やるべきことを果たせ
翻す体。
間髪置かずに飛来する物体。
時々、避け損なって皮膚の表面にかすり傷のようなものがつく。
「――――ックソ!」
皮膚にもかなりの強化は加えているはずだ。
この飛来物、最初は銃弾か何かだと思ったが発砲音が聞こえない。
――――しかも体感だが銃弾よりも速くて鋭い。
「何か考えているようだな。そんな状態で存分に戦えるのか?」
「人の心配ができるなんて逆の立場だったら、お前顔真っ赤だぜ?」
相手はこちらをニタニタとした笑顔で見つめる。
人を殺すのに夢中になっている。
嫌になる。
「良いだろう。お前が気になっていることについて説明してやる。別に説明したところでどうにかなる話ではないからな!この中には沢山の『管』が詰まっている。その中の空気を圧縮し、特製の強度が高くて重い銃弾を圧縮した空気と真空になった場所を使って掃射する。その機構が至る所にあるといった感じだ。ちなみにセンサーの類は作れないので市販だが銃弾は尽きることがない!!弾切れは考えないことだな!」
ペラペラと早口で良く話す。
「得意な事で早口になるからコミュ障っていわれるんだぜ?」
相手の顔が卑屈に歪む。
どうやら今さっきのはダイレクトアタックだったらしい。
「フフフ......フハハハハハ!!!ぶっ殺す。」
飛来する硬質な物質と跳び回る体、行く手を阻む円柱が交錯する。
センサーと飛来物の発射には若干のラグがあるので、それなりの速度で動き続ければ致命傷になることは無い。
問題は円柱だ。
円柱の対処に時間をかけることができなくなった。
少しでも時間をかければ体にデカい穴が開きかねない。
避けるときは地面を平面で考えるな。
立体的に考えろ。
上も下も立体的に行き来できるものだと考えろ。
今の俺はバケモノだ。
人間の枠を食い破れ!!
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「佐々木君、佐々木君。私はどこに向かっているんでしょうか。」
「着いたよ。」
「......倉庫ですか?」
「そうみたいね。......それにしても埃っぽいところね。汚らしい。」
「これと......これと......これとかも使えるかな?」
出来るだけ持ち運びやすいモノ、それに固そうなものが良い。
「えーと......持ち運ぶって言うならこれとかも良いんじゃないですか?」
「台車か!確かに良いかもしれない!」
「ホントですか!?よかったぁ!」
「何故かしら。私はこの倉庫に入って勝手にモノを持っていくという行為を正さなければいけないような気もするのだけれど。」
「まぁ、そんな固いこと言わずに。その代わりここだけの秘密だぞ?」
ララは大きくため息を吐いた。
「貴方がそう言うのであれば私は止めないわ。」
「やぁ!ジャッジマン!」
「オルクスじゃないの。久しぶりね!」
「おぉ、ララ!久方ぶりだな!何やら悪い風が吹いているようだからジャッジマンを探していたのだが、教室にも見当たらなくてな。その様子だと何やら面白いことを始めようとしているみたいではないか!フムフム......なるほど!良し!我も連れて行くのだ!黒狼団としての誓いを果たすのだ!」
「俺まだ一言も言ってないんだけどなぁ。」
頭を掻きながら不満を口にする。
計画に支障は......出ないな。
「すぐに否定しないということは了承を得たということだな!よし、行こう!」
「返事すら求められていなかったのか。」
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円柱を叩き落としながら反動で自分の体を跳ね上げる。
跳ね上がった自分の体は無理に体制を整えようとせず勢いに任せて宙に浮かばせる。
ある程度浮き上がったら、相手の攻撃を受け流しつつ全身の筋肉をしならせて回転しさらに高く。
円柱を蹴りながら着地、また走り出す。
「なんて動きだ......人間のできる動きではないだろう......」
「ぼうっと見てないでどうにかしたらどうだッ!?」
体の方向を変えて大地を蹴り出す。
間合いを......詰めるッ!!
攻撃と攻撃の間にできたわずかな隙間。
拳を堅く握りしめる。
間合いを詰めた勢いを全て一撃に叩き込む!
