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幸せの形は人それぞれ

「それにしても、雨姫さんって佐々木君にべったりだよねぇ。」

小日向さんが後ろを向いてそう言った。

雨姫の席を出席番号を考慮して入れると全員分の席が動くので城崎先生が後ろの方の席を指定したが、それが俺の席の位置と近いので、幸か不幸か雨姫が俺を盾に使いやすい位置になってしまったのだ。

「そんなこと......なぃょ...」

語尾が小さくなっている。

「まぁ、雨姫は...少しずつ慣れてもらわなきゃいけないけど...別にすぐに慣れる必要はないんじゃないか?」

多少は仕方がないと思うところもある。

「でも、トシ一人っていうのは何か気に食わないよなぁ?」

傑が不満そうな顔をしている。

要は俺だけ雨姫と親しいのが気に食わないらしい。

「お前...気に食わないってなぁ...」

「だって俺が居なきゃ、今頃警察さんとお茶してたんだぞ、トシ。」

「.........まぁ、そうだけど。」

行方不明の捜索依頼や何やらでてんやわんやだっただろう。

「じゃあ!」

小日向さんが大袈裟に身を乗り出す。

「ピクニック行きましょう!!」

「「「ピクニック?!」」」



「じゃあ...行くか...ピクニック。」

「う、うん。」

そして土日の休日がやってきた。

ピクニックなんて何時ぶりだろうか。

いや...よくよく考えてみると行ったことがない。

ここら辺は結構自然に囲まれた場所だが、どこでもいつでもできると思ってしまったら遊びに利用しなくなってしまう。

「ちょっと...不安。」

知らない人...というと語弊があるが、まだ知り合ったばかりの人と一緒にピクニックというのはハードルが高い。

「大丈夫だろ。そんなに悪いことにはならないんじゃないか...?」

杞憂でないと良いのだが。



なんで下調べをしてこなかったのだろう。

「あれー?おかしいなぁ。『絶好のピクニックスポット』って書いてあったんだけどなぁ。」

「何に書いてあったんだよ......」

そこは雑木林。

まだ途中の道ではあるが、草ボーボーで車が通った後もましてや人が通っている後さえ見当たらない。


「きゃっ!」

小日向さんの声だ。

「どうしたんですか?」

振り向くと手をブンブン振り回している小日向さんが居た。

何か、ちょっとかわいい。

「毛虫がぁっ!手に張り付いてっ!」

「...ちょっと待って...」

雨姫が手に張り付いた毛虫をつまみポイッと放り投げる。

「うん...取れた。」

「そういうのは気にしないんだな......」

「ありがとう。宇鷹ちゃん。」

「......っ!」

そそくさと俺の後ろに隠れる。

どこがアウトでどこがセーフなのか教えてほしい。

また小さい悲鳴が上がる。

「蛾がまとわりついてっ!あぁ、今度は蜂がぁっ!」

まだまだ先は長そうである。


「うたかちゃん...ありがとー。」

「ううん...これぐらい...は...気にしない......で?」

もう結構歩いただろうにまだつかないらしい。

それにしても、みんな疲れてないのはなんでだ?

やはり俺の体力が衰えたのか?

二人は分かるが何で雨姫も疲れてなさそうなんだ??

「ゼェゼェ...ハァハァ......」

「あっ!!見えたっ!見えてきましたよ!!」

この期に及んで何が見えたというんだ。


顔を上げてみてみるとそこには...ぱっと広がった小高い丘が見えた。

草原が広がり、まばらに木が生えているおかげで日が直接当たることも少ない。

きちんと整備されているわけではないようだが、周りには人もおらずこの景色を独占した気分になれる。

「おぉ...」

期待していなかった分の衝撃が結構大きい。

すごく...爽快な気分だ...

こんな気分は久しぶりである。

吹き抜ける風、柔らかい日差し、温かい陽気。

確かにこれなら......年に一回ぐらいならやってもいいかもしれない。

「すげぇな。小日向さん。俺、てっきり砂漠とかに連れていかれるもんだと......」

これには傑も感心している。

傑はあまり綺麗な物とかには興味がないほうだから、これは少し凄いことなのかもしれない。

「私を見くびらないで下さいよ~!」

これには小日向さんも鼻を高くしている。

ちょっと子供っぽい感じがして、何か可愛い。


「ちょうどいい時間ですしお昼にしましょうか?」

「いいですね。」

そして昼食は...

