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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
三章 フラグがなくとも事態は進む

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何をするにもまずは金



 ベルンシュタインと言うのはデュシス大陸にある港町から出て最初に辿り着く街である。レンガ造りの建物が多く、外観は一見すると古く見えるが実際はそうでもない。王都にある魔術学院と姉妹校でもあるマジックアカデミーが建設した研究施設に、かなり大きな冒険者ギルド。それ以外にも商人ギルドを含めた組合、協会といったものがあるためか、人の出入りはかなりのものだ。


 到着した直後から雪が降り始めたが積もる程ではないだろう。


 蒼碧のパラミシアでベルンシュタインの街というのはそこまで重要な場所ではない。ギルドルートでデュシス大陸に来た時に必ず立ち寄る流れになるが、イベントそのものは王都に比べれば多くもないし、学院ルートでこちらに来ても同じくだ。

 ゲームにおけるこの街の存在は、この大陸の情報をさらっとプレイヤーに流すだけのもの。

 という認識で大体間違ってはいない。



「――というわけでやってきました西の大陸! 来たのはいいけどどうしよう!?」

 早速星見の館に戻っての第一声はこれだった。とりあえず各地の星見の館を繋げよう、という目的だけで行動した結果、それ以外の目的は特にないという事実に何ともしょっぱい気持ちになってくる。


 目的自体がないわけではない。ノーマルエンドを迎えるために世界崩壊を食い止める、というのが一番の目的ではあるが、そのためにじゃあどうするかというと現時点ではどうしようもないのだ。

 この先の展開を知っているのならばあれこれ食い止めたい事というのはそれなりにあるはずなのだが、いかんせん現時点でそれをできるかというとタイミング的に無理、という事になってしまう。

 原作開始前に死んでる人を助ける、というネフリティスやらセシルのような案件があるならともかくこの大陸でそういったエピソードがあった記憶はユーリにないし、メルもなかったと思うと言っていた。


 やるべきことは他にもある。それは例えばメソン島のダンジョン探索であったり資金調達であったり。しかしそれにばかりかまけているわけにもいかない。まずはダンジョン探索班と通常通り各地の館を繋げる班とで別れて、資金調達といった事はお互いそれぞれできる範囲でやっていこうという流れになっている。ユーリは当然館を繋げる方だ。


 ベルンシュタインから次の町、もしくは村あたりに行ってもいいのだが天気が悪くなってきたためできれば悪天候の中外を出歩くのは勘弁したい。

 悪天候でテンションが上がるのはほんの一時だけで充分である。台風が近い時の学校帰りとか。


 さて、転生してしまったユーリシアではあったが。現代知識を活用してチートかな!? 状態でお送りする資金稼ぎというのはほぼできないというのが確定している。それというのもシエロヴェーラ、見た目は確かに典型的なRPGの世界だが、物とかシステムとかは現代とそう変わらなかったりするのである。電気ではないがマナで動く機械とか。ご家庭だって冷蔵庫はあるしレンジもあるし、洗濯機だってある。それなりにいいお値段なので持っていない家も確かにあるが。

 何ならパソコンだってあるのだ。携帯電話とかネット系のあれやこれやはマナ濃度が各地で違うせいで繋がらずにそこだけ使えないという、ユーリからすればそういう部分もっとご都合主義きかせて! と言いたくなる状況ではあるが。

 マナによって世界は発展しているが、同時に色々と阻んでいるのはマナだった。便利なのはマナのおかげ。不便なのはマナのせい。


 マナを根絶させて現代のように電気で動く機械とかが主流になれば最終的にネットも携帯も使えるようになるかもしれないが、そうなるまでに果たしてどれだけの時間がかかる事やら。そもそも現状でこの世界の住人はそこまで不便を強いられているわけではないのだ。マナを根絶するような事になった方が住人としては困るだろう。


 現代にあったものを作って売って一儲け! という作戦も無理がある。まずユーリは前世普通の一般市民だった。特別な資格があるわけでも、物を作るのがとても得意とかそういう事もない。詳しい知識もなかったので、自分で作るというのは無理。ふわっと記憶にある便利そうなものに関しては、そういうのを作ってくれそうな人物がいれば話は違ってくるかもしれないが今の所そういうのとも無縁である。

 料理も何だかんだこの世界、多種多様にあるので新しいメニューを作って流行させようというのも少しばかり難しい。


 現代知識を活かしたチートもできない転生生活なんて! と思わなくもないが、それができる状況というのは要するにそれなりに不便な生活でもある。正直食生活が貧しいのは耐えられないので、そこそこ不便ではあるが概ね以前と似たような暮らしができているというのは大助かりだった。



「資金調達ならとりあえず、折角アナトレー大陸とデュシス大陸が繋がったんなら、交易とかどう? 王都だと畜産系農産系はあるけど魚介とかはちょっと不足しがちだし」

「そうね、行商人がアイテムボックスに入れて運んでくるのだって限りがあるものね。川のお魚はこっちだとそれなりに食べるけど、海のお魚は滅多に食べられないものね。……あら、そう考えると今なら簡単に海の幸を満喫できてしまうって事……?」

