気付けば一つの山場が越えるどころか終わっていた
メルが戻って来るまでにどれくらいかかるかはわからない。
そのため部屋で待っているのもどうかと思い、部屋から出た直後の事だった。
ホールの方が騒がしい――何事だろうかと思い、ユーリは自室へ戻ろうとしていた足を方向転換させてホールへと向かう。
「なぁこれやっぱり欠陥品じゃねぇの?」
「いや、流石にそれは……恐らく何らかの条件とかそういうのがあるんじゃないか……?」
「条件てなんだよ、今の所マトモに動くの星見の館の中だけじゃんか」
「うーん、そこ言われると、なぁ……?」
「綺麗だけどこれ結局なんなのアリスー?」
「何か魔導具らしいけど、多分欠陥品」
「欠陥品なんですか? そういう感じしませんけど?」
「うん、むしろ動作は正常じゃないかな」
アリスとウォルス、ミリィにルッセにレン。
初期メソン島メンバーが何やら集まっているだけかと思いきや、壁に背を預ける形でそれらを見ているルキアにおろおろしているセシル、そしてたまたま居合わせたのかユーリ同様何事かと言わんばかりの目を向けているネフリティスの姿があった。
「あらユーリ、貴方も来たの」
こちらに最初に気付いたネフリティスが、ユーリを見てそれから少し視線を巡らせる。
「メルなら所用でいないよ」
「あぁ、そういうつもりじゃなかったんだけど……」
半ば無意識に視線を巡らせていた事に気付いたのか、ネフリティスが困ったように笑う。
「大丈夫だってわかってるんだけどね、どうにも癖になっちゃってるのかなぁ……」
「それで、これ一体何事なの?」
正直ネフリティスもあまりこの状況についてわかっていないのではないか、と思うのだが今盛り上がってそうなあの中に飛び込んで聞く度胸はない。ゲームなら選択肢が出てそれを選べばいいだけだが、いざ生身の自分でやれとなると中々にハードルが高い。
「あぁ、うん、何でもメソン島のダンジョンを踏破してきたらしいんだけど」
「えっ!?」
思わず視線をアリスたちへと向けた。
確かに近々最深部へ到達しそうだとかそういう雰囲気ではあったけれど、まさかもう!? と思った以上のスピード攻略に驚くしかない。
そもそもアリスが本来ウォルスと起こすはずだったイベントらしきものがユーリに向けられていたあの一件は、テロスに連れられてノトス大陸へ向かう前の話だ。
ほんの数日前の出来事。ダンジョンの中の時間の進みが遅い事を考えても、破竹の勢いすぎやしないだろうか。
「お、ユーリ。いたのか。声かけてくれればいいのに」
こちらに気付いたアリスが駆け寄って来る。アリスの手には花のような形をしている鉱石が抱えられていた。
「何それ、なんだかお高い品物っぽいけど」
「あぁこれか。ダンジョン踏破して最深部で見つけてきた」
ダンジョンを踏破。聞き間違いではなかったらしい。
という事はラルカやらそれと手を組んでしまった一部の政府役員やらの決着はついたという事だろうか。多分ついたのだろうと思いたい。
アリスの手に抱えられているのは、人間の赤ん坊くらいの大きさの石だった。宝石に見えなくもないが、どちらかといえば鉱石なのだろう。そこはかとなく蓮の花のような形に似ている。その石の中心部が淡く輝いていた。
魔導具という単語を聞く前であるならば、ちょっとお洒落すぎて凡人には理解できないインテリアか、ルームランプだと思ったかもしれない。
「今までのダンジョンの中で得た情報からすると、これがどうやらマナの濃度を中和するらしいんだけど……外にこれ持って出ると途端に輝きが消えるんだよな。星見の館の中だとこんな感じに淡く光るんだけど」
「マナ濃度が高いのをどうにかしたいならメソン島に設置しないといけないのに……?」
「あぁ、だからどうしたものかとな」
「とりあえず駄目元でメソン島にある星見の館の中に置いてみたら?」
「やっぱそうなるか~。じゃあ試しに置いておきたいんだけど……いいのか?」
「メルは今いないけど、問題ないと思うよ。戻ってきたら伝えておくね」
この場にメルがいたならば恐らくは二つ返事で頷いただろう。だからこそユーリも気軽に許可を出した。
言われたアリスはそういう事なら、と通路の奥へと進んで行く。
メソン島のどの館に置くかは言っていなかったが、こういうものは大体中央部分に置くのが定番な気がするので、中央都市あたりにでも行くのだろう。ミリィ達三人のこどもがアリスにくっついていく。
騒がしいから様子を見に来ただけのネフリティスもアリスたちがいなくなった事でここに留まる必要もないと思ったのだろう。片手を振ってさっさと部屋へ戻っていく。
気付けばルキアの姿はいつの間にかなかった。こうして残されたのはユーリとウォルスだけだ。
