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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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報連相ができません



 あまりの明るさに思わず目を閉じたら、今度は浮遊感に襲われた。反射的にびくりと身体が強張る。まるで寝ている時にどこか――例えば階段から落ちるような感覚に見舞われた時のようだなとどこか他人事のように考えて。

 瞼越しに明るいのがおさまったので目を開けると今度は暗い場所だった。真っ暗闇、というわけではない。日当たりの悪い部屋の夜明け前、といった程度だろうか。ぼんやりと見えるけど細かい部分はわからない。けれどつい先程までいた小部屋ではないのは理解できた。

 咄嗟に庇うように抱き込んでいたメルがユーリの胸元の服をぎゅっと握りしめるのと同時に浮遊感が消え、落下する感覚。ここがどこかわからないがユーリの背後は今の所壁なり床なりについているわけではない。


 ――落ちる。


 理解した瞬間ユーリもまたメルを強く抱きしめた。幸いにして高さがあるわけではなかったようで、恐らく床に落下したのはすぐの事だ。落下の衝撃もたいしたものではなく、精々手加減せずに背中を叩かれた時と似たようなもので。

 これがもっと高い場所からの落下だったらと考えるとそれだけでも恐ろしい。よくわからないけどどうにかなったと判断して、ほっと息を吐いた直後――


 がしゃんという音がした。上から。


「ユーリ!?」

 視界には陰になっている部分から何かが落下してきたのが見えたと思った矢先に、ルーチェが割り込んできたので何が落ちてきたのかまではわからなかった。

「顕現せよ、守護の盾!」

 だが自分を庇おうとしたルーチェの頭上に何かが落ちようとしているのはわかっている。だからこそ咄嗟に術を発動させたのだが。


 くわんっ!

「あいたっ」


 タイミングが若干ずれたらしく、とてもいい音をさせて何かがルーチェの後頭部へと落下した。そこから少し遅れて発動した術は、その後に更に落ちてきた何かを防いだので完全に無駄になったわけではない。ルーチェの頭に落ちて跳ね返るように床に落下したそれは、音を立てて揺れている。

「……鍋?」

 障壁に阻まれて落下した物がその周辺に散らばる。ルーチェの頭にぶつかったのよりも小さめの鍋が一つと、フォークにスプーンが複数。


 ユーリに覆いかぶさるようにしていたルーチェが、若干涙目になりつつもその身を起こす。

「ごめん、間に合わなかった」

「いいよ、むしろ鍋一つで済んでラッキー。フォークは流石にちょっと」

「下手をすれば突き刺さっておったな」

 メルもユーリから離れるようにして立ち上がった。


 少し遅れて起き上がったユーリが周囲を見回すと、すぐ近くにあったのが棚であるという事を知った。棚の上に使っていなかった鍋やらを置いてあったのだろう。それがユーリたちの落下の衝撃でずれて落下してきた。

「ところでここ、どこ?」


 狭い室内。先程の転送装置のあった部屋とそう変わらない広さだとは思うがいかんせん物が置かれているせいで、更に狭く感じられる。そこかしこに陰のようなものが見えているという事はつまりこれらはしまわれた道具なのだろう。落下の際にこれらの上に落ちていたらもっと痛かったのではないだろうか。


「さて、物置にしか見えないけど……ん?」

 だんっ、と床を踏み抜くのではないかといわんばかりの勢いで響いた音にルーチェが咄嗟にそちらを向いた。

「すいませーん、誰かいますかー?」

 ルーチェはここを物置だと言った。けれどユーリもメルもこの場所に覚えはない。ルーチェも恐らくはそうだろう。ならば恐らく今聞こえたのはここの所有者かそれに連なる関係者がたてた物音だ。


 誰かがいるはずもない物置で音がしたとなれば、泥棒でも入ったかと警戒してもおかしくはない。


「……その声、ひょっとしてルーチェか?」

「おっと? 僕の知り合いかな? というかこの声ってもしかしてウォルス?」

「ちょっと待て、お前一体どこから入った!? その部屋鍵かけてあるんだぞ!?」

 ドアの向こう側から聞こえてくる声は明らかに困惑している。この部屋にあるのは出入口となるドアが一つだけで、そこに鍵がかかっているなら確かに入りようがない。他のドアがあるとか、窓が開いていたとかであれば話は変わってくるが見た所そういったものは見当たらない。


