鍵を開けるのは優しさだ
「そっか。雨姫も大変だったんだな。」
「.........」
黙っている。
人にこんなことを話すのは、相当勇気のいることだ。
特に苦しい話は。
聞かれたら自分のことを嫌になってしまうかもしれないと考えてしまう。
俺の場合はもう少し軽い話...かもしれないが、それでも話すのにとても時間がかかった。
その気持ちは本当に良く分かる。
「雨姫。」
「ん...?」
こちらに顔を向けている。
三角座りは崩さない。
がっちりと手を前で組んだまま顔だけこちらに向けている。
「雨姫はこれからどうしたい?」
「...どういう...こと?」
彼女が首を傾げる。
少し訝しげな目をしている。
「言葉そのまんまの意味だ。これからどうしたい?」
「どうって......」
多分、そんなこと考えたこともなかっただろう。
ずっとこの中で過ごす。
そう考えていたことだろう。
少し独り言を言ったりなんかもして、
前とは違ってしっかりと考えている。
独り言が漏れて聞こえている。
そして、上を向いた。
「うたかは、ここから出たくない。」
はっきりとした口調だ。
それでいてしっかりとしている。
「でもそれじゃ、俺が困る。」
彼女は黙って俯いている。
決意は固いようだ。
「......別にいい。......もう、ここから出なくても...良い。」
雨姫が少しどもりながらつぶやく。
それは諦めではなかった。
出られないから諦めたのではなく、ここに居たいと思って言っているのだ。
彼女の心は思った以上に強い。
何年もここに居たから強くなったのか...それともそれまでに築き上げられたものなのか......
「でも俺は出なくちゃならない。」
「だから...」
「でもお前の気持ちを捻じ曲げたくはない。」
「え?」
「だから俺はお前が出たくなるまでここで話すよ。それで出たくなったら戻ろう。」
ポカーンとした顔をしている。
それはそうだろう。
俺だってこんな言葉、誰かに聞かれていたら顔真っ赤である。
だが、時間が残っているかは別として、これは大切な行為だ。
絶対に避けて通ってはいけない、大切な行為。
そのために時間はあるのだ。
「説得しようったって......そうはいかない...」
「なんで、あっちの世界に帰らないんだ?あっちの世界はもう16年経ってる。お前のことを知ってるやつはあんまりいないぞ、多分。」
もう、ここにいる理由は無いのだ。
「誰が居たって...誰も居なくたっておんなじ...また同じことになる。」
「それでも俺はお前を知ってる。だからお前の味方だ。お前が変なこと言ったら俺がカバーしてやる。だから気にしなくていい。」
彼女はフッと目に光を宿すが、それでもまた戻ってしまう。
「だって...私、そんなに話がうまくない...帰っても居場所なんてない。」
「お前の居場所ぐらい俺が作ってやる。」
それ自体は難しいことじゃない。
俺を受け入れてくれた人たちならきっと雨姫のことも受け入れてくれる。
「帰っても受け入れてくれる場所がない...!どこにも行けない...戻れない...!」
「うちは多分大丈夫だ。そこらへん寛大だし、きっとどうにかなる。どうにかする。」
そう、多分。
うちはそういうのが寛大なのだ。
多分、どんな手続きがあっても済ませてくれるだろう。
だから今回も多分大丈夫...なんじゃないかな...?
見てみると俯いた雨姫の目から涙がこぼれだしていた。
ぽたぽたと流れ落ちる涙が白い部屋の床に落ち黒いシミを残していく。
「だから、大丈夫だ。もう出てきて良いんだよ。」
彼女は三角座りの手を解く。
そして...
「どうして......!どうしてそんなに......無責任なことが言えるの...!!」
俺の胸倉をつかんだ。
掴む手に力が入っていない。
「俺だって本気だ。」
「本気なら...!そんなに......何で......!」
何で軽々しく言える?
何でそんなに難しいことを軽々と『できる』と言える?
「分からない。でも多分、できると思うんだ。全部。」
「え...?なん、」
「君は根が悪い人じゃない。良いことが何かわかってる。人の事は分からなくても、もめ事の上手い躱し方が分からなくても、君は優しいんだ。だから、きっと受け入れてくれる。」
「そんなこと...」
「あるよ。俺だって誰にでも優しいわけじゃない。」
「......」
「だったら、もう私を...」
真っ暗闇。
深い深い海の底。
遠く遠くに光が見える。
その光に...白とは違う光にゆっくりと手を伸ばす。
今なら掴めそうな気がする。
...戻って...来た。
帰ってきた場所と同じ...
ッ!
交わした会話が頭を流れる。
重要なワード、
『何度も結んでは解いた結び目をしっかりとキツく結び直し首をかけた。』
マズイッ!!
ドアに手をかける。
鍵が開いているッ!
「雨姫ッ!!」
「グゥッ...」
つり下がった体に真っ青な顔。
「さ...さき...!」
何か良い物は...ないッ!
躊躇いもなくガラスを割る。
破片に手を伸ばしきつく握る。
血液が流れだす。
「ウオオオオオォォォ!!!」
ブソッ!
縄が切れる鈍い音がする。
雨姫がそのまま床に倒れる。
首元にまかれているきつく締められた縄を断ち切る。
「ゲホッゲホッ...!」
「大丈夫か?立てるか?」
手を差し伸べる。
ゆっくりと手を取り、そして立ち上がる。
「私を...もう私を、一人にしないで。」
「ああ。もちろん。その時は俺も道連れだからな。」
笑ってそう答える。
彼女は少し苦笑いした。
さて、開かずの間編の次回はその後を少し書いて終了です。
佐々木君が見栄を張ってとてもかっこよくやっていたので、筆者は満足です。
その後、彼らが消えている間どうなっていたのか。
そのあたりを色々書きます。
明日も連続投稿!




