魔物が現れた時にうっかり滑って転ばないようにする事だった。

 ゲームではあまりパッとしない商業都市ではあったが、いざ実際に訪れてみるとゲームの印象とは違いすぎて違和感が半端ない。まず大きい。都市なんだからそりゃそれなりの規模であるのは当然なのだが、ゲームの印象のせいでもっとこじんまりしていると思っていたのだ。


 例えるならば個人でやってる商店を想像していたら高級デパートだった、くらいの差がある。

 ただのファミレスだと思っていったらドレスコードが必要なお店でした、みたいな心臓に悪い驚きだった。


「ほら、ぼーっとしてると危ないよ」

 テロスが腕を引いて歩きだす。

「どこに行くの?」

「まず館繋ぐんでしょ? 気になるのはわかるけど見て回るのはあと」

「はーい、おかあさん」

「キミみたいなアホ娘産んだ覚えないんだけど。そもそも産めないし」

「テロスって何気に段々私の扱い雑になってきてるよね。昔は丁寧だったってわけでもないけど。

 目の細かい紙やすりから目の粗い紙やすりに変わったくらい?」

「わけわかんない。何、どこかに頭でもぶつけた? もう一回叩けば治る?」

「やめて、余計悪くなっちゃう」

 繋がれていない方の手で頭を庇うようにすると、テロスはじとっとした視線を向けて露骨に溜息をついてきた。

「これ以上悪くなるってまだ底辺じゃないの……?」

「ちょっと、何それ既に底辺だと思われてた!?」

「底辺っていうか……そうだなぁ、頭の悪い大型犬くらいの認識」

「馬鹿な子ほど可愛いとかいうあれか」

「キミはそう思うんだね。生憎ボクは猫派なんだ。犬とかあれわけわかんない。警戒心なさすぎて狼系の魔物見ると犬ってなんだっけ? ってなるよ」

「それはテロスが犬に好かれる体質なだけでは……?」


 犬にだって警戒心はある。前世ならともかくこっちの世界だとなかったら死ぬ。


「そなたらのその弾みようがない会話はなんなんじゃ……あとこっちじゃからな。はぐれるでないぞ。正直ここではぐれたら妾そなたらを見つけられる自信がこれっぽっちもないからの」


 少し後ろを歩いていたメルが軌道修正を試みた。こっちと言われても何だか入り組んだ道に入ったようで逆に迷っているのでは? という気になってくる。スカートの裾をくいっと引っ張ってくるメルには悪いが、本当にこっちで合っているのかと問いたい。


 オルテンシアの街並みは、正直に言うとわけがわからなかった。

 まずそこかしこに店があるのは商業都市だからね、の一言で片付く。けれど何の店かわからないものも多かった。和風の建物があったかと思えばすぐ近くに中華風の建物。前世の教科書で見たような古代ギリシャ風の建物の他にあれ本当に建物? オブジェとかじゃなくて? と言いたくなるような物もちらっとだが見えた。普通の露店や、木と藁を使って作られた簡易テントのようなものまである。

 雑多。ごちゃ混ぜ。ちゃんぽん。ユーリの脳内にそんな単語が流れていく。無国籍。多国籍。どう言えばしっくりくるかもわからない。


 だからだろうか。

 そんな統一性のない建物に囲まれている星見の館を見てついホッとしてしまったのは。周囲の建物と見比べるとこれはこれで浮いてはいるのだが。

 ここに来るまでの間に何だか目がチカチカしてきた気がしてそのまま館に引きこもりたかったが、そういうわけにもいかない。せめて自分たちが利用するであろう店の位置くらいは把握しておかないと、後で困るし迷子になってしまう。


 道具屋に武器屋に防具屋というゲームでは確実にある店以外にも、アクセサリーショップだとか本屋、服屋に食料品店、薬草専門店といった一般向けの店やら専門店的なものやらが規則性もなく並んでいる。

 カフェらしき店の隣には料理屋があるが、落ち着いた雰囲気を提供していそうなカフェの横はとにかく派手な中華料理系のお店である。だが食事処の店はそこだけが微妙な感じだったものの、それ以外はある程度カテゴリ分けがされているように見えた。普通に食事をする所から徐々にお酒の取り扱いがメインになっているような店になり、そこから更に進むと娼館に続いている。


 ゲームではそういうお店は特にあるとも言われていなかったし無いとも言われていなかった。そもそも主人公が乙女だから、あってもそういう場所はサクッとカットされているのだろう。

 王都にもこういうお店はあったような気がするが、目立たずひっそりとしていたのであまり記憶に残っていない。転生した時に性別が男になっていたら自分もお世話になっていたんだろうか、と考えてみるがさっぱり実感がわかなかったのでこれ以上は深く考えない事にする。


 他にもなんだかわけのわからない店があったけれど、買い取り専門店だとか解体専門店だとかそのうち利用しそうな店だけチェックしていく。特に何かをするでもなくぶらぶらする結果になってしまったが、それだけでもかなりの時間を使っていたようだ。


「のぅテロス、あの一際大きい建物はなんじゃ?」

 商業都市初心者であるユーリではなく、過去に訪れていた事があるらしいテロスにメルが問いかけるのは当然の流れだった。あれ、と指さされたその建物は、どこからどう見てもビルだった。そこだけ現代感が凄い。