「あー、その、今まで色々と助かった」
「正直私ほとんど何もしてないよね。場所ちょっと提供しただけだよね」
「まぁそうなんだけどな。それでも、その場所をちょっと提供しただけっていうのが案外大助かりだったんだ。あのまま俺の隠れ家を利用していたらいつかは見つかってただろうし、状況次第では俺たちにとっても不利になりかねなかった。
何だかんだでケインとの決着も一応ついたし、レーベンたちとの話も済んだ。政府の方はまだ事後処理があるからしばらくはごたつくだろうけど、俺は少なくともメソン島をこそこそ移動しなくても良くなりそうだ」
「そっかー」
これがゲームであったなら。
きっとエンディング直前とかエンディングテーマが流れてる最中とか、まぁほぼラストシーンでの会話になっていたのかもしれないな、とは思う。
けれども正直な話ユーリには全く感慨深いものがあるわけでもなんでもない。
序盤にちょっとだけ関わった程度の認識だ。気付けばダンジョンは攻略終了しているようだし、ウォルスとケインとの決着だの、ミオやレーベンとの会話シーンに居合わせたわけでもない。
何ならラルカたちとの決着だって一切関わっていない。
例えるならば序盤は仲間の枠が足りなくて仕方なく入れてたが、途中からは全く使わない完全控えメンバーだけど一応メインキャラだからエンディングとかには姿を出す、みたいなポジションが今のユーリの立ち位置だろうか。
その状況でウォルスにしみじみと語られてもなぁ、というのがユーリの本音である。多分一緒にダンジョン攻略してたらここで感極まってたかもしれない。泣いたりはしないだろうけど、拳同士をぶつけての挨拶みたいなのはしたかもしれない。
何だかとても穏やかな微笑みを浮かべているウォルスは、恐らくゲームならスチルにでもなってそうな感じだが完全に状況的に置いてけぼりを食らっているユーリはただ相づちを打つだけで精一杯だった。
「俺たちの事情は片付いた。だから今度はそちらの事情に手を貸そう。ケインやレーベンが乗り気なんだよな……あいつらこそ今忙しいだろうに。
ともあれ、何かあったら遠慮なく言ってくれ。力になろう」
「うわー、ありがとうございますー」
ケインが乗り気なのは多分以前ちょっと知り合ってた時にユーリが女神との接触者であるという事実を知っているからだろうし、レーベンはメルが女神だと知っているからだろう。そうでなければあの二人はまず間違いなくこちらに協力していたかどうか……と言いたいが、余計なことは言うべきではない。
メソン島がある程度安全であるとなれば、ミリィ達も自宅に帰る事ができるだろう。
「そういやミリィ達はどうするんだろうね?」
「あぁ、レンがここの工房使わせてもらってるだろ? 工房広いし使い勝手がいいからっていうんで、出来れば使わせてもらいたいらしいぞ。その分手伝いはするそうだ」
「しっかりしてるというか、ちゃっかりしてるというか……まぁいいけど」
どうせ本来仲間になって工房を使うはずの人物がいない現状だ。レンが使いたいというのであれば使う事に関しては問題もないだろう。そもそも別の工房も本来使う相手ではない相手が使用しているようなものだし。
「それから、トルテについてだが。メソン島の自宅に戻しても看る相手がいないんでこちらに置いといてほしい。それと……トルテの面倒についてはルリをつけたいんだが……ここに入れて大丈夫だろうか?
ルリ本人はケインから直々に言われているようだから、厄介事を持ち込んだり周囲に無駄に喧嘩売るような真似はしないと思う」
「うぅん……まぁ、大丈夫、かなぁ? そもそもルリが暴走するのって、ウォルス関連くらいだよね? 火に油注ぎに行くような事しなきゃ大丈夫、だと思うけど」
藍緑エクエルドでのルリも、こうして実際に会って自分の目で見たルリも、一応は政府で働いているエリートだ。ウォルスとケインの事は一応決着をつけたようだし、ウォルスが政府に追われる理由らしきものも解決したのであれば、ルリだってそう無意味に噛みついたりはしないだろう。
「本当に、色々とすまないな」
「その分しっかりこき使うかも」
「あぁ、心得た」
苦笑を浮かべつつもウォルスは手を振って立ち去っていった。恐らくはルリを直接呼びにいくか、ケインかレーベンに話を通しに行くのだろう。
ルリに関してはメルが戻ってきたら一応伝えないとなぁ、と思う。
言わなくてもルリがいるのをメルが見たらすぐに状況を理解しそうではあるけれど、無駄に驚かせるような真似はしたくない。いい方向に驚かせるならともかく、ルリに関してはサプライズにもならないだろう。
何にせよ、全てはメルが戻って来てからの話だった。




