意思は一つにならずとも
俺たちは教室で軽食はできないと判断し早めに申請を出していたため、学校の玄関から近い講義室と言う場所に出店することが決まった。
これならお客さんも来やすいだろう。
沢山お客さんが来れば、作り甲斐はあるかもしれない。
......だが、疲れてしまうだろう。
俺からしてみればどっちもどっちである。
「今日の集まりってここで間違いないですよね?」
「あぁ、小日向さん。そうだよ。」
「なんで佐々木君は倒れてるんですか?」
「それはだな......」
傑は、荷物の運び込みと言う重労働があったことを告げる。
食器やガスコンロ、テーブルや椅子、さらには醤油差しなどの小物まで運び込む重労働を終えて、ぐったりとしていたのだ。
大体、傑がなぜあんなにも元気そうな顔をしているのかが俺には理解できない。
「じゃあ、料理班じゃないのでお先に失礼するよ。」
「はい。お疲れ様です。」
そう言うと傑は足早に帰っていった。
やる気を出すのなんて月に一回程度が良いのだ。
そんなに何回も何回も使っていたら体がもたない。
この頃の俺はちょっと頑張りすぎである。
......言ってしまえば小日向さんのせいなのではあるが......
人のせいにするのは野暮である。
今日、まだ集まりがあるのかなんて考えたら、疲れに押しつぶされてしまった。
そして、床にへたり込んでいるのである。
「佐々木君、起きてください。だいぶ人が集まっていますよ。」
「......分かって......ますから......もう...すこし...」
頬のあたりをつんつんしてくる。
これは......雨姫か。
「...起きて。ムネトシ。」
「もう......ちょっとだけ......」
「早く起きないと、このまま目立つところに運んで行って学校中のさらし者にしますよ?」
「それは嫌です。」
がばっと飛び起きる。
疲れた体を奮い起こして、気力を再充填する。
「なんかすごい効果がありましたね。」
「ハハハ......」
小日向さん、恐ろしい子......!
「じゃあ、中にはいりましょうか。」
「はぁ……」
言われるがままにぼんやりとした頭を覚醒させながら、講義室の扉を開けた。
「これで全員ですか。」
ものの数分で全員集まった。
多分ギリギリまで寝かしておいてくれたのだろう。
......まぁ、それも多分の域を出ないのだが……
中に集まっていたのは、10人弱だった。
この人数で定食屋は出来ると啖呵を切ってしまったが、相当工夫しないと難しいだろうと思う。
「今回、集まって頂いたのはメニューを考えるためです。どうすれば自分達も三祭を楽しむことが出来るのか。どうすれば調理の手間を減らせるか。みんなで考えていきましょう。」
なんかこうやって言うと、委員長とかになった気分である。
「本当に定食屋なんかできると思ってんのか?」
真っ先に口火を切ったのはクラスメイトの長谷川修斗だった。
疑問に思ったことはすぐ口に出るタイプだが、結構頭はキレる方らしい。
「見た所、これじゃ機材が全然足りねぇ。本格的な定食屋やるならもっと色々いるんじゃねぇか?」
「そんなに本格的にとても美味しいものを作ろうとしている訳では無いんです。出来るだけ美味しく、そこにあるもので作れるものを作るんです。」
「はぁ?お前定食屋ナメてんじゃねぇのか?わざと料理のレベル落とすなんて。それでも料理しようってのか?あほらしい。」
時々こういう奴もいる。
参加する気はあるのだろうが、初っ端はまず否定から入るのだ。
自分は気持ち的にはこういう奴かもしれないが、他人を貶めるようなマネはしない。
「文化祭で出す模擬店なので最高のクオリティを求める必要はないんですよ。今ある機材で出来るメニューを考えて出来るだけ作り置きが簡単なものが作れれば良いと思います。」
「出来るだけ、がお粗末すぎて食えないものにならなきゃ良いがな。」
「あのー……」
口を挟んだのはあの引っ込み思案の子だ。
「えーと……」
「あっ、私……えー、原田です。」
そう、思い出した。
原田千歳さんだ。
これまで話したことがなかったので咄嗟に名前が出てこなかった。
「原田さん?」
「そうですよね……私、名前なんか覚えてもらえないですよね……いや、何でもないんです。気にしないでください。」
悲観的な考え方をしている。
そんなにネガティブにならなくてもいいのに……というのは自分が言えた話ではないだろう。
「あのー……その、前に佐々木さんが言ってたようにメニューさえ工夫すれば、そのー、料理は出来るんじゃないかな〜とか……なんか出しゃばっちゃったこと言ってすみません!」
ガタンと椅子を引いて素早く席に座る。
まだ何か言いたげだったが、途中で怖気付いてしまったのだろうか。
ただ、それでも自分の意見を言おうとする人なのだ、と少し感心する。
「フンっ。まぁ好きにしな。」
タカを括っている。
本当に納得したのかは分からないが……良いだろう。
「じゃあ皆でとりあえずメニューを考えちゃいましょうか。今回で全部決めるつもりは無いので気を楽にして良いですから。」
数十分かかってようやくメニューが出揃った。
あまりたくさんの食材の種類は使えないのでそれなりに絞られたメニューが数種類。
普通の定食屋さんの定番メニューで固めたと言った感じだろうか。
ともあれ、これで最終決定ではないにしろメニューは考えられたと言ったかんじだろうか?
「で、なんでお前がここに居るんだ?」
「佐々木ィ、お前がそれを言うのかよぉー。俺も料理できるからに決まってるだろ?宿泊研修の時に誰の班が1番にカレー作り上げたと思ってるんだよ?」
「…………興味無いな。」
「ちょっとぉ!?」
何はともあれ、三祭まで残り1週間。
準備は順調……とは言えないにせよ、出来ることはやるつもりだ。
……何事も無いと良いのだが……
一一一一一一一一一一一一一一
一方その頃、病室の窓を除く男が1人。
「三祭か。懐かしいな……」
その男はボソリと誰もいない病室で呟いた。
「今年は俺が居なくても……どうにかなると良いんだが。」
メガネをクイッとあげながら学校の方を眺める。
去年のようなことが起こらなければ良い。
「諸君らだけで、何とか出来れば良いのだが……な。」
三祭まで残り1週間!
不穏な空気も流れ出す三浜柳祭ですが、果たして上手くいくのでしょうか?
それに去年にあったこととは一体……?
来週の水曜日にまた会いましょう!




