模擬店は人と一緒の方が面白い
体育館には、前の時にもまして人数が沢山集まっていた。
用意されたパイプ椅子はギュウギュウ詰めになるまで置かれており、クラス同士の椅子の隙間は人がギリギリ行き交い出来るほどしかない。
それもそのはず。
今日は来賓やら保護者やらが何人も来ていてその分の椅子も体育館内にわんさかあるのだ。
司会の人がノリノリの様子でマイクを握っている。
「ただいまより、三浜柳祭、略して三祭を行います!!」
「ウォォォオオオオオオ!!!」
歓声やら雄たけびやらが怒号のように鳴り響く。
そう、俺たちの最初の『三祭』が始まったのだ。
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「まだ、そんなに人は来てないみたいだな。」
「お昼まで少し時間がありますしね。」
開会式が終わってすぐに講義室に戻ってきたが、流石にまだお客さんは来ていなかった。
軽食店に比べて入りにくい事は重々承知なので分かっていたことではあるが。
「お客さん。来てくれますかね?」
「来てくれなかったら来てくれないで疲れなくて助かるんだけどな。」
「もう。またそんなこと言う。」
小日向さんが肘で俺を小突く。
そして俺に向き直り、口を開く。
「シフトまで時間があることですし、一緒に出し物見て回りませんか?」
「一緒に?」
それはもしかして、二人きりってことでは......?
何を今更、と言われそうな気がするがやはりまだ慣れない。
心の準備が......
「お、良いねぇ!一緒に行こうよ!小日向さん!」
「......はぁ。」
傑がちょうど講義室に入ってきた。
間が良いというか間が悪いというか......
「どうした?トシ。そんなに不服そうな顔して。もしかして二人っきりの方が良かったか?そりゃねぇな!トシにそんな甲斐性無いもんな!」
「悪かったな。ご期待に添いすぎて。」
「俺とお前は運命共同体だからな!」
うんざりするほど聞いたセリフだ。
「......うたかも...行く。」
傑の後ろには雨姫も居た。
「もちろん!一緒に行こ!」
小日向さんが乗り気なので俺が否定する理由はない。
皆で一緒に見回ることになった。
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俺たちはとりあえずチラシを見て面白そうなところから入っていくことにした。
「射的か。俺は久しぶりにするんだが。」
「そうですか?お祭りの屋台とかがあったらすぐに入ってしまいますけど。」
「トシは一緒に行く友達が俺ぐらいしかいないからな!」
「うるさい。」
傑の腹に軽くパンチを入れる。
「うたか......やったことない。」
「まぁ、やれば分かるだろうからやってみようか。」
「あー、惜しいですねー。」
「トシは相変わらず下手だなぁ。」
「......下手。」
俺は机に掌をたたきつける。
「うるさい!俺は楽しみたいだけであって上手くやりたいわけじゃないんだっ!」
射的なんてものは一喜一憂するだけで面白いのだ。
上手くやる必要はない!
だが「小日向さんにかっこいいところをみせたかったか?」と聞かれるとノーとは言えないのだが...
「えいっ......あぁ、倒れなかったですねー...」
「惜しかったですねー。あー惜しかった。」
「ひどい棒読みを見た。」
「......腹いせ?」
「まぁ、佐々木君よりは上手くできましたよ?」
「小日向さんは当たってて、トシはかすってさえいなかったからな。」
「ほんと、一言多いよなお前。」
「じゃあ、俺の番だな。」
傑は銃を手に取り、片手で持ちながらかっこよく決めポーズする。
「あからさまに流れ変えるのやめない?」
傑は射的用の銃を構える。
慣れた構え方だ。
まさしく惚れ惚れするように綺麗なフォームである。
パァンッ!
小さいお菓子の箱が見事に倒れる。
「まだまだぁっ!」
連続して続くコルクガンの発砲音。
次々にお菓子の箱が倒れていく。
「......ふぅ。はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございますっ!」
取った箱の数は5箱、それぞれ一つずつ皆に配り、傑は2つ分持っている。
二つ持っている真意が、引け目を感じさせない気遣いなのかは分からない。
ただ一つ言えることがあるとするなら......
「お前マジでイケメンだな。」
「ああ、もちろん!」
「次、雨姫の番......?」
「はい、どうぞ。」
そういってコルクガンを手渡す。
少し重そうに抱えて持っている姿が初々しい。
なんというか......父性が湧き出てくるような気がする。
「ん......しょ。......こんな感じ?」
「そうそう。」
パァン!
一発目は明後日の方向に飛んで行った。
まぁ、早々当たるものでもないし。
続けて二発目。
......これはもしかして。
「なぁ、雨姫。あのでっかいの狙ってるのか?」
「......そう。悪い?」
大きい物は倒れにくいからやめた方が......と言おうと思っていた。
しかし、そんな目で見つめられたら反論できない!
「全然!どうぞどうぞ。」
三発目。
掠った。
四発目。
カァン!!
当たった!
