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ぐだぐだ異世界転生  作者: 猫宮蒼
二章 闇深い土地、メソン島へようこそ!

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ある意味で、王道



 シエロヴェーラの中心に位置するメソン島。広大な世界の中で島と呼ばれるものはそれこそ数多くあるが、メソン島は恐らく世界最大の島だった。大陸と呼ばれていないのが不思議な程に。

 蒼碧のパラミシアにおいてこの島の存在は、重要なものではない。話の流れで来る事もあるが、別に来なくても問題ない。仲間になるキャラもそれなりに多く存在してはいるが、ゲームクリアに関して重要なアイテムや情報を持っている者がいるわけでもない。世界の中心に位置している、という点で交易が盛んであり武器や防具、アイテムなどは大体この島で揃うけれど、ただそれだけだ。


 お金があって早めに来る事ができれば序盤は楽ができる。終盤であってもお金があればステータスアップアイテムが購入できるので強化する事ができる。


 ゲームにおいてのメソン島は行かなくても攻略に全く問題はないけれど、行けたらそれなりに攻略が楽になる。プレイヤーからすればその程度の認識だった。

 イベントがまったくないわけではないのだが、あくまでもサブイベントと呼ばれるようなストーリーにはほぼ関係のないイベントくらいしかない。


 そのメソン島にユーリたちはやって来ていた。ユーリたちが知る蒼碧のパラミシアと呼ばれるストーリーが始まる時間軸まではまだ時間があるとはいえ、余裕をかませる程ではない。だというのにここへ来たのは、今後の事を考えた結果だった。

 メソン島は島と呼ばれているがどこかの国の領土というわけではなく自治領で、この島には七つの都市が存在している。中央都市を囲むように他の都市が存在しているが、その都市にも星見の館が存在しておりそこが繋がるようになれば便利なのは勿論、アナトレー大陸からは陸路で来る事ができるというのが大きい。他の大陸へ行くとなると船に乗るしかないわけだが、アナトレー大陸とメソン島を繋ぐ橋――ビッグブリッジを行けば船に乗らずとも来る事ができるわけだ。

 船賃と馬車代とを比べると、馬車の方が安上がりなのでまずはここへ来る事になったのはある意味で予定調和とも言えた。アナトレー大陸から他の大陸へ行くよりも、メソン島から他の大陸へ行く船に乗った方が料金も微々たるものではあるが安く済むというのもある。


 この先何が起こるかわからないので金銭はなるべく残しておきたい。ゲームならそれこそ延々と戦闘して稼げばいいだけだが、現実問題そんな余裕はないと思っているし、何よりメソン島に自由に行き来できれば他の大陸で買い物をするよりも効率的だとも思っている。

 新しい街や国に行くたびに一新される装備品とか、ゲームならではのワクワク感があったりもするがそのたび毎回金欠になるのもお約束だろう。ゲームならそれでも構わないが、現状でそんな事ばかりしていれば金策に駆けずり回っているうちに世界が滅ぶ可能性が高い。


 ビッグブリッジから一番近いのはマルテという都市だった。ここは鍛冶が盛んな都市で、武器や防具を揃えようと思えば大体ここで揃う。

 ギルドルートに入るとクエストの流れでメソン島に立ち寄る事があるが、中盤に行く前に来ると店の商品一覧を見て所持金を見るのを三回くらい繰り返す事になったのは懐かしい話だ。各大陸で売っている武器や防具が全部売ってる店ってどうよ……とあの時は思ったものである。最強装備とか言われるようなものは大体ダンジョンとかイベントでの入手になるが、市販の装備であっても話の進み具合によっては充分強力……どころか下手をすれば終盤まで店を利用する事がなくなるなんてことだってあった。流石に全員分の装備を、となると難しくなってくるが。


 マルテにはその日のうちに到着した。陸路から行けるとはいえ徒歩で行けば時間がかかりすぎる。そのためユーリたちは馬車に乗ったのだが――


 暴れ馬などという言葉すら生温く感じる程に荒ぶった馬たちによる爆走。何か目に見えない敵でもいるのかと言いたくなるほどの謎のデッドヒート。御者のおっさんは慣れているのか「ほっほっほ」と朗らかに笑っていたが、乗っている乗客たちは笑うどころか口から魂を吐き出しかねない。実際魂は出なかったが別の物は出た乗客がいた。すかさず隣にいた相棒と思われる人物が口元に袋を差し出さなければ馬車内部は別の意味で地獄を見ていたことだろう。

 安全バーすらない状態でジェットコースターに乗っているかのような状況に、まずは馬車でメソン島行ってそっちについたら館繋ぐねー、とか言って出発したユーリとメルはマルテについた時点で顔色が酷い事になっていた。

 一番早く到着する馬車を、なんて言ったのが運の尽きだったのだろうか。普通の馬車なら恐らく途中途中で宿場町に寄って数日ペースだったのだろう、とは思うが一番早いやつだと当日中に着きますよ、という悪魔の囁きについホイホイされた結果がこれだ。


「神よ、私が一体何をした」

「妾が仕組んだような言い方やめい。いや確かに当日中とか逆に興味惹かれすぎて冷静に考えたらそれってヤバくない? と言いたい感じの選択をしたのは否めぬが」

「あの馬車案内センターのお姉さん見た目に反してドSすぎない? せめて乗り物酔いするタイプにはむかないって説明くらいはするべきだと思うの」


 当日中に着きますよ、の言葉に乗っかってしまったが、正直そろそろ日が暮れる。朝一に出て日没手前で着いたとかそれはそれで凄い事に変わりはないのだが。むしろよくあの馬途中でバテなかったな、と感心すらしてしまう。

