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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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あるはずのない教会の地下のその先は、巨大なダンジョンだった



「顕現せよ、諸刃の盾!」

 ユーリに体当たりを食らわせようとしていた魔物の前に、咄嗟に発動した術による黒い盾が出現する。盾、と言ったがその見た目は刺々しく、凶悪なおろし金と表現してもいい。強度はあまりないため、一度魔物の攻撃を受けた時点で消滅したが、同時に魔物も傷を負ってよろけたためその隙にユーリは魔物から距離をとる。


 魔物の見た目からゴブリンに見えない事もなかったが、全身鎧で完全武装しているため本当にゴブリンかはわからない。そんな武装した魔物が二体。鎧を身につけている割に素早く、ルーチェとルリが一体は仕留めたもののもう一体がユーリを狙ってきたのがたった今だ。


「ちっ、なんなんだこいつら。意味が全く分からない!」

 ふわ、と天井すれすれまで跳躍したルリが全身鎧の推定ゴブリンに向けて落下する。

 ごしゃっ、と跳躍した時とは正反対に重々しい音をさせて頭部を踏みつけるように着地する。

 兜ごとぺしゃんこになったそれは、ほんの数秒ぴくぴくと体を痙攣させていたがすぐに動かなくなった。


 動かなくなると同時に――魔物の姿は跡形もなく消える。ルーチェが最初に仕留めた魔物もそうであったため驚きは多少薄れたものの、ルリが意味わかんない、と口にする気持ちもわかってしまった。



 ――メルクリウス下層に存在した教会は、確かに封鎖されていた。封鎖、といっても教会周辺を囲うように柵があるだけのとても簡素なものだったが。

 近くの立札には「老朽化の為現在立入禁止」と書かれていた。

 遠目で見る分にはそうでもないように思えたが、いざ近くで見ると確かに外壁の一部はボロボロになっていたし、そう見えない部分であっても薄っすらとヒビができていて建物が相当な年代物であると思わされる状態だった。

 中に足を踏み入れると、こちらも外とそう変わらない状態だった。パッと見は綺麗な教会そのものなのだが例えば天井の隅の方とか、床と壁の境目であったりという細かい部分に目をやると古くなっているのがよくわかる。


「こんな所を遊び場にするとか、こどもって怖い物知らずだねぇ」

「かくれんぼとかおとなしめな遊びならまぁ、長椅子とか台座の陰とか他にも隠れられそうな場所あるから限られた範囲でも楽しめそう、とは思うけど。ドタバタ走り回ったりするタイプの遊びだと危険かもね」

 ルーチェの言葉に思わずそう返して。ミリィ達はここでどういう風に遊んでいたのだろうかと考える。

 ルッセはあまり運動が得意ではなさそうだった。現にウォルスの隠れ家に向かう時に少し走っただけで息が切れていたし、その後も疲れが抜けないのかミリィとともに即座に寝落ちしそうだったのだから。

 ミリィとレンは身体を動かす事にあまり抵抗はなさそうだが、レンはどちらかというと動かなくていいなら動きたくない、といったタイプに見える。

 ならばここで遊ぶにしても、障害物がある場所での大乱闘戦いごっことかそういう物騒な遊びにはならないはずだ。はずだと思いたい。


「どっちかっていうと探検ごっこのつもりだったんじゃない? ここら辺までなら普通に誰でも入れるけど、それ以外の場所はそうもいかないでしょ。普段は教会の人間がいるなら入ろうとしたら怒られるような場所であっても今は誰もいないから行こうと思えば行けるわけだし」


 それもそうか、と納得する。

「確か……教会の地下、じゃったか?」

「行けるとしたら奥の方からかな? 常に人がいるタイプの教会だと生活スペースがある部分。地下なら食料庫とか物置とかそういうのがあるはず。ただ……ここ、そんな大きい教会とは違うからそもそもそういうのがあるようには見えないんだよね」


