いずれ自分も卒業する時が来る
「送別会ねぇ。思うんだけど、高校の送別会って俺達がする必要あるんだろうか」
「まぁ、下級生だしなぁ。トシは上級生に何の思い入れもないだろうけど、部活やってる皆は違うだろうぜ」
「そもそもそんなこと言ってると、いざ自分がされた時に感動できなくなってしまいますよ?」
俺は卒業生の送別会の準備にいそしんでいた。自分は誰でもできる教室の飾り付けに大抜擢され、右には小日向さん、左には傑を携えて、手には不格好な紙の花を持ってまさに両手に花と言った状態である。この左に居る人間がガタイの良い男でなければ何の文句もなかっただろうに。
「今、『俺が可愛い女の子だったら良かったのにな』って思っただろ」
「勘の良いガキは嫌いだよ」
「残念だったな」
傑は意地の悪そうな顔でそんなことを言いながら手際よく窓際に飾り付けを行う。
センス良く、バランス良く飾り付けられていくのを見ながら、なぜ天は人間に不平等なのかという悪態を飲み込んだ。
俺の飾りつけは正直に言ってセンスが無いのだ。
そもそもセンスとは何だろうか。
笑いのセンス、学びのセンス、飾りつけのセンス然り、書道、武道、華道、茶道、才能と言うのは上に上り詰めるためにはほぼ必須と言っても良い。
努力が才能を上回ることもある。でもそれは才能を持った者が努力した者より努力を怠っていた場合だ。才能を持った者が努力で勝ろうとしている人間と同じだけ努力していれば、当然努力した人間の方が勝つ。
だがそういう話になると、才能と言うのが本当に存在するのかという話になってしまう。
俺が思う所を言えばそれは、ある。
例えば、物覚えが良い人間。言われたことがすぐに出来る人間とそうでない人間は明確に存在する。
それは努力が足りないからではない。人の話をよく聞いていないのだ。そしてそう言う人間は話を聞かまいとして聞かないわけではない。聞けないのだ。
他にも、すぐに何かを行動に起こす人間。これも一歩踏み出してしまえばどうということは無いと人は言うだろう。自分は何かを行動に起こせるのも才能だと思っている。一歩踏み出すことが出来ない人が居るのも事実だ。
何かを継続できること、小さなことを発見できることそれら一つ一つが才能だ。
そして俺は、努力も才能のうちであると思う。それはこれら上げられた中の一つに過ぎないのだと思う。
要するに、人は才能の一つや二つぐらいは持ち合わせている。それこそどんな生活を送ってきたにしろ、その人なりの個性があるなら、それは才能であるともいえる。
そして世間一般で言われる才能はこれらをどれだけ多く持ち合わせているか、その総数が多ければ多いほど才能のある人間になるのだと思う。
才能は「ある」か「ない」か、0か1かで決められるわけではない。その間に何段階かのものが挟まれているのだ。
「今、うんちくっぽいこと考えてたでしょう。手が止まってますよ?」
「相変わらず小日向さんは鋭いね」
「トシは相変わらず小日向さんには優しいよな」
うるさい。当たり前だろうが。
そう思いながら傑を睨みつける。
ともあれ俺にはセンスがあまりない。何なら傑の飾りつけを全てマネしても良いのだが、それでもどこかが違って、結局センスのないものになってしまうのだろう。
「小日向さんも飾り付け上手いよね」
「ありがとうございます。私は高いところは届かないので、そこはお任せしますから」
小日向さんは屈託のない笑顔でそう答えてくれる。
小日向さんの事だから、俺がそのことに嫉妬しているのは多分気づいているのだろう。それでも笑顔で流してくれるのは、小日向さんらしいというか人間が出来ているというか......小日向さんマジ天使だ。
そんなこんなで出来上がった飾りつけを遠目で見てみる。
やはり違いが大きい。
何も知らない人に聞いても違う人が作ったと分かる出来だ。
「まぁ別にこの程度なら大丈夫なんじゃねぇの?」
「結構気になるけどな」
「それは自分が作ったからそう思うだけですよ。はたから見れば自分の気にしている所なんて伝わりませんって」
「そう言うもんかなぁ......?」
俺はそう言って首をもたげたまま、その部屋を後にした。
その部屋は送別会で使われるサプライズ専用の教室だった。毎年この教室でしているらしいので、サプライズもクソもない。
「サプライズ、喜んでもらえると良いですね」
「......そうですね」
中学の時の卒業式、俺は入りたい高校に入れなかった失意の中で一人沈んでいた。
自暴自棄になりそうで卒業式に出たくなかったのを思い出す。
周りの人間は行きたい所に行けた人ばかりだった。そもそも高校試験に真剣に取り組んでいた人の方が少なかった。
その中で頑張ってきたのに一つの交通事故で無碍になってしまった。
今でこそ小日向さんと一緒の高校に入れて良かったと思えているが、それまでは本当に苦痛と後悔の日々でしかなかったわけである。
もしもあの時の俺みたいな気持ちでこんなサプライズをされても一層むなしくなるだけのような気がする。
俺は本当にその時を喜ぶことが出来るのだろうか。
無理だろうな。
そもそも俺だったら俺みたいな人間にサプライズされたところで全然嬉しくない。むしろ、これからも希望のある1年を見て嫉妬するだけである。
それが大学受験ともなればなおさらである。
聞くところによると大学受験のストレスというものはかなり想定以上らしい。
窓を覗くと俯きながら歩く男が見えた。その男は無表情だった。
「嫌な予感がする」
「どうかしましたか?」
「いや何でも」
喉に何かがつっかえたような気がした。
毎回恒例の哲学パートです。
実はここでは主人公の考えだけでなくそのパートの主軸になるテーマについても語ることにしています。
今回はセンスと卒業とサプライズです。
もう大体展開の察しはつくと思いますが、一体どうなるのでしょうか?(決まり文句)