 窓がないわりに完全な暗闇じゃないのが不思議でよくよく室内を見回すと、隅の方にぼんやりと光る石が置かれているのが見えた。ヒカリゴケと同じように洞窟などでよく見かける光る石だ。ただし数が少なく本当に最低限、輪郭がわかる程度の明るさしかない。

 ガチャガチャという音が聞こえる。どうやらウォルスが物置の鍵を解除しているらしい。割と厳重に施錠しているのだな、と妙な関心をしているとじゃらりという音が聞こえた後でドアが開いた。


「うわ、ホントにいる。いやちょっと待って。マジでどっから入った?」

「とりあえずこの部屋出てもいーい? 流石にここで立ち話はつらいなぁ」

「おう、早く出ろ。ここ普段使わないけど無駄に厳重に鍵かけておく事で万一居場所がばれた時の政府の連中の嫌がらせ用にしてあるんだからな」

 言われるままに物置部屋を出る。するとウォルスは手早くドアを閉めると鍵をかけ、更にドアノブにはチェーンを巻き付けていた。よく見ると南京錠までついている。正直南京錠は魔術で壊せるので無意味なのでは? としか思えないが、ウォルスの言う通り嫌がらせ用であるならば視覚的に重要っぽく見せているだけか。


 隠れ家に来た時は玄関から真っ直ぐ進んだので周囲を見る余裕もなかったが、どうやらここは玄関に程近い廊下に面した一室だったらしい。向かい側にも部屋らしきものが見えたがそちらはどうも洗面所と風呂場、トイレのようだ。


 昨日もお邪魔したあの部屋に案内される。するとそこにはベッドの上で仲良く眠るミリィ達三人の姿と、二つしかなかった椅子を並べてその上で横たわり眠っているアリスの姿があった。

「まだ寝てたの?」

「あぁ、いや、俺はさっき起きたんだが、その直後に物音がしてな」

 話し声に反応したのか、アリスがうっすらと目を開けた。

「おはよう?」

「ん? あぁ、おはよう。最悪の目覚めだ」


 もうおはようっていう時間じゃないよなぁ、と思いつつもユーリが声をかけると、アリスは椅子から床にべしゃりと落下してから身を起こした。着替えは流石になかったらしく服装は相変わらず喪服のままだが、ヴェールのついた帽子だけは外してあったので未だ眠そうな表情はハッキリとわかった。


「昨日確かに色々あったけど、それにしたって寝すぎじゃない?」

「あ? まだギリギリ昼前だぞ。昼過ぎてから言われるならまだしも」


 ルーチェの言葉に欠伸混じりにこたえたウォルスの言葉に、ユーリは思わずルーチェと顔を見合わせた。

「え? ちょっと待って? 時計とかある?」

「壁に掛かってるぞ。時間は一分くらいの誤差があるかもだが、概ね正確だ」

 言われるままに壁にある時計へと視線を向けると、確かにまだギリギリ昼前だと言える時間だった。

「おかしくない?」

 納得いかないようにルーチェが言う。


 ユーリたちが起きたのは昼というには早い時間だった。そこから食事を済ませルリと遭遇し教会へ行き、地下ダンジョンへと迷い込んだ。そこを進みボスを倒してここに転送されてきた事を考えると時間的には昼下がりになっていたっておかしくはないし、何なら既に夕方になっているかもしれないとすら思っていたのだ。


「時間が止まってた……? いやでもあの空間ちょっとおかしかったし有りなの?」

「何故そこで妾を見る。可能性としてはなくはないぞ。けれど完全に時間が停止しているというよりは、限りなく遅くなっていると考えるべきじゃろうな」


 星見の館のように空間に手が加えられてるのは確かだと思っていたが、まさか時間までとは……アイテムボックスのような物かと思ったが、アイテムボックスはあくまでも物を保管するためのものであり、内部に生物を入れて好き勝手に行動させるような事はできないはずだ。

