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人には人の役割がある

帽子男が金棒と言っていたトゲの付いた棒を傑は難なく壊していく。

トゲの間をかいくぐり効率よく力を与え、目にもとまらぬスピードで拳を叩きつける。

拳を振りぬくと共に滑らかな重心移動。

さっきの攻撃の反動と回転、膨大な筋肉を軸にして放たれる一発一発が人間の持つ力をはるかに逸脱している。

ライフルよりも強く、ハンマーよりも鋭く。

一つ一つの攻撃方法が芸術的なまでに洗練されている。


こういうのを見るとやはりチーターは......傑は凄いなと思ってしまう。

いつもは照れくささからけなしたような口をきいているが、こういうのを見せられると唖然を通り越して感嘆してしまう。

それに比べて俺は。

傑の力を借りて筋肉を増強させたところで、一本一本の大きさが鉄骨並みの鉄格子を曲げる事すらできない。

やはり俺がコピーできるのは明らかな劣化版だ。

「クソッ!」

強く鉄格子に拳をぶつけたところで、それらは揺らぐはずもなかった。


------------------


敵の攻撃は単調だが、材質が少しずつ固くなっている。

手からは血が出ている。

噴き出すというレベルではないが、これはマズイ。

血液は肉体強化では補強できない。

トゲが現れた時も一瞬ヒヤリとした。

要は、血液が流れだしすぎるとそこで終わりなのである。

「早ぇとこ、逃げねぇとな。」

後ろをチラリと見るとトシが膝を落としていた。

攻撃でも当たったか!?と一瞬思ったが、違うみたいだ。

涙を流している。

音もなくすすり泣きしている。

あぁ、違う、違うんだ、トシ。

そこはお前のフィールドじゃないんだよ。

お前は――――


「どこをよそ見しているッ!!」

「お前があまりにも話にならないんで、ちょっと手ぇ抜いちまったよ!」

「その割には俺を傷つけることはできないようだな。」

「それはッ......!!」

確かにその通りだ。

トシが居るからと言い訳もできるが、トシが居なくても攻撃を当てられるかどうかわからない。

今はこの距離だから相手の攻撃の予測も出来るが、互いにもう少し近ければ攻撃をよけきることは難しいだろう。

その場合は相手もリスクを負うが、手数が多い分相手の方が有利だ。

帽子男もそれは承知の上だと思うが、相手にとってはこの距離が一番攻撃しやすいのかもしれない。

まだ手加減しているということは流石に......いや、あるかもしれない。


帽子男の顔は言葉のわりに狂気と笑いがにじみ出ていた。

「ふふ。お前はなかなか歯ごたえのあるやつだな。強い。戦い慣れているな?それに、綺麗ごとばかり言って実は戦いに飢えているのだろう?血に飢えているのだろう?」

「さぁ、どうだか。」

「ふふ。はは。ふはははは!!良い!良いぞ!その目だ。相手の攻撃を見定めて戦おうとする意思のあるギラギラとした目!その目をした奴と俺は戦いたかったんだ!!!」

やはり、狂っている。

自分の力をひけらかしたくて仕方がないのだ。

まるで手に入れたおもちゃを振り回して遊ぶ子供のように。

そして、そういう奴は最後にせっかく手に入れたおもちゃを壊してしまう。

その時に後悔しても仕方ないんだぞ!?


------------------


「ところで後ろの男は俺を楽しませてはくれないみたいだな?」

つい肩がびくりと動いてしまう。

「お前も異能力者なんだろう?なにか俺を楽しませる方法はないのか?」

あぁ。

ダメだ。

俺はこんな時に弱気を見せない虚勢の張り方も、反撃の方法も知らない。

頭が冷静にならない。

何も考えられなくなってしまう。

「お前は一体何なんだ?異能力は使えないのか?それともただ意気地が無いだけなのか?お前は一体何者なんだ?」

「俺は......」

ダメチーター

その言葉しか後に繋がる言葉を知らない。

膝を地面につけているだけでは何もできないのは分かっている。

涙を流していては何もできないのは分かっている。

あぁ。

助けてくれ。

どうしようもないんだよ。

「トシは。」

傑が口を開く。

「トシは俺たちの最終兵器だよ。そんでもってキーパーツだ。俺たちにはトシが必要で、トシが居ないと動けない。俺たちの心臓だよ。」

開いた口が塞がらないとでも言うのだろうか。

俺は傑の言葉に少し驚いていた。

「なぜお前が答える。」

「何故って......自画自賛はしにくいだろ?」

「尚更、ここでお前たちを倒す必要ができたようだな。」


「こんな卑怯な手は使わないと決めていたのだがな。」

嫌な予感がする。

帽子男がポケットの中から出したのは小瓶だった。

入っているのは......ただの水?

でも待てよ。

「じゃあな。沈めェッ!!!」

「傑!」

「あぁ、分かってるよ!」

後ろの鉄格子にはいつの間にか、外も見渡せないように膜が張っていた。

そして真っ暗闇に包まれる。

「『退避施設(シェルター)』」

相手が何か言うと同時に相手は何かに包まれた。

「水攻めか!」

「『大氾濫』!!」

爆発するように急速に水が増えていく。

「トシ!そこどけ!」

「おう!」

傑が手刀の形を作り急速に加速する。

一瞬で壁までたどり着いて一歩踏み込む。

力が一転に集中するのを感じた。

「『銀槍(シルバーランス)!!』

瞬間。

目の前に光が満ち溢れた。

「トシ!教室まで逃げるぞ!」

「おう!」


「逃げられたか。」

外壁には穴が開いている。

しっかりと補強はしていたつもりだったが、やはり足りなかったらしい。

「まぁ良い。いずれにせよ、奴らはかえって来ざるを得ない。」

能力を開放する。

溢れていたモノ達は全て粉塵と化した。


--------------------


「どうしたんですか!?その傷!!」

「チーターが現れてちょっとな。」

「ちょっとではないでしょう!?」

傑の右手からは血がぽたぽたと垂れていた。

小日向さんがカバンの中から絆創膏を取り出して傷口に貼る。

「サンキュー。小日向さん。」

小日向さんは心底呆れたような顔で見つめていた。


「そもそも何で私を連れて行かなかったんですか!?少しでも力になれたかもしれないのに。」

「それは咄嗟の事だったから......」

「咄嗟の事なら戦力が居るのは尚更でしょう!!」

ぐぅの音もでない。

確かに言う通りではあると思う。

だがしかし......

「あの時は、相手のことが良く分からなかったから余計に対策のしようがなかった。俺だけの力では倒せないし、小日向さんが居ても......多分、難しかったと思う。」

「ですけど、だからって......」

「勝負はまだ終わったわけじゃない。」

「え?」

傑の言葉に小日向さんが首を傾げる。

「逃げても多分追ってくる。......いや、追って来ないかもしれないが、その時はこちらが行かざるを得ない状況にさせられる時だ。」

「そんな......」

「だから、トシの力が必要なんだよ。なぁ?」

「あぁ......そうだな。」


「しっかり考えてくれよ。ジャッジマン。」

次回はやっと主人公の座が佐々木に戻ってきます。

イケメン相手だから主人公の座を渡してしまうのも仕方ない。

次回の佐々木はかっこいい......かも?

水曜日にまた会いましょう!

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