「あぁ、あれ? 確かデパートだったかな。アイトリアデパート……って名前だったと思う。食料品とか生活用魔導具とか専門店には劣るけど幅広く商品扱ってるから商品に拘りとかがないなら便利なんじゃない?」

「えっ!?」

「なに、えっ、て」

「アイトリアデパート……? ホントに?」

「何、どうしたのさ。気になるなら行こうか?」

「心の準備が必要なので明日にしたい! 今日はもう帰ろう」

 明らかに様子のおかしいユーリにテロスは怪訝な眼差しを向けてはきたが、ユーリにとってはそれどころではなかった。とにかく、早急に戻りたい。戻ってメルと情報共有したい。

 メルもなんとなく把握したのだろう。何とも言えない目をしていたが、今この場で追究するつもりはないようだ。というかここでそんな事をすればテロスに色々と突っ込まれて喋らなくていい情報まで吐かされそうな気しかしない。


「そうさな、何か人多すぎて妾も少し疲れてきたし、今日の所はもう帰って休みたいのじゃ」


 メルがそういうなら無理矢理今行く必要もないだろう、とテロスも判断したらしくひとまずは戻ることになった。




 さて、戻ってきてからのユーリの自室である。

 何とも言えないしょっぱい表情をしたメルが、ベッドに腰かけるユーリに向き合うようにして椅子に座る。


「蒼碧のパラミシアにおいてアイトリアデパートとやらは特に名前も出ておらぬ。そもそもあのゲームで商業都市に行けてもその中での行動範囲はほとんどないといってもいい。

 けれどもユーリはそのデパートに対して知っておるのじゃろ? 今度は一体なんなのじゃ?」

「あ、メルもそこまで把握してくれてたんだ。手間が省けるぅ~」


 などとあえて軽い調子で言ってはみたが、何だか今にも闇堕ちしそうな顔をされたので慌てて姿勢を正す。


「ごめんて。でもちょっと茶化さないと私の心が死にそうだったんだ……ところでメルは藍緑エクエルドの存在を知らなかったって事は雄黄のファーブラについても知らなかったりするんです?」

「……知らぬな。もしかしてそれもゲームか?」

「うん、ジャンルとしてはアドベンチャーとかそっち系なんだけど、あのデパートが舞台になってまして」


 ゲームが出た時期としては、藍緑エクエルドの次かその次あたりに出たタイトルだったはずだ。タイトルからして何となくシリーズなんだろうなと思ってはいたが、大陸の名前も別に出てこなかったしシエロヴェーラという単語も出てこなかったので、シリーズ装った別物という認識が一部のプレイヤーの間で根付いている。


 それというのも他タイトルと比べて雄黄のファーブラだけがジャンルが違ったのだ。他タイトルは一応RPGと言っていいものだったが、このゲームはアドベンチャーノベルとかそういう系統だった。話の内容もどちらかというと脱出ゲームに近く、キャラと掛け合いをしつつ閉じ込められてしまったデパートから脱出するという内容だったはずだ。

 人によってホラー要素があったとか恋愛要素があったとか感想が本当にそれ同じゲームの話なんです? と言いたくなる程違い過ぎてはいるが、大丈夫、ちゃんと同じゲームの話ですよ。


「ふむ、つまりその、雄黄のファーブラに出てくる登場人物と遭遇する可能性がある、と?」

「可能性はゼロじゃないけど、アリスたちの時みたく別タイトルがはっじまっるよーされると地味に厳しい。

 のでできれば雄黄のファーブラはもう原作終了してるかまだ始まってないけど開始まであと数年あるとかそういう方向性でお願いしたいっていうのが切実な願いですね」


 あのゲームはRPG方式の戦闘がなかったけれど、バッドエンドというかデッドエンドはそれなりにあったので安全とは決して言えない。ゲームではないので仮に巻き込まれたとしても戦う手段はある。あるけれど、相手の戦闘能力とかそういうのが完全に未知数なのだ。RPGならレベルとかで大体の目安を計れるのだが。


 登場人物はマジックアカデミーに在籍していたり、卒業してそのデパートで働いている人物だ。戦う手段を持っていない一般市民でもない相手が、選択肢次第で容赦なくデッドエンドするような展開に巻き込まれるかもしれないと考えると心の準備と称して時間をもらいたいと言うのは我侭でもなんでもないとすら思う。

 ちなみにゲームが開始されるのは閉店後のデパートだ。時間にして当然夜になる。


「成程、それなら明日行くにしても朝か昼なら大丈夫そうじゃの」

「できれば時間軸的に遠い未来の話であってくれればいいんだけど。登場人物とエンカウントしなくて済むし。過去にあった事とかだと聞きたくない話聞いちゃいそうだからね」

 流石に不吉な話題は聞かされる事もないだろうと思うが、学校の怪談のようにどこかでぽろりと耳に挟む可能性があると思うと、割と本気で未来の話であってくれと思ってしまう。


 ノーマルエンドを迎えた後の出来事だったとして、それはそれで嫌な話になりそうではあるのだが。

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