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送られる側の苦悩を俺達は分かっていなかった

「先輩たち、ご卒業おめでとうございまーす!」


 先輩たちが、笑いながら拍手を叩いている。

 俺はその様子を教室の教壇の上に並んだ、クラスメイトの陰からひっそりと見ていた。こういう所で視線を浴びるのはあまり好きではないし、こういう拍手を受けながら笑顔で笑ったりするのも得意じゃない。まさに陰キャの鑑みたいな性格だ。

 新浜さんが、自分たちの書いた卒業生あての手紙を手渡す。卒業生の中から代表者みたいな人が出てきてそれらの入った袋を笑顔で受け取る。

 あの中には俺の書いた手紙もある。卒業生の事なんて分からないから、誰に渡っても問題の無いように当たり障りのない言葉で書いたつもりだ。

 もしも自分たちが同じサプライズをされたら、俺は下級生との繋がりもないだろうから、自分宛でないと分かっている手紙を悲しくなりながら読むのだろう。何だか、こんなことをクラスのみんなの陰に隠れて思っているのは申し訳ない気がする。


 そもそもサプライズとはこういうものであっただろうか。

 これではただの歓迎会ではないか。

 いや、ただの歓迎会で良いのだが、サプライズと名乗るならもっとこう......あっと驚くことをしなければならないのではないか?

 かといって、自分にこの状況をどうこうする権限はない。

 ......いや、あった。

 クラスでの案を出す時、自分にも企画を提示することが出来たのだ。だが俺は、そう言うのはあまり得意じゃないという理由で何も案を出さなかったのだ。そして結局、卒業生に手紙を渡したりするという無難な感じの会になってしまったのだ。


「何だか本当に申し訳ない気がしてきた」

「どうしたんですか?」

「いや、こんな会しか開いてあげられないことがちょっと申し訳なくてな」

「こんな会? 別に普通の会だと思いますけど。やっぱり考えすぎですよ」


 やはり自分は考えすぎなのだろうか。

 小声でそんなことをしゃべりながら時間が過ぎてしまうのを淡々と待っていた。


 そんな時、自分の向かい側に一人の男が席に座っているのが見えた。その男は淡々と拍手を合わせて笑顔一つ浮かべず自分達をじっと見つめていた。その瞳は感謝するどころか自分達に恨めしさでも感じているような瞳だった。


「なぁ、あの人」

「あまり楽しめてはいないみたいですね」

「まぁ......そう言う人も居るだろうな。俺だって多分そうなってると思う」

「性格悪いですね」


 小日向さんが、いつになく厳しい批判を浴びせかけてくる。

 それもそうだ。

 自分が全てを企画したのならまだしも、これは自分達全員で行っていることだ。楽しんであげることももてなしの一つには違いない。

 それを堂々とつまらないだのと言ってしまえるのは失礼以外の何者でもない。

 ますます自分の事が嫌になる。

 俺は自責の念に駆られながらその人のことを見ていた。


 その人と偶然目が合った。

 その男の人はハッとしたように俺を見て苦笑いを浮かべた。

 目は動揺していて小刻みに震えていた。

 そしてほどなくしてまた無表情に戻り、今度は顔を伏せてしまった。

 その人の眼から何故か涙が垂れたのが見えた。

 それに気づいたのは俺だけだった。


 そんなことが起きているにも関わらず、会のボルテージはどんどん盛り上がっていく。

 クラスメイト全員で「仰げば尊し」を歌うという何とも言えない行為をして、卒業生の中には泣き出す人も居るみたいだった。

 自分はあの涙を見た時からどうしようもなくその男のことが頭から離れなかった。

 その男が泣いているのは明らかに感動したからではないからだ。でも卒業するのが悲しいという訳でもなさそうだ。


「嫌な予感がする」


 小日向さんが俺を見て怒ろうとしたが、俺の顔を見た瞬間ポカンと口を開けたまま呆けてしまった。

 遊び半分で言っているわけではないことが伝わったのだろう。もとよりこんな言葉を遊び半分で言うことは無いのだが。


 涙を流した男の顔がどんどん引き攣っていく。

 まずい。

 非常にまずい。


「ダァァァァァァ!!!!!」


 ガタンと椅子が倒れて男が立ち上がるとともに、辺りがシンと静まり返る。

 あれだけにぎわっていた雰囲気が一気に静まり返るのが分かった。


 爆発した。

 一瞬でそのことを理解した。


「ああぁぁぁぁぁぁあああ! 何だテメェら! 見せつけてんのか!? お前らにまだ高校生活があることを俺達に見せつけてるんだろ! そうだろ!?」


 周りがざわざわとざわめく。まだ理解が追い付いていない人の方が多いだろう。

 高校生活があることを見せつけている? そんなわけはない。


「お前らは良いよなぁ! 俺達を送り出した後も、まだここで何だって出来るんだから! でも俺には未来がねぇ! 俺は......俺はァッ! 大学受験落ちるハメになったんだぞッ!」


 その瞬間周りの空気にヒビが入ったのが分かった。

 チートとかそう言うのじゃない。空気が凍るような感覚だった。最早チートよりもこっちの方が恐ろしいのではないかと思ってしまう。

 俺はそんなに詳しくはないが確かニュースで大学の二次試験が少し前に行われていたというのを聞いた気がした。もう結果は出ているのだろうか? 確か一昨日ぐらいだった気がするのだが。


「あんなところで、あんな問題でなきゃ確実に俺はッ! センターでも結構良い線行ってたんだぞッ!! なんでこんな目に合わなきゃいけないんだッ!」

「ちょ、ちょっと! 採点はまだ誰も帰って来てないし、先生もそう言うのはタブーだって!」

「落ちたよ! あんな手応え、分かるに決まってるだろッ! 皆もそうじゃないのか! 俺は後期に向けて勉強したいのに、呼び出されたから来てやったんだ。なのに来てみたらこんなお遊戯みたいな会でッ! 俺はこんなところにいたくないんだ!」


 お遊戯会だから怒ったということではないんだろうと心の中で思った。

 こんな雰囲気に耐えられなくなってしまったのだろう。俺もシチュエーションは違えど、他の人が楽しそうにしている時にこんなものを見せられたらどうしていいのか分からない。でも多分、俺は何もしないだろう。何も出来ない。


「もう限界だッ! こんな奴ら、全員まとめて殺してやるぅ! 何年間も隠してきたがもうヤメだッ!! 俺を止められる奴なんてこの世に一人も居ねぇってことを分からせてやるんだァッ!!!」


 俺は何かの戯言かと思ったが、背筋に走る悪寒でそれは違うと確信した。

 アイツ、チート能力者だ!

 送別会、かなり物騒な雰囲気が漂っています!

 相手のチートは何なのか? この事態をどうやって解決するのか?

 ダメチーターの手腕の見せ所です!

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