「はっ、言われてみればそうですね! 昔一回だけ食べたたこ焼きとかもっかい食べたいんですけど、今ならそれが簡単に叶ってしまうです……!?」


「海の幸って……別にそれ、メソン島でもいけただろ。一応あの島周囲海に囲まれてるんだから」

「でもメソン島って交易で魚介類とか他の大陸に、って感じの事あんまやってねーです。一応各都市巡ってみたけど、何かあの島ぶっちゃけそこだけで完結してる感あるです」


 ネフリティスたちの言葉につい口を挟んでしまったウォルスに即座に噛みついたのはグラナダだった。


 デュシス大陸へ行く前にどうにかメソン島の他の都市の館とも繋げておいたのだが、確かにグラナダの言う事も一理あった。政府の方針なのかどうなのか、あの島は何というか他の大陸と交流がなくなったとしてもそこだけでどうにかしていこう、というのがうっすらと感じ取れてしまう程度には閉塞的だ。

 ある日いきなりメソン島、鎖国しますとか宣言されてもあぁやっぱり、で納得してしまえそうな程に。


「そういえばアイテムボックス持ちの人って今どれくらいいるのかしら?」

 ふと思い出したようにネフリティスがそんな事を言う。


 アイテムボックスは魔導具の一種だ。存在だけならこの世界の誰もが知っているだろう。

 所有者の周辺の亜空間にアイテムを収納するもの。それがアイテムボックスである。許容範囲は物によって違ってくるが、大容量であればあるほど入手するのは困難であるとも言われている。

 ボックスと言われているが、売っている物を見るとそれはどちらかというと符である。アイテムを収納するための術式が記されており、所有者となる者がその符の術式を正しく展開させる事で符は体内のマナと溶け合うように融合。そうしてアイテムボックスが使えるようになるというわけだ。


 符に書かれている術式を写しまくれば簡単に量産できるのでは? と思えるが、符の素材がそもそも貴重であり、そこに術式を書き込む者の力量によって同じ術式であっても容量が異なる。更には一度融合してしまうと、他の者に譲渡もできない。


 ちなみにユーリはゴードンからアイテムボックスを譲られたが、ゴードンが所持して余っていた符を貰ったに過ぎない。ちなみに女神から力を授けられた時に何気にアイテムボックスも追加されていたらしく、気付けば容量がとんでもない事になっていた。てっきりゴードンが凄い符をくれたのだとばかり思っていたのだが、割とつい最近その事実に気付いたというのはまぁ、今更すぎるオチがついたというべきか。


「ユーリは確実に持ってるですよね。魔物の解体とかでどんだけ溜め込んでるんだって思った事もあったくらいですし」

「うん、まだ解体全部終わってないんだけどね」


 清々しい笑顔で言う事ではないのだが、終わる前に更に魔物を倒して増えていくのでどうしようもない。食料、というか肉には困らない生活が約束されてはいるがいささか栄養の偏りが気になってくる。


「あの、ワタシも持ってます。あまり沢山入らないやつだけど」

 そっとセシルが手を上げた。長い事放浪生活をしていたセシルは確かに出会った時にこれといった荷物は持っていなかったが、アイテムボックスがあれば手ぶらに見えてもおかしくはない。

 そうして確認した結果、テロス、セシル、ウォルスがボックス持ちだという事が発覚した。

 恐らくルーチェも持ってはいるのだろうけれど、未だ目覚めないため本人から確認できていないので仮とか暫定とかいう言葉がつけば彼も所持していると言える。


 ダンジョンでドロップアイテムを回収したり食料を持ち込んだりという事を考えればアイテムボックスを持っている相手が最低一人は欲しい。ダンジョン探索はウォルスやアリスがメインとなって取り組む事になるので条件は満たしている。

 そこに興味を示したグラナダやセシルが参加する事になり、何だか気付けば随分な大所帯だ。


 対するこちらはユーリ、メル、テロス。完全に初期メンバーだった。

 サフィールはルーチェの看病を。ネフリティスは館を無人にしないための留守番。ルーチェが寝たままなら外に出ても大丈夫そうだが、いつ目が覚めるかわからないのでルーチェ以外誰もいない時に彼が目覚めれば、うっかりガーゴイル復活の危機である。


「人数の比率がおかしいけど、まぁ仕方ないか。交易とかそこら辺はそのうち考えるとして、とりあえずどこに行けばいいかな?」

 デュシス大陸はアナトレー大陸と比べると山や森が少なく平原が多い印象だ。そして街や村が多く存在している。ストーリーに関わる重要なダンジョンが二つ程あった気がするが、今すぐ行ってどうにかなるとも思えない。

 適当に近隣の館を繋げるだけ繋いだら他の大陸に行くべきだろうかという考えもよぎる。


「それならとりあえず商業都市に行っておきたいんだけど。交易をするかどうかはさておき、手に入れた魔石とか素材とか売る事を考えれば気軽に行けるようにしておくのはいいんじゃないかな」

 テロスの発言にそれもそうだなと思う。ゲームなら手持ちのアイテム全部売ってお金にする事は何も問題のない行為だが、現実問題店にだって資金の上限がある。とてもレアなアイテムを売りに行ったとして、買い取りたいけどお金がなくて買えない……! という商人だっているのだ。

 商業都市なら商人ギルドも活発だし、店も沢山ある。物の売り買いをするのであれば行っておいて損はない。


 こうして次の目的地が決まったのだった。

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