「じゃあーん!作ってきちゃいましたぁ!」

小日向さんの手作りだ。


「おいしい!」

「すごい。てっきり料理とかできないものなのかと...」

「だーかーらー!見くびらないで下さいー!」

ポカポカと叩いてくる。

「まぁ、ちょっとお母さんに手伝ってもらったりはしたけど......でも、大まかには自分で作ったので実質私が作ったも同然です。」

それはそうだ。

そこをうたがったりはしない。

「唐揚げもーらい!」

「許さん!お前何個目だッ!」

箸を持ったまま文句を言う。

「早い者勝ちに決まってるだろ?卵焼きもーらい!」

「ほう。貴様、死にたいようだな。」

激しい箸のぶつかり合い。

時々火花が飛び散っているっ、そんな感じだっ!

「なんか...とっても...楽しそう。」

「そうですね。作ってきたかいがありました!」


「ふぅ、食った食った。」

「結構多かったもんな。」

結局争うこともないほど多い量だった。

「いやぁ...やっぱり男の子ならこれくらいは食べるかなって...」

アハハと小日向さんが乾いた笑いを漏らす。

「次......どうする...?」

雨姫が疑問を投げかけてくる。

俺はあまりピクニックに行ったことは無いのでそんなに遊ぶという感覚もない。

「どう、しましょうか...?」

小日向さん、そこはノープランなんですか...?

「まぁ、鬼ごっこって歳でもないしなぁ。何で遊ぶって...そういえば考えてきてなかったなぁ。」

傑もあまり考えていなかったらしい。

「......何も...しないっていうのは...?」

「「「へ?」」」


俺たちはそれから草原に横になり軽く談笑したり、最近会ったことについて語り合ったりした。

天気にも恵まれて温かい昼下がり。

横になっているだけでもウトウトしてしまいそうである。

傑はしばらくしてちょっと横になってくると言って食べた弁当の近くで死んだように寝ていた。

まぁ、大部分の弁当を食べたのはアイツだ。

負担を強いって申し訳ないとは思っている。

「結構...眠くなってきたな。」

「そう...ですね。こんな機会、なかなか...ないですから...」

小日向さんも大分眠たそうである。

雨姫はすでに寝ている。

流石、マイペースを極めし女。

しかし、寝顔を見ていると本当に助けてよかったと思う。

あの部屋の中で16年間、彼女は寝ていなかったのだ。

そう考えると彼女にとって寝ることはある意味、特別な行為なのかもしれない。


「スー...スー...」

寝息が聞こえる。

小日向さんの寝息だ。

大分寝つきが早いらしい。

今さっきまで話していたのに...

寝息、垂れる髪。

とても、可愛い。

「ん...。ぅあ...」

寝言のような声を出して寝返りをする。

一気に小日向さんとの距離が縮まり、改めて距離の近さを意識する。

こんな状況で...寝られるわけないじゃない。


俺は基本的にヘタレだ。

こんな時に誰も気づかないからと言って手を出すことなんてできない。

故に...


「おはよう。小日向さん。」

起きたのは3時を少し回ったくらいだった。

ざっと小一時間寝ていたことになる。

雨姫は...まだ寝ている。

「はっ!よだれが垂れている。す、すいません!なんかだらしない姿を見せちゃって。」

「気にすることは無いです。むしろ、いいものが見れました。」

少し茶化してそう言う。

「...何ですか、それ。」

「なんでもないですよ。」

小日向さんがジト目でこちらを睨んでくる。

君の寝顔が可愛くてついつい見惚れていただなんて死んでも言うまい。

ふっ、と小日向さんの目尻が和らいだ。

「でも、佐々木君が何もしてないことぐらい分かりますよ。」

「え?」

つい、戸惑った顔になってしまう。

それはそれで心外だ。

小日向さんが意地悪そうな顔をした。

「だって、佐々木君、私が応援してあげないと何もできないヘタレさんですから。」

はは、と笑いが漏れる。

何だそれ。

でも...

確かにそうかもしれないな。


行きはよいよい、帰りは怖い、なんて言うが、俺たちにとっては帰り道の方がなんだか早かったような気がする。

それはピクニックが楽しかったからだろうか...それは分からない。

でも、一つ言えることがある。

今日は最高の日だった。

幕間の物語、楽しんでいただけたでしょうか?

次はまた新編、突入するのか?

いや、多分しないだろうなぁ。

という訳でもう一話幕間を挟みます。


連続投稿もあと三日!

最後までお付き合い下さい!

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