↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
47/47

第四十六話 おじいちゃんの心構え

 剣一郎たちが王都へ戻ってから数日が過ぎた。


 王城での生活も以前と変わらない形へ戻り、悠真と美咲は騎士たちとの訓練を再開している。剣一郎も朝の素振りを欠かさず、王城の一角では今日も刀が空を切る音が規則正しく響いていた。


「九百九十八……九百九十九……千」


 最後の一振りを終え、剣一郎は刀を下ろした。


「本当に毎日やるんだね」


 少し離れたところで悠真が呆れたように見ている。


「やらぬ理由がないからの」


「少しくらい休んでもよかったんじゃない?」


「傷は治った」


「そういう問題かなあ」


 美咲も杖を持ったまま近づいてきた。


「セレナさんがいたら怒られそうですね」


「なぜ皆、わしを病人のように扱うのじゃ」


「七十歳だから?」


「悠真」


「はい」


「今日の訓練は少し増やすか」


「今のなし!」


 悠真がすぐに姿勢を正す。


 その時、訓練場の入口から一人の騎士が走ってきた。


「神崎殿、悠真殿、美咲殿」


「何じゃ?」


「ガレス団長がお呼びです。北東方面へ出ていた調査隊が戻りました」


 剣一郎の表情が僅かに変わった。


「例の魔物が減っているという話か」


「はい」


 ◇


 会議室には、すでにアルフレッド、ガレス、エルドが揃っていた。


 さらに見覚えのない騎士が三人と、受命士らしい男女が二人いる。長旅を終えたばかりなのか、服や装備にはまだ土埃が残っていた。


 アルフレッドが剣一郎たちへ目を向ける。


「ちょうど報告を始めるところです」


 三人が席につくと、ガレスが調査隊の男を紹介した。


「今回の調査隊を指揮していた第三騎士団のローデンです」


 三十代後半ほどの騎士が頭を下げる。


「こちらの二人は、受命ギルドから雇った探索担当です」


 一人は細身の中年男。もう一人は短い髪の女性で、どちらも軽装だった。


「森歩きなら騎士様より俺たちの方が慣れてますんで」


 男が少し笑う。


「騎士や兵士だけでは、見落としもあり得ますからな」


 ガレスはそう言うと、すぐ本題へ入った。


「報告を」


「はい」


 ローデンは机の上へ地図を広げた。


「行商人や狩人達から聞いた話を基に、王都北東部の村と街道、それから周辺の森を調査しました。結論から申し上げますと――魔物が減っているという話そのものは事実でした」


