事実は小説より奇なり
「だから本当に見たんだってユーレイ!!」
「夏だからって怪談話かよ。俺がお化け嫌いなの知ってるだろ、トシ。いくらトシでもそんなことは信じられねぇよ。」
俺たちは公園に集まっていた。セミがうるさく喚き、日差しがジリジリと照り付ける。
汗が噴き出すように溢れ出る。
なぜこんなところに呼び出してしまったのだろう。
どうせ話すことになるから図書館はダメだし、大きな声で話せるところが良い。そう考えるともう公園しかないような気がしたのだ。これは責められても仕方ない。
「ほんとあっちいな。ここまで暑いと怪談話にも頼りたくなるぜ。」
「お前、それホントに怪奇現象に会った人間の前で言うことじゃないだろ。」
今でも思い出すだけで冷や汗が出る。
あの後、俺は意識を失ってしまったが意識が戻ると普通の姿に戻っていた。自分でもなにが起こったのか良く分かっていないし、これが俗にいう幽体離脱だったのかもしれない。
一つ心当たりが......というかそれしかないのだが、これはチートの仕業であるという可能性もある。
あの白い幽霊が幽体離脱したチーターであれば話は分からないこともない。
幽体離脱すれば空も飛べるのかもしれない。もちろん俺にはそんな気はしなかったが。背中がゾクりとするあの感触があったのでもしかしたらそうなのかもしれない。
それでも俺の理解を超えすぎる。
「ユーレイかぁ......」
夢なら良いのに。
いや、夢だったかもしれない。
もしかしたらアレも夢をみていただけだったのかも......
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「夢じゃないのかよ!!」
夢と言うのは現実逃避だったがこんなことあってもいいのか!?
倒れている自分の体を上から見下ろすというのはひどく新鮮な感覚だ。何回やっても慣れることはないのではないかというぐらい困惑する。
そして窓から見えるのは白い服を着た幽霊。長い前髪を顔にかけながらこちらを見ている。
「あのー、えー、もしかして......ユーレイですか?」
自分でも何を言っているのかと思う。
幽霊が本当にそうだとして答えてくれるのか!?直球すぎやしないか!?もうちょっと何かあるだろう!?
「そうです!なので~......中、入って良いですか?」
「ダメに決まってるでしょ。」
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「何で上がってるんですかね。」
「あなただって中にいるじゃないですか。」
「だってここうちの家ですし。」
「ということはもしかして......あなた死んでないんですか!?」
ダメだと言ったにもかかわらず、白い服を着た女はどうどうと壁をすり抜けて入ってきた。
そして開口一番これである。
何のことかさっぱりわからないし、それではまるで自分が死んでいるみたいではないか......?
俺の体をまじまじと見つめる。自分で自分の体を、まるで別人のように......
「これ、俺死んでんの?どうなの?」
「いや、よく見たら息をしているので死んではないんじゃないですかね~。」
間延びした声でそう返答する。
貞〇みたいだった前髪を後ろに回させると、意外と普通の女性の顔をしていた。
もっと顔に傷がたくさん入っていたり、皺が沢山入っているのかと思っていたが以外にも普通の女性だ。普通の女性すぎて自分の部屋に上げて良いものか少し悩む。
「で、あなたは死んでるわけですか?」
「そういうわけです~。」
えへへ、と笑いながら髪をいじっている。
年は20歳前後ぐらいだろうか。雰囲気的にはもっと幼いような気もしなくはないが容姿だけで判断すれば20歳ぐらいである。
でも城崎先生みたいな幼そうに見えて年は取っている大人モドキや、極端な例を挙げれば雨姫のような場合もある。というか単純な年だけで言えば雨姫の方が年が上だ。そんな事実にこんな時に気づくとは少しばかり戦慄する。
「でもこれで間違いない。これはお前のチートの仕業だ。」
「チート?何ですかそれ~?ゲームの話ですか?私も生きてた頃は結構ゲームとかしてたんですよ?まぁ、この頃の高校生に言っても伝わらないのかなぁ......」
「そんなに年齢離れてますか?」
「君にどんな風に見えてるか分からないし死んでからは鏡にも映らないから自分の姿も見たこともないけど、私死んでから6年たってるんだよ?世代、大分違うでしょう?」
6年というと俺が小学生でちょうど落ち込んでいた時期である。
落ち込んでいたという表現が正しいのかどうなのか俺には分からないがとにかく沈んでいた時期だ。あの頃はゲームもアニメもしていなかった。親が買ってくれなかったというのもあるが、ただ単に俺に情報を共有するような友達がいなかったというのが一番の理由だった。
あの頃は傑を友達とは思っていないかったし、無条件に人を避けていた。関わり合いになれば誰かを傷つけることになると思っていた。要するに相手のことを全く信頼していなかったのである。
「チートっていうのは異能力みたいなものです。俺のチートは人のチートを勝手に真似てしまうというものです。要するにダメチートです。今回は貴方が幽体離脱してるから俺も幽体離脱してしまったという感じですね。」
「ふーん。分かりにくいよ~。」
「でしょうね。言っててこんがらがりますから聞いてる方はたまったもんじゃないでしょう。」
「だったら君が私とおんなじになってるのは私のせいってこと?」
「そういうことですね。」
「なんかゴメンね~。」
そうやって平謝りするように頭を下げられてしまう。
そんなことをされたらもう何も言えない。今まで邪険にしていたのがバカみたいに思えてくる。
とりあえず「顔を上げてください」と言うと、白い服の女性は少し顔を上げてこちらをうかがうように見ていた。
「ここを離れてくれれば俺は普通に戻れます。そんなに気にする必要もありません。あなたがそんなに悪い人ではないことも分かったので別にまたここに来てもらっても構いません。」
「ほんとですか~!」
パァァァ!と花が咲いたように顔をほころばせている。おもちゃを買ってもらえることになった子供みたいだ。
「えぇ。だから今日は帰ってくれませんか?」
「何で?」
俺はチラリと少し開いたドアの隙間を見る。
「妹が覗いてるので。」
隙間がスーッと音も立てずに閉まる。
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「おにーちゃん。この頃、家の中に色々なモノを連れ込みすぎじゃない?」
「正直、俺もそう思う。」
「おにーちゃんも幽霊になってたし。」
「確かにそうだな。不可抗力と言えば不可抗力だ。」
「それにあの幽霊にいつでも部屋に来て良いって言ってたし。女ったらしもいいところよね。」
「ヴッ......でもそれ以外に方法が......」
「まぁ、いいですけど。」
そう頬を膨らませる由香がそう思っていないのは明白である。
自分の家にいきなり知らない人を上がらせたりしたら、やはり由香としてもたまったものではないだろう。
また厄介なことになったと思いつつ窓の外を眺めた。
夏休みは亡霊編とお祭り編の二作です!
突然現れた亡霊はこれからどんなことを巻き起こすのか!?それとも巻き起こさないのか!?
佐々木は無事に夏休みを終えることが出来るのか!?
まだまだ目が離せない!!(かもしれません。)