「『熊殺し』!!」
恐ろしく速く重い正拳突き。
熊の腹に当てても背骨まで叩き折る。
何かに当たる。
相手の体よりも近い場所で拳が止まる。
「気づかなかったのか?俺の周りには耐圧ガラスがある。深海の圧力にも耐える優れモノだ。」
クソッ!
次の攻撃がやってくる前に離れる。
確かに10mも離れればガラスなんて分からなくなる。
それに強度が普通の物質のソレではない。
強化ガラスは何層もの構造になっていると聞いたことがある。
このままでは攻撃を入れることはおろか指定の場所に誘導することも出来ない。
どうすれば......
いや、やるしかない。
それが俺の役目だ。
トシが頭脳なら俺は手足。
どうやってでも何とかする。
俺たちは運命共同体だからな。
「さぁ、かかってこい。俺の最高傑作『要塞』は攻略不可能!機能は真空砲だけではない!」
発射されたものを避ける。
少し大きめのモノだ。
......コレは!
「そう!ナイフの刃の部分だけを射出する機構だ!さらにしびれ薬が塗ってある!」
帽子男は一層意地汚い笑みを浮かべた。
「さぁ......どこまで耐えるかな?」
自分の拳はすでに血だらけだ。
傷はつかなくても掠るだけで動きが鈍ってしまうかもしれない。
早期決着させないとジリ貧になるのはこちら側だ。
「逃げてみろ!さぁ、足掻け!俺に懺悔しながら逃げ回ってみろ!!」
「逃げる?」
「ん?」
スゥッと頭が冷えていくのを感じる。
確かに逃げるのが最善手かもしれない。
反撃する手段がないのであれば逃げるしかないだろう。
しかし逃げたら......逃げたままだったらどうなる?
遠い思い出がフラッシュバックする。
それでは何も果たせない。
何もできない。
これからの未来を前に居る誰ともわからないクソ帽子に託せと言うのか?
「ダメだ。それだけは絶対。」
「逃げられないなら殺すまで!それだけだ!!」
頭を研ぎ澄ませる。
一つ一つのナイフ、微小な大きさの飛来物、上から襲い掛かる円柱、おそらくは円柱が出てくるであろう地面の盛り上がり、それぞれが鮮明に視える。
そこから生まれる最小限の動作。
当たっても良い攻撃と避けるべき攻撃を見極めた最小限の動作。
大きく動き回らずに少しずつ位置を変えながらジリジリと近づく。
「何なんだ......さっきとまるで雰囲気が違う。何なんだ!」
攻撃の手がさらに強くなる。
後ろからの攻撃は聴覚と風圧で察知する。
要塞が一つだけなのが幸いした。
後ろからの攻撃すら手玉に取る。
「答えろ!!一体お前は......!?」
敵前。
一気に加速する。
「『熊殺し』」
「それは効かなかっただろうが!馬鹿が。」
表情一つ変えずに次の攻撃。
「『食肉気殺し』」
ガラスにヒビが入る。
間髪入れずに更に強い攻撃を叩き込む。
「『鬼殺し』」
ガラスがバリィィンという音とともに跡形もなく砕け散った。
「馬鹿なッ!!」
「これで終わりだ。」
掌でつかんだのは空気。
「オォォォォォォオオオオオ!!!」
「待てェ!」
「魂抜き!!!」
手を音速よりも速いスピードで相手の腹に寸止めする。
圧縮された空気はとてつもない砲撃となり相手の体を吹き飛ばす。
そして一瞬、ほんの一瞬ではあるが、相手は意識を失う。
「行ったぞ!トシ!」
大声を張り上げる。
後は頼んだぞ。
俺は役目をやり遂げると地面に大の字になった。
「よくやったよ、傑。」
静止した時間の中で配置につく。
止まった時間の中では傑をどこかに座らせてやるなんてことはできないがねぎらうことならできる。
ここからは俺の役目だ。
傑お疲れさまでした。
今度は佐々木がやるべきことを果たす番です。