 悠真が身を乗り出す。


「どのくらいですか?」


「場所によります。まったく見かけなくなった森もあれば、以前の半分ほどという場所もあります。ただ、北東全域で減っているわけではありません」


「一か所だけではないのですね」


 美咲が言う。


「はい。少なくとも数か所の地域で確認されました」


 エルドが地図を覗き込む。


「自然な移動では説明できませんか?」


「それも調べました」


 受命士の女性が口を開いた。


「餌が減った形跡はない。山火事も洪水もないし、大型魔物が新しく縄張りを作った痕跡も見つからなかった」


「伝染病などの可能性は?」


「死骸がありませんでした。病気で数が減ったなら、何体かは見つかるはず」


「なるほど」


 エルドが顎へ手を当てる。


 ローデンが地図の一地点を指した。


「一番気になったのはここです」


「何があった?」


 アルフレッドが尋ねる。


「魔物の足跡です」


 その言葉に、ガレスの目が細くなった。


「詳しく」


「森の中で古い痕跡を複数見つけました。ゴブリン、ウルフ、それ以外にも小型魔物が何種か。時期は完全には揃っていませんが、どれも同じ方向へ移動しています」


 受命士の男が地図へ指を置く。


「で別の森でも似た跡がありました」


 指が少しずつ南西へ動く。


「こっちからも」


 さらに別の場所。


「ここからも」


 悠真が地図を見る。


「これって……」


「最終的に、同じ場所に向かっている?」


 美咲が尋ねた。


「そのように見えます」


 ローデンが答える。


 ガレスは黙って地図を見ていた。


「行き先は?」


「古い痕跡なので完全には追えませんでした。ただ、大まかな方向は南西です」


「ハルト村の方向か?」


 会議室が静かになる。


 ローデンは即答しなかった。


「はい。途中で痕跡が消えている物あるので、全部がハルト村へ向かったと証明はできせんが」


 アルフレッドが頷く。


 剣一郎も地図を見ていた。


「よい報告じゃ」


 ローデンが少し意外そうに剣一郎を見る。


「よい、ですか?」


「事実だけを述べて、個人の憶測を入れておらん」


「……なるほど」


 ガレスが小さく笑った。


「神崎殿らしい評価ですな」


「ふむ、そうかのう」


 ◇


 エルドは別の紙を広げた。


「これで一つ、仮説は立てられますな」


「聞こう」


「北東方面から魔物が何らかの理由で移動し、その一部がハルト村周辺まで来た可能性です」


「ベルクスの街の襲撃とも関係が?」


 悠真が尋ねる。


「そこまではまだ言えません」


 エルドは首を振った。


「ただし、ザイルが魔道具を用いて複数種の魔物を率いていたことから、無関係とも思えません」


 ガレスが続ける。


「もし同様の魔道具が以前から使われていたなら、ハルト村の襲撃も説明がつく」


「でも、ハルト村では魔物だけで、魔族も魔道具の存在も確認できませんでした」


 美咲が言う。


「そうですな」


 ガレスは頷く。


「だから同じ方法だったとはまだ言えません」


 アルフレッドが地図を眺める。


「ザイルを使った者たちが、以前から魔物を集めていた可能性は?」


「あり得ます」


「ザイルの目撃情報は?」


「ハルト村襲撃の時点でどこにいたのか確認できていません」


 ガレスが答える。


「ですが、ザイルがハルト村を襲わせたと考えるには材料が足りません」


「むしろ」


 剣一郎が口を開く。


「あやつの性格なら、自分でやったのであれば隠すとも思えん」


 悠真が「ああ」と声を漏らした。


「街を襲ったことも普通に認めてたもんね」


 美咲も頷く。


「聞いてもいないことまで話してました」


「口の軽い奴じゃったな」


 ガレスが苦笑する。


 アルフレッドも小さく息を吐いた。


「そうであるなら、ハルト村がベルクス襲撃と同じく人為的だとすると主犯は、ザイルではなく、その背後にいる者ということか」


「可能性は高まりました」


 ◇


 会議が終わり、廊下へ出た悠真は大きく息を吐いた。


「なんか、どんどん話が大きくなってない?」


「最初はブラックファング一匹だったのにね」


 美咲が言う。


「それがハルト村で魔物の群れ。今度はザイル。それから北東の森……」


「誰が黒幕なんだろう?」


 悠真の問いに、剣一郎は歩きながら答えた。


「分からん」


「やっぱりそれか」


「じゃが」


 剣一郎が足を止める。


「分からぬでも、どのような事態にも対処できる心構えは必要じゃな」


 悠真と美咲が剣一郎を見る。


「誰かが魔物を動かしている?」


「そうかもしれん」


「目的は?」


「それを調べておるのじゃろう」


 悠真が頭を掻く。


「おじいちゃん、こういう時だけ急に冷静だよね」


「いつも冷静じゃ」


「ザイル相手に楽しそうに戦ってたのに」


「別に楽しんではおらん」


 美咲が笑う。


 剣一郎は二人を置いて歩き出した。


「ほれ。もう昼じゃ」


「お腹空いた!」


「悠真は結局それか」


「戦ってなくても腹は減るんだよ」


「誰も否定しておらん」


 三人の声が廊下へ遠ざかっていく。


 会議室の机には一枚の地図が残されていた。


 ハルト村、ベルクスの街、これで事態は収束するのか、新たな被害が出るのかは未だ不明である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。