だが揺らいでいるだけ。
もう一押しあれば落ちていたかもしれないがこればかりは仕方ない......
雨姫の方を見て驚く。
装填スピードが段違いに上がっている!
まさか......
五発目。
右端の上にクリティカルヒットしたコルク弾はさらなる追い打ちをかけた。
揺らいでいるうちに仕留める。
まさしくスナイパー。
その大きな箱は後ろに倒れた。
俺は絶句して一言も話すことができなかった。
「これが......ビギナーズラック?」
「あれはまさしく実力だな。」
「才能の伸びしろを感じますよねぇ。」
その大きな箱に入っていたのは射的とかでよくあるBB弾のエアガンだった。
雨姫は楽しそうにエアガンを見つめている。
まさしくおもちゃを貰った子供のようである。
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「ついにやって来てしまいましたか......」
「ん?まぁ、定番だからな。」
俺たちはある模擬店の前に立っていた。
そう。
それは、
「......お化け屋敷。」
雨姫が俺の服の袖をギュッと握る。
「おい......やっぱり入るのか?」
「ここまで来て入らないのもなぁ?」
俺は傑の唯一の弱点を知っている。
傑はホラー系が大の苦手なのである。
対して俺はそんなに怖い物はない!
ということはこれが傑にマウントが取れる唯一のアトラクションなのだ!
一度、足を踏み入れると、暗幕で囲まれているのもあって一寸先もろくに見えないぐらい真っ暗で、お化け屋敷独特の雰囲気を醸し出している。
長い長い一本道になるよう設計されているらしい。
「ワッ!!」
「きゃあ!」
小日向さんが道の端から出てきた物体に驚かされている。
ガシッと俺の体をつかむ。
「す、すみません!」
「い、い、良いんです。これくらい。」
俺はむしろ小日向さんが抱きついてきたことにパニックになる。
でもこれはこれで悪くない。
なんだかちょっと頼られている感じもして良い気分だ。
突如、頬をぬるっとした感触が通り過ぎる。
「うぉっ!なんか今、ぬるっとした!ぬるっとしたぁ!」
「焦るな。多分これはこんにゃくだ。」
ダメだ。
傑が雰囲気にやられてしまっている。
「って、俺の制服でそのぬるっとした奴を拭くな!!」
雨姫が俺の服の裾をギュッとつかむ。
というかこれはつかむというより強く引っ張る感じだ。
知らないうちにどんどん力が入ってきているのだろう。
「雨姫ちゃーん?これ以上引っ張ると服すっごい伸びちゃうんですけどー?」
「............うるさい。」
辛辣ゥ!
そんなこと気にしている場合ではないといったところだろうか。
「で、このお札を地蔵の前において出口から出ればいいってことか。」
「は、はい!早くしてください!」
「早く置けって!」
皆、満身創痍である。
......俺は別の理由で満身創痍なのだが。
小日向さんが俺の体をつかんでユッサユッサと振り回す。
最初のうちは謝っていたが途中からは放心状態になってしまい、俺の体に抱きついたり揺さぶったりやりたい放題である。
雨姫のつかむ力も、傑の俺の体に八つ当たりする力も強くなっている。
チートを使っていない分まだましだが、それでも痛いものは痛い!
「じゃあ置くぞ......」
「(ゴクリ)」
こんなものは見え見えだ。
放心状態にでもなっていない限り想像がつく。
「早く行こう!出口目の前じゃねぇか!」
「走るなって書いてあっただろ。注意書きに。」
「うるせぇ!!」
メチャクチャだ!
「コッチヲミロ。」
「「「は?」」」
出た。
最後の難関だ。
恐る恐る後ろを振り返る。
「バァァァァ!!!」
「ギャアァァァァァァァアアアアアア!!!!!」
地蔵が動き出した!
「オフッ!!」
傑が背中を殴った。
早く行けということだろう。
行かなきゃ............ん?
足が動かない!
雨姫と小日向さんが膠着状態で俺の体に張り付いたまま動かない!
き、気絶してる!?
「起きてぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁぁ」
五分後......
「んー!思ったより怖くて楽しかったですね!」
「そうだな!久しぶりにはしゃいだ気がするぜ!」
嘘つけ嘘つけ。
俺のボコボコになった体を見ないようにしているのは分かっている。
「......もう一回行く?」
「「「いや、もう良いです。」」」
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俺たちは講義室に戻った。
まだ昼前。
そんなに混雑はしていないはずである。
ガラガラと音をさせながらドアを開ける。
「あっ!佐々木ィ!!早く来いっ!もう客が来始めてる!!」
「は?」
「だから、予想よりも少しペースが速かったんだよぉ!!早くシフトに戻れ!」
シフトの時間はまだ来ていない。
しかし人数が多くて、人手が足りないということだろうか。
......何か荒れる予感がする。
いよいよ三浜柳祭がスタートしました!
佐々木達は、一週間という短い時間の練習成果を見せられるのか!?
次は土曜日に投稿です!!




