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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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遠い日の思い出



 ――気持ちとしては曇天どころか土砂降りだったが、その日はそんな気持ちとは裏腹にとてもいい天気だった。どこまでも続くかのような蒼穹。見上げた空はどこまでも続いていたというのに、何故だろうか。まるで監獄の中にいるような気がした。


 葬式だった。普段顔も合わせないような親族も集まって、誰も彼もが俯いている。泣いている者は思ったよりもいなかった。薄情というよりはきっと、泣きたくても泣けなかったのだと思う。心の中は暗澹たる有様だったのに、表面上にそういうのは一切出てこなかったのがここにいるのだ。自分と同じようなのが他にもいたって不思議ではない。


 喪主をやったのは誰だったか。父か、母か。いや、従兄弟……? 何故だろう、思い出せない。

 亡くなったのがじじい――祖父である事は確かなのだが。


 自分にとっての祖父は人生の師であり悪友だった。本当は自分は祖父に及びもしない事はわかっていたが、祖父はそれでも自分と目線を合わせて、同じ場所に立って色んなものを見せてくれた。その時は無意味だと思っていた事ですら、後になって思い返すと必要なものだった。

 時々、本当に時々とんでもない悪戯をしてくる事もあったし、身内の苦言も聞き流しにやりと笑うその様は一体どこの悪党だと言わんばかりで。

 けれども、そんな祖父であったが自分にとっては良き祖父であった。善人かと問われると首を傾げたくなるが、別に悪人でもなかったはずだ。


 その祖父の葬式だった。けれど――



 どうしてだろう。見送った気がしないのは。覚えていないからだろうか?

 何故、覚えていないのだろう。気付けば知っている風景はどこにもなくて、故郷が故郷に見えなくて。

 家族も友人も、どこにもいなくて。

 足元から世界が崩れ去る感覚に見舞われている最中に、遠くで誰かの話し声がした。知っている声、だと思う。確信を持てないのがもどかしいが、知っているはずだ。


 そうして声の方へ意識を向けて――


 アリス・エレミアはこれが夢だった事を知る。


「おはよう?」

「ん? あぁ、おはよう。最悪の目覚めだ」

 何故か疑問形で言ってきたのは確かユーリだったか。口にしてからまるで彼女に八つ当たりをしたようだと思ったが、ユーリは特に気にした様子もない。夢見が悪かった事に気付いたわけではないだろう。けれど、自分が寝ているこの状況を考えれば最悪の目覚めと言ってしまってもおかしくないのかもしれない。


 椅子を二つ、少し距離を開けて並べた上で寝ていた身体は休まったとは言い難い。起き上がる時に一度落下する形になってしまったが、普通に起き上がろうとすれば多分椅子と椅子の間にはまるような形になって余計面倒な事になっただろう。ロクに寝返りも打てない状況だったせいで、動くたびに体の内部からばきばきという音が聞こえてくる気がする。首を軽く回すようにすると、ばきんっと一際高い音がした。


 昨夜宿に戻ると言って帰っていった二人は確か、情報収集をすると言っていたはずだ。ならばここに来るのは遅くても夕方か夜、下手をすれば更に次の日だとばかり思っていたのだが。時計を見るとまだ昼前だ。限りなく昼前、という感じなのでもう昼って断言していいと思うけれど。


 ただ昼まで寝ていた、というと何だかとても一日を無駄にした感じがするのでギリギリであっても昼前だとアリスは断言したい。ウォルスも似たようなものなのか、ルーチェ相手に昼前だと主張していた。



 差し入れられたアボカドシュリンプサンドを食べながらルーチェの話を聞くと、何でも彼らはとんでも大冒険をしてきたらしい。だからこそてっきり既に昼を過ぎてもおかしくないと思っていたのだそうだ。

 アリスが突っ込まれていた棺桶に関してアリス自身、それについてはどうでもいいと思っている。あれが時を停めて生物を長期保存するような代物であったとしても、一度限りしか使えないのかとか何度でも使えるのかとか、そういった興味はアリスにはないのだから。

 というか多分、あの棺にただ入れるだけでは恐らく効力は発揮されないだろう。恐らくアリスを入れた何者かはあの後何らかの術式を用いたはずだ。アリスに対してそんな事をやらかしそうな心当たりはいないわけでもなかったが、今それを考えてもどうしようもない。そいつが生きているなら話は別だが。


 ともあれ、棺桶の先に空間からしてぶっ飛んだ巨大なダンジョンがあったという。

 何それ面白そう。思わずそわっとしたが、空気を読んで真面目な顔をしておいた。普段はそうでもないが一応アリスは空気の読める女である。


 けれどもアリスを見つけた張本人でもあるちびっこたちは、何だかとても微妙な顔をしていた。どうにもルーチェの証言と、ちびっこたちの証言とが食い違う。アリスからすれば発見した場所とかどうでもよくない? の一言に限るのだがそうもいかないのだろう。

 ルーチェの言葉をウォルスは真剣に聞いている。これでルーチェの壮大な冗談だったら完全に騙されてるわけだが、冗談ではない空気を感じ取ったので余計に話がこんがらがっているのだろう。こういう冗談だとしか思えない話が冗談ではなかった場合というのは、往々にして面倒な事にしかならないのである。


 ルーチェの言葉に時々補足してきたメルはともかく、ユーリは口数少ないどころかほとんど何も言わなかった。恐ろしい目に遭って言葉を無くすのとはまた違う。何かを考え込んでいるのは確かなのだが、彼女が何を考えているのかなんて当然アリスにわかるはずもない。