 どうも、ゾンビです。そんな自己紹介をすれば十人中八人くらいは信じてしまいそうな顔色の悪さではあったが、少し休めば回復するだろう。というか、馬車を降りた直後に比べると夕日に照らされている分顔色の悪さは何となく回復したように見える。見えるだけで現在進行形で絶不調だ。


「星見の館はこの先じゃな。旧王都のように何事も無ければよいのじゃが」

 王都のようにガーゴイルのような何かがいたら、迷う事なく撤退しよう。お互いにそう決める。万全じゃない状態で戦うような事になった場合、限りなく不利だ。

「ついてもすぐに繋げられるかな。建物入った瞬間休憩モードに突入しそう」


 繋ぐだけなら扉から扉までの通路を通ればいいだけなので難しい事でもないのだが、いかんせん疲労度が凄い。一緒に馬車に乗り合わせていた冒険者のように、馬車の中で吐き出せるものは吐き出しきってしまっていた方が良かったのでは? と思いはしたがそれも今更だった。内臓をかき回されているような感覚のせいで、真っ直ぐ歩いているつもりでも足元が覚束ない。

 だからだろうか。曲がり角を曲がってきた人物とうっかりぶつかってしまったのは。


「あっ」

「っ!? ご、ごめん。大丈夫だった!?」


 勢いがあったわけではないが、ふらふらになっていた所だったので思っていた以上によろけ、倒れそうになる。咄嗟に腕を掴まれて倒れるのは防げたが、ぶつかってきた人物を見てユーリは思わず固まった。

 パッと見はただの美少女である。声も少し低めではあったが誰もが美少女だと判断するだろう。

 金髪碧眼の美少女。曲がり角で遭遇してぶつかる。一体どこのラブコメだとユーリは内心で叫びそうになったが、生憎と彼女は彼であった。


 見た目は美少女。服装もそこはかとなく魔法少女っぽい衣装。スカートに見えるが実はスカートではないので女装ではない。知らなければ誰もが騙されていたことだろう。


「はい、大丈夫です。吐きそう」

「えっ!? それ大丈夫って言わない!? 言わないからね!? ちょ、ちょっと待って!?」


 顔色の悪さを見て取ったのだろう。慌てたようにユーリを抱きかかえる。

「ふおっ!?」

「ユーリ!? 一体ユーリをどうするつもりじゃ……!?」

「この子君の連れ?」

「どう答えても最悪の展開が待ち受けている気がして答えたくない」

「それもう答えだからね!?」


 そんな事よりぶつかった衝撃のせいで今日最大の吐き気が留まるところを知らない。リバースするのを必死に耐えている状況なので、現状を理解するのは後回しになりつつあった。片腕で抱きかかえられてその腕に座るようになっている自分の体勢とか、連れだと判断するや即座にメルをもう片方の腕で小脇に抱えるとか、見た目美少女の腕力凄い……ユーリは遠ざかりつつある意識の中でそんな事を考えていた。



 見た目美少女の存在は、ユーリだけでなくメルも知っている。

 蒼碧のパラミシアの登場人物。前世でのプレイデータではまだ仲間にできていなかったが、その顔だけは何度か見ている。というか、プレイしていれば一周で一度は確実に見る顔だ。

 そんな彼が慌てたようにやって来たのは、宿屋だった。男性に宿屋に連れ込まれる、という文字だけ見ればとても事案です……と言いたくなるような展開だったが運び込まれた先はトイレであり、

「セーフ!? セーフかな!? ここなら吐いても大丈夫だから!」

 と言うなり彼はユーリとメルをその場に残して出ていった。

 我慢しててもしょうがない、と開き直り素直に吐く。彼なりに気を遣ってくれたのかもしれないが、正直抱えられてここまでの距離を全力疾走された衝撃で、割と限界だったのだ。


「なんつーか、酷い目に遭ったね」

「イヤな……事件じゃったの……」

 喉の奥が痛いけれど、多少スッキリした気がする。トイレを出ると待っていた彼に手を引かれ、今度は洗面台へと連れてこられた。

「はいこれ」

 コップに注がれた水を差しだされる。遠慮なく口の中を濯いだ。その後はタオルを渡され、顔も洗ってさっぱりした挙句、気付けば彼のとっている部屋に案内されていた。

 あまりにも流れるような展開で、抵抗する暇はどこにもなかった程だ。手際の良さに気付いたら財産まで毟られるんじゃなかろうかと戦慄すら覚える。多分そんな事はないと思ってはいるが。


「えーと、粗茶ですが」

 言いつつ香りのいいお茶を出される。この香りには覚えがある。喉を痛めた時に効果があるという薬草を使ったハーブティーだ。時々ゴードンが淹れてくれたことがあった。

 そっとカップを手に取る。少し熱めのお茶にふぅ、と息を吹きかけて。

「いただきます」

 ユーリとメルがそう言うと、彼はくすりと笑う。とても微笑ましいものを見る目をしていた。



 ゲームではメソン島は基本的にメインイベントは起こらない。サブイベントの宝庫ではあったが故にイベント会場と呼ばれている事もありはしたが。

 まさかこんな場所で蒼碧のパラミシアのメインキャラに遭遇するなどとは思ってもみなかった。

 彼の名はルーチェ・クローチェ。

 外見からして男の娘、というやつではあるものの、彼は蒼碧のパラミシアにおいて重要なポジションにいる存在である。

 その外見からはとてもそうは見えないが、蒼碧のパラミシアにおいて彼は勇者と呼ばれる存在であった。

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