ある夜のお猫様
にゃん、にゃん、にゃん。
ある日の深夜、ゴードンの家では犬&猫達が其々の場所で眠りについていた。
なお、ミヅキは基本的に親猫(※保父)であるエルと一緒である。
これは子猫であり、半長毛のミヅキの毛並みを頼りなく思った保護者どもが過保護を発揮したせいだったりする。
エルは超大型の長毛種。そして、アルも長毛種の大型犬。
ぶっちゃけ、奴らは『毛玉』なのである。
冬ともなれば、よりふさふさとした豊かな毛並みとなり、ちょこんと座っている姿は耳の付いた毛玉であった。
余談だが、ミヅキが窓際に座っている際のシルエットは『猫耳の付いたダルマ』だったり。
それを見て微笑ましく思ったゴードンにより、今年の冬は猫耳雪ダルマが製作され、獣医であるゴードンの下を訪れる多くの飼い主達がスマホを構える日々であった。
……多分、其々の自宅でも『うちの子雪ダルマ』が製作されたと思われる。
良き飼い主というものは『うちの子が世界一可愛い!』と信じて疑わない連中なので、金のかけ方も、情熱も、桁違い。
寒かろうが、雪が降っていようが、嬉々として溺愛する家族達の思い出作りに没頭するのだ。
まあ、ともかく。
ゴードンも当然の如くこれらに該当し、室温は常に快適に保たれているのだが。
どうしても、基準となるのが長毛種達になるのは仕方がないことであって。
真夏に窓際で呑気に昼寝をするミヅキ(※黒猫)にとっては少々、寒い時があったりした。
ただ、ミヅキはこれを不満になど思っていない。
元々が外で暮らしていた野良なので、十分過ぎるほど快適に過ごしていた。
と言うか、ミヅキの身近には『生きた毛布』(意訳)が存在しているので、そこに潜り込めばよい。
どちらかと言えば、過保護な長毛種達の方が煩かったりする。
『こんなに頼りない毛並みなんだよ、可哀想じゃないか!』
『そうですよ! こんなに小さいのに』
『……。過保護過ぎだ』
上からエル、アル、クラウスの発言である。
なお、クラウスはミヅキが快適に過ごしていると理解できているので、過保護な二匹に呆れた眼差しを向けるのみだった。
当たり前だが、クラウスの反応の方が一般的。
何不自由なく呑気に暮らす家猫なので、毛並みが長毛種達に比べて貧弱だろうが、体が小さかろうが、何の問題もない。
と言うか、元からかなり小柄なミヅキが成猫になろうとも、周囲に居るのが大型犬×2と超大型猫なので、『小さい』という評価に変化はないだろう。
犬や猫には個体差というものがあり、あまり成長しないように見える個体も居るのである……ミヅキは多分、これに該当すると思われた。
そう考えると、ゴードンに拾われたことはミヅキにとって大きな幸運だったと言える。
いくら元気一杯だろうとも、ここまで小さい個体が外敵に狙われずに健やかに過ごすなど、不可能に近いのだから。
……そんな風に、平和な日々を過ごしていた彼らであったが。
ある日の夜、それは唐突に訪れた。
『……?』
ピクリと耳を立て、眠っていたエルは目を開けた。
いつもならば、朝まで目を覚ますことはない。物音や人の気配がするならばともかく、そういったこともない覚醒に、エルは胸騒ぎを覚えて警戒を強めた。
こんな風に書くと如何にも緊張感があるように思えるが、エルは猫ベッドに収まりつつ、爆睡しているミヅキを抱っこ中。
ミヅキは三回に一回はこの状態で眠る――過保護なエルが、己が毛皮に包んで温めるため――ので、今一つ緊張感に欠ける姿である。
親猫は本日も過保護であった。
誰が見ても、立派な保父。
しかし、子猫を抱える親猫としての勘は冴え渡ったらしく。
暫くすると、家がガタガタと揺れ出したのである……!
――それからのエルの行動は早かった。
エルはミヅキを咥えると即座に机の下に潜り、体全体を使ってミヅキを抱き込む。
何やら寝ぼけたようなミヅキの声が聞こえた気がするも、それをエルは綺麗に無視して、只管に揺れが収まるのを待った。
幸いにも、揺れは短時間で収まった。ただ、それなりに大きい揺れだったらしく、あちこちで無事を確認し合う人の気配がする。
勿論、ゴードン達も例外ではない。
ゴードンは真っ先に愛する家族達の無事を確認すべく、この部屋を見に来たのだ。
「皆は無事か!? ……ふむ、アルとクラウスは問題ないようだな。エルとミヅキは……」
ドアを開けた途端に近寄って来た犬達の無事を確認し、表情を緩めるゴードン。
そこに姿のない猫達を案じるも、犬達が示した机の下の光景に……無言でスマホを構えだす。
猫達はそこに居た。エルがミヅキを己が体で包んでいる。
エルに怯えたような様は見られないので、エルはミヅキが居たから、机の下から出て来なかったのだろう。
そんな賢い親猫は今現在、子猫を抱えたまま、飼い主であるゴードンに呆れた目を向けている。
いくら無事を確認できたからと言っても、今やることがそれか、と。
エル達もミヅキに対して過保護ではあるが、ゴードンの親馬鹿振りも相当であった。
寧ろ、ゴードンは『うちの子』がエル達四匹なので、親馬鹿振りも四倍だ。
大真面目に猫親子を撮影するゴードン。エル達の予想通り、この画像はゴードンの『うちの子自慢』に使われ、多くの人に微笑ましがられることとなる。
しかし、エルは微妙に不機嫌であった。何故なら――
『あのねぇ、私は【雄猫】なんだけど!?』
過保護な親猫様は相変わらず、『母猫』と勘違いされたのだった。
※※※※※※※※
おまけ『その後の猫親子』(※会話のみです)
あまりにも危機感がないと感じたエルは、後日、ミヅキにお説教。
エル『君ね、いくら寝ていたと言っても、危機感くらい持ちなよ。地震に遭っても寝こけたままって、どういうことかな? 一応、外で生活していたんだろう?』
ミヅキ『親猫様に抱き込まれていたから、ろくに音が聞こえなかった』
エル『あ~……ま、まあ、確かに、抱き込んではいたけれど』
ミヅキ『ふかふかで、ぬくぬくな親猫様の匂いと毛皮に包まれていたから、危険なんて思わなかった』
アル『まあ、そうなるでしょうねぇ……』
クラウス『子猫は親猫の傍に居る時が一番安全だと、考えるだろうからな』
エル『う……。で、でも、多少は揺れを感じただろう?』
ミヅキ『柔い猫肉とさらふわな毛並みに包れていたから、あんまり』
アル『ねこにく……』
クラウス『確かに、家猫で運動量がそれ程ないエルの腹の肉なら、柔らかそうだな』
エル『君達ねぇ!』
ミヅキ『それに、アルのお腹も揺れるよ?』
アル『え゛』
クラウス『そういえば、こいつは時々、アルの腹の上で寝てたな』
エル『なるほど、それが原因かい……』
アル『い……いいじゃないですか!』
お猫様の日なので。
地震があっても、黒猫は平常運転。
時々地震が起こりますが、皆様もお気を付けくださいね。