「悩んでても仕方ないし、だったらその教会? 見てくればいいんじゃないのか?」

「おまえな……場合によっては政府の人間と遭遇する可能性大すぎるんだが」

「そうか? そのルリってやつが戻ってればともかくそうじゃなかったらその教会放置状態なんだろ? ルリとやらが戻ってこないと騒ぎになるにしたってガキじゃないんだから、今日から既に騒ぐ事とかないだろうし。

 仕事で重要な会議があって集まらないといけない、ってんならともかく」

「仮にルリが無事に戻ってこれたとして、そうだとすればあの教会は別の意味で監視される事になるぞ」

「遠くから確認して大丈夫そうなら教会乗り込めばいいじゃん」


 別に何も考えずに口に出しているわけではないのだが、ウォルスはそれでもやや呆れたようにこちらの意見を却下してくる。大体、教会の地下に本来ありもしないはずの巨大なダンジョンが~なんて言ったとして、実物を見るまでは大多数の人間は信用しないと思う。政府というくらいだ、お役所仕事はいつだって腰を上げるのは遅いものだと相場が決まっている。ならば当日である今ならそれほど苦労する事なく教会を確認しに行けるはずだ。そうやって自分の考えを述べるも、ウォルスの表情は苦々しいままだ。


「いや、確かにお役所仕事って言われると否定しきれないんだけどな……ただ、たまに爆速スタートかます連中がいるから……」

 そういえばウォルスはかつて政府にいたんだったか。さらっとしか言われていないから軽やかに忘れていた。つまりウォルスが否定的なのは万が一その爆速スタートかます相手がこの件を聞いたら即座に対応する可能性があるからか。


「そうなるとあまり下手に動いてここで身動き取れなくなるのは厳しいな」

「あぁ、なるべく連中の目に触れずに行く事ができればいいんだが」


 とはいえ流石にそれは希望でしかない。外に出る以上どうしたって誰かの目には映る。いっそ人の少ない夜に行くべきだろうか。その時間帯に教会にいる連中は多分政府の関係者だと見て間違いないのなら、叩きのめしてしまえば済む話なのだから。


「というかさ、地下ダンジョンとか超気になるんだけどそれよりも気にするべき点があるよな。ミリィたちはいつまで匿うつもりだ? 状況が落ち着くまでにしたってずっとこんな所にいたら衰弱しないか?」

「おっと軽やかに人の隠れ家をこんな所扱いはやめてもらおうか。確かに快適に暮らすとか無理だなと自分でも思っているけれども!」


 そう、思えば最初に気にする所だったのだ。何だか色々とありすぎて忘れかけていたけれど。

 政府に追われているらしい実感はないが、アリス一人だけなら別にわからない事だらけであっても最低限のサバイバル生活くらいならできない事もないのだ。ウォルスやルーチェは多分大自然に放牧したら勝手に逞しく育ってそうなので気にする事はない。ユーリとメルは……何だかんだどうにかできそうな気がしている。

 けれどミリィたちは……一日二日程度ならキャンプ気分でどうにかできそう、と思うがそれ以上となると難しいのでは? としか思えなかった。多少なら魔術も使えると言っていたような気はするが、それだけだ。明確な悪意を持って襲い掛かる人間と渡り合えるように思えないし、魔物だってそうだ。弱いのが一匹程度であればどうにかなるかもしれないが、徒党を組んでやってきたら……仮に勝てたとしても無傷ではないだろう。


 言われた当の本人たちは特に否定してこなかった。ここで「そんな事ないよ! ミリィたちだって戦えるもん!」などと言われたならば、他がどうであれアリスは見捨てるつもりだった。戦えるのであれば、自分の身は自分で守れるというのならば、これ以上一緒にいて巻き込まれ続けるよりはさっさと別れて後はそっちで勝手に対処した方がいい。本当に戦えるのであれば、その後政府が手を出してきたとしてもそれを上手く対処していけばそのうち無駄だと政府だって判断して手を出さなくなるかもしれない。

 ……本当に戦えるのであれば。

 けれども実際の所は戦うどころか逃げるしかできなかった。戦ってどうにかできる程度の実力があるのなら、今頃ミリィの保護者を名乗った青年は死んでいない。


 それをよく理解しているちびっこたちは、現状を思っている以上に把握しているらしかった。


「そこは確かに何とかしてやりたいけどなー……一時的にどこか他の場所に身を預けるにしたってアテがない」

「だよねぇ、預け先の人間が政府の役員にころっと騙されてお子様たちを引き渡したら一発アウトだろうし」

「絶対にそういうのがないって言える相手の伝手も正直ないからな」


「あの、大丈夫ですからね!? 現状考えたら仕方ないのわかってるから、おとなしくしてます」

 ウォルスとルーチェの会話にルッセが慌てて口を挟んだ。

「そうだよ、それに何か危ないなーって思ってたのに関わったのはこっちなんだから。アリスに関わった時点で多少はそうなるかもしれないって思ってたし」

「おそとで遊べないのは退屈だけど、ミリィたちおとなしくしてるよー」


「何とも物分かりのいいこどもたちじゃな」

「いやそれあんたが言うか?」

 ルッセに続いてレンとミリィがそう言うと、感心したようにメルが頷いた。これがユーリであったならきっと何とも思わなかったのだが。言ったのがメルという時点でアリスの口は思わず突っ込んでいた。

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