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亡霊は死ねど消えずして

「しっかし、本当におにいちゃんユーレイになるんだねぇ。」

「ほんと......不思議。」

「お前ら、環境適応能力が高すぎない?俺なんか最初は気絶までしたんだけど。」


俺の部屋には白い女の幽霊と由香と雨姫、そして俺の抜け殻が部屋に転がっていた。

部屋の中はすし詰め状態で正直言って出て行ってほしい。だがやはりこれから幽霊を家に入れることになるのだから正式に伝えておかなくてはならないような気もする。


「でユーレイさん。名前ってないの?」

「すいません~生前の名前は憶えてないみたいで~。」

「じゃあユウさんとかで良いんじゃない?呼びやすい名前があった方が便利でしょ!」

「良いですね~!ユウさんですか!何かすぐにつけたにしては結構可愛い名前じゃないですか~!?」

「流石に俺達ネーミングセンスなさすぎじゃないか?」


そんな風に文句を言ったところで幽霊である俺は相手に触れることすらできない。

雨姫と由香が俺の半透明の体に手を突っ込んで遊んでいるのをやめさせられないのだから、この体になっている時の俺の言うことは聞いてくれないだろう。もちろんそれは幽霊になったことが原因ではない。


「ユウさん。生きてる時の事とかって覚えてるんですか?」

「うーん。大体は。でも忘れてることの方が多いというか特定の事しか覚えていないというか。」

「例えば?」

「忘れてることの例としては、人の名前と自分との関連ですかね。あとは自分の顔とか。でも創作物とかの名前なら憶えてるみたいです。もちろん登場人物も。あと生きてることの出来事は思い出せるんですよ。誰ととかは上手く思い出せないけれど。」


それは下手に覚えていないよりも苦しい事なのではないかと思ったりもした。

全て覚えていない方がむしろ現世に引っ張られない分だけ苦しくないのではないか、と。


俺も死んだらそうなってしまうのだろうか。

俺は半透明になった自分の体を見つめながらそう考えていた。


「そっかぁ。じゃあ自分の顔は憶えてるの?」

「ん~。大体こんな感じだったかなって言うのは分かりますけど、鏡にも映らないので5年はみてないですね......ハッ!!じゃあ、私、変な顔になってる可能性もあるってことですか!?どうしよう......」


ユウさんが頭を抱えて狼狽えている。

まぁ、見せてはいけないような顔ではないしどちらかといえば可愛いほうだと思うが、彼女の思っているような顔と同じかどうかは分からない。


「おにいちゃん......どうにか出来ないかな?」

「どうにかってそんな簡単にどうにか出来るもんなのか?スマホのカメラで写真とか撮れたりするものなのかな?」

「やってみるね!えっと......ハイチーズ!」

「あ、ちょっ!」


パシャリ!

スマホから無機質なシャッター音が再生される。


「どれどれ......あー、ごめん。なんか変になっちゃった。」

「これは......」

「どんな感じだ?」


雨姫と由香が同時に嫌そうな顔をした。

スマホの画面を見せてもらうとそこにはぼやけた物体が二つ映っていた。

これが俗にいう心霊写真か?そう考えてみると自分の体も映っているにもかかわらずちょっと怖い気もする。


「うん。写真は無理そうみたい。」

「だったらどうすることも......あ。出来るわ。」

「出来るんですか~!?」

「ああ。まぁ......こんな夜中にやってくれるかどうかはわからないけどな。」


--------------------


「それで俺が呼び出されたってわけか。これが幽霊ねぇ。何か思ってたより怖くねぇよな。もっと怖いものかと思ってたぜ。」

「元人間だからな......って言ったらどんな姿でもそうなのか。とりあえずお前にはこの人の似顔絵を描いてもらいたい。お前、絵は得意だろ?」

「あぁ、もちろん!他ならぬトシの頼み、何においても果たさねば!あ、そう。これで貸し1な?」

「俺の束の間の感動を返してくれ。でもなんで今日来たんだ?明日でも別に良かったのに。」


こんなに遅い時間にも関わらず傑に電話をかけるとものすごい速さで飛んできた。

実際に掛けたのは由香なのだが何か変な事でも言ったんだろうか。

とりあえず部屋が狭くなるからという理由で由香と雨姫を部屋から追い出した。


「別に?親父とおふくろに言ったら「行ってこい」って言われたから来たんだけど。」

「お前の家、ほんとにフットワーク軽いよな?」

「雨姫ちゃんをすぐに養子に出来るあたりお前の家の方がわりかし凄いと思うけどな。」

「それを言われると反論の余地がない。」


一通り話すと傑は持ってきた絵具セットやら何やらを取り出した。

やけにいっぱいある。道具だけはそろっているという理由では説明できないような量だ。普通家庭にこんな量の絵具はないだろう。


「買ってきたのか?」

「いや、うちにあったものだけど。」

「そんなにあったのか?」

「ん?ああ。俺の親父画家だしな。これぐらいの量は普通に使うんだよ。」

「そうなのか。え、画家?そうなのか?」

「あれ?言ってなかったか。」

「言ってないよ。」


傑は自分の話を話すことが少ない。

自分の話をしたくないのかは分からないが、単にする必要がないと思っているだけなのかもしれない。


--------------------


「出来たぞ!」

「出来た!?」


傑から完成の報告が上がると同時に部屋に二人が飛び込んできた。

ユウさんも興味津々にこちらを覗き込もうとしていた。

そして絵がユウさんの目に入る。


「あ......」

「どうかしたんですか......?」


ユウさんの顔が驚いたように静止する。


「これ......昔の私とおんなじです~。」

「そんなことでわざわざ驚かないで下さい。」

「でも久しぶりに自分の顔が見れてうれしいです~。」


ユウさんはその絵を覗き込んだりしげしげと見つめたりしながら笑っていた。

顔には出ないしあまり要求もされなかったがよほど気になっていたのかもしれない。

ユウさんはひとしきり喜ぶとこちらの方を振り返った。

その顔は何かを決断したような顔でこれまでとは少し違った雰囲気を纏っていた。


「ようやく踏ん切りがつきました。」

「何がです?」

「私を成仏させてください。出来ればあなたたちの手で。」

「え?」

さぁ!ほのぼの系かと思ったら実は違いました。

私を成仏させるとは一体どういうことなのか。

佐々木はそれを出来るのか?

亡霊編も中盤です。

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