 ルーチェの言葉にユーリは確かに、と口の中で呟いていた。ユーリの故郷にも教会というのはあった。

 精々村の住人がたまに足を運ぶ程度の規模だって小さなものだ。けれどあの教会も最低限礼拝する為のスペースしかなかったように思う。夜は確か鍵をかけて神父をしていた老人は自宅に帰っていたはずだし。

 あの教会はたまにお祈りをするのに足を運ぶか、あとは村での祭りなどで集まったりする時の――いわば集会場だった。この教会も村にあったのと比べれば少し大きいくらいだが、用途は村のものとそう変わらないのだろう。そんな気がする。


「ここに地下なんてなかったはずだが……」

「詳しいの?」

 怪訝そうに首を傾げたままのルリがそうこぼすので、思わず聞いた。

「そりゃまぁ、教会は政府が建てたものだからな。定期的に視察にも来るしそもそも教会の設計図は中央都市に保管されている。大きな教会や人の出入りが多い所は常在していないと色々と困る事もあるから居住スペースもあるし、そいつが言ったように食料庫や物置を地下に設置しているものもある。

 だがここはそういうタイプの教会じゃない。増築したわけでもない本当に初期のままの状態だ。地下があるとはとても思えんな」


「でも、ここで見つかったんでしょ? 政府で大事に保管してたけど盗まれちゃった、君いわくあの女」

「だからこそおかしいんだ」

 ルーチェの言葉に反射的に何かを言い返そうとしたらしいルリだったが、それを押しとどめるように言葉を飲み込んで。かわりに口から出たその言葉はわかりやすいくらいに押し殺されていた。


 ここで推測ばかりしていても始まらない。ルーチェは勝手知ったるなんとやら、と言わんばかりに進んでいくのでユーリとメルも当然それに続いたし、ルリもそれは同じだった。

 奥、といってもこの教会はそう大きな建物ではないので見て回るだけならものの数分もかからない。だからこそ、あっさりと奥どころか終点へとたどり着いたと思ったのだが……


 どう考えても不自然な位置に階段があった。壁の一部が崩されていて、そこに地下へ続く階段がある。

 埋められたものだとするにしても、壁の向こうはどう考えても部屋があるような空間があるわけがない。教会の建物の規模と外観を思い浮かべても、その壁の向こうは普通に外になるはずだというのに、だ。

「馬鹿な……」

 思わずルリがそう口にしてしまうのも仕方のない事だった。


「こどもたち、よくこんな怪しい所下りたものだよね。まぁ僕たちも行くわけなんだけど」

 ルーチェですら怪しいと断言してしまう程に、その階段の存在はおかしなものだった。ユーリは脳内で一瞬藍緑エクエルドと蒼碧のパラミシアにホラー要素ってあったっけ……? と本気で考えて、それっぽい雰囲気のイベントはあってもガチホラーではなかったなと思い至る事でなんとか心の平穏を保つ。メルもこの事態は不測の展開だったのだろう。ユーリの手を握るその手にぎゅっと力が込められた。


 そうして階段を下りた先は小さな小部屋だった。まるで何かを祀るように細々としたものが置かれているが中央部分にはガラスの棺桶があるだけで中身はない。ここにアリスが眠っていたという事か。かつて政府から保管されていたアリスを棺桶ごと盗んだ賊がここに設置したにしても、その賊とやらが何をしたかったのかがここを見てもさっぱりわからなかった。


「ところでさぁ、ここから更に先があるみたいなんだけど」

 狭い室内を調べていたルーチェの声に反応して、ついそちらへ視線を向ける。壁と同色の布が天井から床まで皺なく貼られていたため気付くのが遅れたが、布の向こうには扉があった。

「いやおかしいだろう! 本格的に!!