 そういうものとして作ろうと思えば作れるのかもしれないが……それができる相手というのは恐らくそう多く存在してはいないだろう。


「とりあえず……何があったか話しても?」

「そうだな。是非とも頼む」


 ルーチェが自分のアイテムボックスから大きめのバスケットを取り出す。ユーリたちが食事をしてきたカフェでの持ち帰り用のメニューだ。

「どうせろくに食事できてないんでしょ、ほら、食べなよ」

「お、おぅ、悪いな。アリス、とりあえずちびども起こしてくれ」

「おー」



 話はほぼルーチェに任せた。ユーリが喋るとうっかり余計な事まで言いそうだと思ったのもあるが、一連の出来事はルーチェの方が把握していると思ったからだ。

 時々メルが補足していたが、話だけを聞くならば到底信じられるものではないだろう。


「――地下ダンジョン、ねぇ?」

「そこからワープしてきた、と」

 実際話を聞いてもピンとこないらしく、ウォルスもアリスもパンを齧りながらも表情は怪訝なものだ。


「ミリィたちがアリスを見つけた所から更に地下へ、って言うけど……」

「うん……」

「ないよね……」

 寝起きではあるものの空腹なのは確かだったらしく、ミリィもルッセもレンも咀嚼の合間にそれぞれが目を合わせ頷き合う。


「あの、そもそも地下って言ったけど、アリスを見つけたのは懺悔室ですよ。そこに穴が開いていて、縄梯子がかかってたんです。アリスがいたのは懺悔室の真下です。その、ルーチェが行った場所じゃないかと」


 一番最初に口の中の物を飲み込んだルッセが恐る恐る告げる。懺悔室――そっちには何もないだろうと最初から決めつけて見てこなかったのでその下にあるであろうアリスが入っていた棺も当然見てはいない。

 という事はあっちの部屋で見た棺桶は、似ているだけの別物かもしくはそちらに移動させられたか。何に、と聞かれるとユーリにもわからないが。


「うん、でもそれっぽい棺桶があったから僕たちはそう思った。ついでにその時点でルリもいたから彼女もそれは見てるよ。ついでに途中までダンジョンで一緒だったし」

 言いながらルーチェが視線を向けているのは、ドアだった。ドア、というよりはその向こう、先程ユーリたちがいた物置の方を向いている気がする。


「どうしてここに来たのかはわからない。僕たちとしては丁度良かったけど。でも、消えた僕たちを見たであろうルリがとる行動は大雑把に考えても僕たちと同じくどこかに転送されるか、それを回避して更に奥の階層へたった一人で向かうか。消えたのを罠だと警戒していたら進む可能性は高いけど……一人は流石に無謀かな」

「それで? 転送されるとしてお前らと同じ場所に来るとすれば……物置か」

「うん、葛藤して悩んで進むに進めないっていうのも考えられるけど、ルリって多分そう長い時間悩まないタイプだよね。ならとっくに行動に移ってると思う」

「もしそうなら今まさに物置に来ていてもおかしくない、か……」

「ルリだけ別の場所に飛ばされてる可能性もあるけどね」


 片手で口元を覆うようにしながらも、ウォルスは色々と考えているようだった。ルリがここへ来る可能性。来ない可能性。ユーリにはわからないが、それ以外にも何やら考え込んでいるように見えた。


「いっそこの隠れ家放棄して別の所に移るか……? いやしかし……」


「恐らくあやつはここへは飛ばされぬ」

 そう告げたのはメルだった。

「あれには見覚えがある。となればまず妾たちが飛ばされた後、ルリも飛ばされたのであれば妾たちでいうここのような場所か、自宅か……じゃな」

「メル……?」

「詳しくは知らぬが、あれは遥か昔に創られた魔導具じゃ。転移させる力こそあれど、あれが飛ばせる場所は基本的に拠点となりそうな家とかそういうやつじゃな」

「メル……?」

「妾にはこれ以上こたえられぬ。手元には今文献も何もないからの」

「あっ、はい」


 察した。とは言わなかったが。ユーリに対してしっかりと目を合わせて言ってきた以上、事実なのだろう。詳しくは知らぬ、ではなく詳しくは言えぬが正しい。


「だが、何故あれがあんなダンジョンに……?」

 ユーリが頷いたのと同時にメルがぽつりと呟く。あのダンジョンもてっきりメルが遥か昔に創ったものかと思ったが、そこは違うのだろうか。聞いてみたいが流石に今聞くわけにはいかない。


 どうやらメルとは近いうちに話し合いをしなければならないようだ。それも邪魔が入らない場所で。

 ユーリとしても藍緑エクエルドについて話しておくべきだろうと思っているし、勿論そうしたいのは山々ではある。ただ、したいと思っているからといって実行できるかは別の話だ。

 昨日、宿屋に戻ってきた時に眠気を我慢してでも話しておくべきだった、とは今更すぎるがそう思わずにはいられなかった。

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