ポチ太の野良犬生活
我が名はポチ太。
従順にして敬虔な、犬である。
ワシの一日は朝日より少し早い時間帯から始まる。
ご婦人が起きて弁当を作る。
その時間からワシはともにそばに居て、じっと仕草を観察する。
「あら、ポチ。今日は早いわねー。」
ご婦人はどうやら他の家族とワシの呼び方が異なるようじゃ。
『ご婦人、今日もご苦労様じゃな。』
「あら、そう言ってくれると嬉しいわ~。ちょっと朝ごはんサービスしてあげちゃおうかしら?」
何と言っているかはよくわからないが、ご婦人は笑顔なのでどうやら喜んでいてくれるらしい。
そう思ったら嬉しくなったので、ついつい尻尾を振ってしまう。
「いただきます。」
家族が四人...だったのがいつの間にか五人になっている。
家族とはそんなに軽々と増えて良いものだったであろうか...
今はそんなことはどうでも良い。
今日の朝飯は白米にお味噌汁を混ぜたモノ...つまりは猫まんまである。
何故これを猫まんまと呼ぶのか。
猫専用という意味であれば犬としての矜持が......
でも美味しいので食べずにはいられない。
「ごちそうさま」
一番早く食べ終わったのはご主人、ムネトシ殿だ。
『ご主人、今日はいつ学校に行かれるのじゃ?』
『そうだな...30分後ぐらいかな?』
『承知致した。それではその時間までに支度は済ませておきまする。』
『今日はどこか出かけるのか?』
『うむ。少しな。』
「じゃあ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。あら?今日はポチ太も出ていくのね?」
「ああ、なんか用事があるとかなんとかで。」
「あら、犬業界も大変なのねー。行ってらっしゃい。」
『ムネトシ殿と一緒の時間ぐらいで帰宅するつもりなので、ご婦人はご心配なさられぬよう。』
「じゃあ...行こ?」
雨姫殿も一緒に出ていかれるようである。
「ああ、行くか。」
『それではワシはここで失礼する。達者でな!』
『そんな死地に出向くわけでも無いのに...まぁお前も頑張れよ。』
そう言って途中の曲がり角を反対方向に入っていく。
現れたのは空き地だ。
そこには数匹の犬が集う。
そう今日は『荒れ地の会』の合同集会だ。
鉛色の空。
空き地にはドラム缶やゴミ袋が散らかっている。
「えー、今回、春の合同集会です。議題はー」
「メシだ。メシメシ!!」
「オンナに決まってるだろーがバーカ!」
「眠い...寝る」
議会は鳴く鳴く、されど進まず。
いつもこんな感じだ。
ワシは話せるようになってから少し知能も上がったが、犬なんて所詮は欲望の権化。
仕方ない。
それでも集会を行う理由があるのだ。
「ちゃんと聞きなさい!この野良犬たちの集まる集会にこの集会は必要不可欠だ!ワシ達が生きる事は死線をギリギリで避けなければいけない!その為に協力する!それが『荒れ地の会』だ!」
「でもお前、もう飼い犬じゃねーかバーカ!」
「それはそれだ。お前らと関わったからには守らなければいけない。」
黙り込む。
「では、今回の議題は、食糧問題は解決したんだったんだよな?」
「足りないけどな!」
「縄張りは......取ったから。」
「そうか。もちろん子作りはダメだ。今も食いブチが安定していないのに数は増やすなよ。」
「何言ってんだ!今は春だぞ!秋まで待てっていうのか!頭おかしいんじゃねぇのか?!バーカ!」
「お前なら分かるはずだ。今、欲に流されたら死んでしまう。」
「......ああ、分かったよ!仕方ねぇなぁ!」
プスンと横を向き、泥だらけの柴犬は尻尾を下ろす。
良かった、理解してくれたようである。
「じゃあ本格的に議論だな。」
「でもよぉ。いっつもお前が考えるだけじゃん。」
「そーだよ!バーカ!」
「Zzz......」
「はぁ...これでは議論にならない。」
犬は奔放なのだ。
明日生きられればいいと思っている。
それは間違いではない。
未来は明日の積み重ねである。
しかし、いずれ明日が来なくなるかもしれない。
その為に準備をするのが擬似人間の知性である。
......……
やはり自分が決めなければ進まないらしい。
「議題は他の縄張りをどうするか、だ。」
「縄張りなら退けたぞ!」
「この地域にはたくさんあるだろ?」
「そうだけど面倒臭いじゃん。今のままでも大丈夫だろ。」
ワンワンとブーイングが吹き荒れる。
「交渉してみるだけだ。俗に言う『ふかしんじょーやく』ってやつだよ。」
「なにそれ?」
「どっちも攻めないっていう決まり……みたいな?」
ザワザワとざわめく。
「では2日後には集まって来るように。以上です。」
「ふわぁぁぁぁぁん……疲れた……」
「「「お前は寝てたじゃねぇか!」」」
次回はポチ太が他の縄張りに突撃していく……かも?
犬目線からお届けする幕間『ポチ太の辺鄙な日常』明日も投稿!
お楽しみに?