 本来あるはずのない地下、しかも更に続いているだと!? どう考えてもこの部分、設計図で見たら絶対に何もない場所だぞ!? 何なら土の中状態だ」

「だから確認するんでしょ?」

「危険かもしれない場所になんでそうホイホイ行こうとするんだ。お前らは、もっと危機感を、持て」

「危なくなったら撤退するよ」


 ルーチェとルリの反応に途轍もない温度差を感じつつユーリはメルと一緒に扉を見る。

「特に邪悪な気配とかそういうのは感じ取れぬが……何というか不思議な気配はする」

 ユーリにだけ聞こえる声量でメルが告げる。どのみちここまで来たら見なかった事にして戻っても後になってからあれこれ気になりそうなので結局入る事になるのはわかっている。

 不本意極まりないというルリも結局はついてきた。



 そうして開いた扉の向こうは巨大なダンジョンだった。

 あっ、ここ藍緑エクエルドで見たやつだ! と叫ばなかった事を、ユーリは自分自身で褒め称えた。勿論内心でだが。

「おい! 扉消えたんだが!?」

「あちゃー、じゃあ進むしかないね」

「何でお前はそんなに軽いんだ!? いいか? 退路が失われたんだぞ!? あちゃー、で済ませるな!」

 むしろこっちがお前のその反応にあちゃーって言いたいわ! と言って頭上を仰いだルリに、ウォルスがいないのにヒートアップしてきた事に警戒すればいいのか、思ったより常識的な反応に安心すればいいのかわからなくなったユーリはルリと同じように頭上を仰いだ。天井が見えるが、高さが大分ある。


「いや、あの天井の高さだと一階部分に到達してるよね?」

 地下に下りた距離を考えたって、あの天井の高さはどう考えても普通の一軒家の二階分くらいの高さがある。かろうじて教会の一階部分に到達してないと考えても、ならばあの教会一階部分の床のすぐ下にはこの空間がと考えるとそれも不自然でしかない。

「メル……ここって」

「近いが、違うぞ」

 何だかこの空間のあべこべ感は星見の館に通じるものがあるな、と思って声をかけたのだが、メルもそれについては即座に否定してきた。星見の館と似たように空間内部に色々手を加えているのは確かだろうが、メル自身はここに関与してはいない。首を横に振るメルに、だよねぇ、と頷いて。


「じゃ、進もうか。進めばどこかに出口もあるよ、きっと」

「くっ……確かにここでこうしていても帰れるわけでなし。仕方ないか……」

 ルーチェとルリの話は先に進むであっさりまとまった。


 そうして進んだ先で、魔物に遭遇したわけだ。

 本来あるはずのない教会の地下。そこから繋がる謎空間。そして出会った魔物。

 ルリが意味わかんないと嘆くのも当然と言える。

 ユーリもきっと藍緑エクエルドを知らないままだったならルリと同じような反応をしていたことだろう。けれどユーリは知っている。とりあえず奥へ進んである程度階層を降りてボスっぽいのを倒せば外に出られる事を。


 ただ一つ、大丈夫かなこれ、と懸念している事は。

 藍緑エクエルドではボスを倒して外に出られる転送装置によりウォルスの隠れ家へと戻っていったのだが、ユーリたちも同じようにそこに転送されるのかどうなのか、という部分だ。

 隠れ家に転送されるのであれば、ルリがいる以上転送という手段をとるわけにもいかない。

 もしかしたら他の場所かもしれないが……そうなると星見の館へ転送される確率が高いのではないかとすら思う。そうなった場合、間違いなく色々と面倒な展開になる気しかしない。


 ルーチェだけなら問題はあまりなさそうだが、ルリは確実に現状星見の館にも連れていってはいけない人物であるというのはユーリでもわかる。

 彼女は政府の人間で、政府の役に立ちそうだと判断すれば星見の館に目を付けるだろう。すぐに館の有用性に気付かずとも、ダンジョンと繋がってしまえばそこを調べると言う名目のもと隊を作って館に来るのは明らかだ。館を利用したい、という程度ならお互いそれなりに交渉のしようがあるかもしれないが、まず間違いなく館を押収される予感しかしない。メルが拒絶すれば館の中には許可されていない人物が入る事はできないが……どっちにしても厄介な展開であるのは確かだった。


(いや、少し前向きに考えよう。もしかしたら普通に教会の外に出るかもしれない)

 そんな事を考えたのだが。


 なんだか何をどう考えてもフラグになりそうな予感しかしなかった。

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