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ゲームは本気でやることに意義がある

「はー!すっげぇ疲れたぁ!」

大の字になって白い部屋の床に大の字になる。

「うたかは...まだ...できるよ?」

「雨姫、メンタルだけは強いよな...。」

頭を使うと腹が減るはずなのにそれがない。

疲れるはずなのに、身体的な疲れは無い。

精神的に疲れた。

頭が疲れたという奴だ。

この体制だけ見れば俺がボロ負けしているようにも見えるが、俺の勝率は8割。

俺の完全勝利と言っても過言では......それは過言か。

それでもメンタルは彼女の方が圧倒的に強いらしい。

「ちょっと休憩しよう。もうこれ以上は頭が回らない。」

「むねとしは頭使いすぎ...もうちょっと何も考えずにやればいいのに...」

「やるからにはやっぱり勝ちたいだろ?」

彼女はしばらく黙った。

斜め上を向いたまま静止している。

「ううん...別にそんなことは...ないよ。」

「え?」

驚いて寝ころんだまま顔を向ける。

少し意外だった。

やはりゲームをするからには勝ちたいと思うだろうに。

「だって...勝っても意味ない......」

「それは...勝っても意味は無いけどな。でもやっぱり相手が前にいるんだったら勝ちたいと思うだろ?」

「相手が勝ったら、相手も嬉しいでしょ?」

ああ。

すこしずつ分かってきた。

この子は、相手の気持ちが良く分かっていないのだ。

ゲームは本気だから楽しいのだ。

本気でやらなければ、その勝ち負けに意味は無い。

彼女にはその感覚が...他人に勝って楽しいという感覚が...足りてないのだ。

人に対する好意や愛着のようなものが足りていないのだ。

「じゃあ、雨姫が本気になれるまで付き合ってやるか。」

「ほんと?」

「ああ。本気でゲームすることの楽しさを教えてやる。」

「うん。では、お願いしよう。」


まずはゲームを楽しいと思わせることから。

俺はゲームを楽しいと思ってやっているが彼女はそうでは無い。

要は、まだ勝つというのが目的になっていないのだ。

勝っても負けてもどちらでも良い。

そう思っているのだ。

ならゲームの趣向を変えてみるしかない。

相手を夢中にできるようなゲームだ。

それでいてルール自体は難しくない。

勝ち負けなど関係ないところから始めてみるのだ。


「じゃあ、俺の出したお題で文章を作ってくれ。」

「......どういうこと...?」

「例えばそうだな...りんご、男の子、猫...で何か文章を作ってみよう。一文じゃなくてもいいぞ。」

「......男の子は...りんごを...猫に投げつけました...とか?」

内容はあれだが、まぁ良いだろう。

「じゃあ、ライオン、川、軽い、白。これならどうだ?」

「......ちょっと、難しい。」

「それでいいんだよ。ゆっくり考えよう。時間はたくさんあるんだ。」


それから俺たちは何度もそれを繰り返した。

少しずつヒントを与えながら、ひらめいてもらうといった感じだ。

こういうのはゲームというより想像力を鍛えるといった感じだが、考えることに慣れていない人がこれをすると閃いたときに結構嬉しい。

「じゃあ、そうだな...砂糖、綺麗、ふわふわ...天秤、赤......カルガモ...なんてどうだ?ちょっと難しいか?」

このゲームは話をつながらせることが肝だ。

そしてやっているうちに少しずつ上手くなる。

要するに達成感が沸きやすい。

...でも、今の何でもある世界であれば、楽しいことなど他に山ほどあるのでこんなことをするのは本当に暇な人間ぐらいだろう。

「砂糖...綺麗...言葉がちょっと多い...つながりもない。今回はかなり難しい。」

「そうだな。俺も結構ひねり出したつもりだよ。」

実際俺にも終着点が見えていない。

これは二人で考えるから面白いのだ。


「最初は何の言葉から使う?」

「やっぱり色と物の名前を組み合わせた方が使いやすい。」

「じゃあ、赤だな?」

「そう...赤い...砂糖...ちょっと不自然、赤い天秤にしよう。」

「分かった。赤い天秤からスタートだ。」

それでもかなり難しい。

6単語が5単語になったとはいえ、重要なのはつながりだ。

ここからがとても難しい。

「赤い天秤...に、砂糖をのせてふわふわ漂って......結構難しい。」

「今のはアウトだな。」

判断する権利は俺にある。

と言っても本人が納得しているかが問題なのだが。

だから、俺は彼女の顔色をうかがっているだけである。

「一回、文章を区切ってみても良いんじゃないか?」

「そう。それが良いと思う。」

「じゃあ、どんな文章を作るんだ?」

このゲームは一文じゃなくても良いというのがミソだ。

関係ない文章を入れても良いのだ。

どうであれ、つながってしまえばいい。

「赤い天秤は砂糖を秤にかける。......カルガモとふわふわは繋げやすそう。でもそのまま使うと、ちょっと繋がりがない。...どうしたら良いんだろう...」

「どうすれば、できるだろうな?」

こういう考える時間が大事なのだ。

必死になって考えることに、考えることの価値がある。


少し時間が経って大分考えがまとまった。

「カタンと天秤は崩れ落ちて、砂糖はパッと宙を舞いふわふわ漂っている。太陽の光に粒がきらめいてキラキラとても綺麗。」

「なかなかいい調子じゃないか?」

「あとはカルガモだけ......どうしよう...?」

ここからカルガモはなかなかキツい。

さて、どう持っていくか。

「カルガモが......それを食べた...なんか嫌かも。カルガモは...寄ってたかって...これもダメ。」

「良いね。とっても考えてる。」

いきなり彼女の顔が明るくなる。

...何か思いついたらしい。

「えっと...赤い天秤は砂糖を秤にかける。カタンと天秤は崩れ落ち、カルガモたちは群がるようにそれらを囲い込む。物音がしてカルガモたちは宙を舞う。風にふわふわ漂う砂糖は光を反射してとても綺麗だった。」

「うん。オーケーだ!なかなかやるじゃないか!」

彼女の顔が、キラキラと光り輝いていた。

自分が一生懸命考えたことから来る達成感や高揚感はとてつもなく大きい。

...やっと考えることの楽しみが分かったようである。


「私も...こういうこと、できるんだね。なんか、普通のひとみたい。」

「雨姫は普通だよ。少なくとも俺の周りにいる人間より普通だ。俺の周りは色々いるからな。」

下手に中二病がこじれたやつとか、会話が成り立たないのもいたと思う。

ちゃんとコミュニケーションが取れる方が幾分かマシである。

「雨姫はまだ慣れていないだけなんだ。だからどうにでもなる。」

「ほんと?」

「ほんとだ。俺は冗談や小言や文句は言ってもウソはそんなに言わない。」

というかすぐバレる。

「なら......嬉しい。」

結構、言葉の数が増えた。

彼女、多分話すことは好きなのだ。

その変化が何よりもうれしかった。

開かずの間編は次回から佳境に入ります!

彼女は少しずつ心を開いてくれているようです。

ちなみに要望があったので少し言わせてもらうと佐々木宗利は『ささきむねとし』です。

明日も連続投稿!

戦うだけがチートものではないのです。

PS:エブリスタの連続投稿は24日18:00から一時間おきに投稿です。

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