雑談・セフィロートの木
澪さんがたずねた。
「メリーさんは何か面白いオカルトネタはないんですか」
「そうね。異世界へ行く方法なら知ってるけど」
……またまた、この怪異は。そんな燃料を投下したらだめでしょ!
案の定、ミステリー研のみんなは身を乗り出す。
「いい? まず白墨を用意するの。そして、満月の日、日没直後のアスファルトの四つ辻で太陽の方向に向けて地面に丸を描くの」
ごくり。皆が生唾を飲み込む。
「直径は五十センチくらい。手前に向かって下がりながら、くっつけずに描くの。一個、左右に二個、二、一、二、一、一って」
澪さんはメモをとっている。下手したら本当に異世界に行っちゃうよ!
「描き終えたら白墨を置いて、手前の最初の丸に呪文を唱えながら片足で飛び込むの。『マレフート』。次に飛んで『イェソド』、次が左右の脚で同時に『ネツァハ』と『ホド』、同じように『タフェレト』、『ゲブラ』と『ヘセド』、『クデシャ』と『ビナ』、最後に『ケテル』。そして、脚を下ろさずに振り返って、逆に進むの。『ビナ、クデシャ、ヘセド、ゲブラ……』って。それを三百六十回繰り返して……」
「ちょ、おま!」
私は思わず声を上げた。
「それって、ケンケンパやん!」
地元の言葉で突っ込んでしまった。
「それって、普通に死にます!」と澪さん。
「おじさんは、途中で膝がこわれそうだ」とサバエ氏。
しかし会長だけは突っ込みどころが違った。
「それはセフィロートの木だね」
「そうでーす。異世界に行くにはこれくらいつらい修行をしなくては行けないのでーす」
しれっと言い切るメリーさん。
「つまり、何だ。セフィロートの木というのは、子供の遊びだった、と?」
「そうでーす」
得意げなメリーさんだ。
私も声をあげた。
「私もひとつ知ってます!『ファイストスの円盤』。あれって、どう見ても子供のゲーム盤ですよね」
「ファイストスの円盤?」
スマホタイムが始まる。
ファイストスの円盤は粘土板を焼成した直径四十五センチほどの円盤で、両面にらせん状の筋と適宜区切られた区画がある。その各区画にハンコで押した謎の文字が配置されている。文字の種類は四十五種類。世界最古の「印刷物」と言われている。一九〇八年に発掘されて、今はクレタ島のイラクリオン考古学博物館に展示されている。
「そうそう。あれはあれはどう見ても量産品の一つだ。おそらくは今のすごろくゲームか何かだろう」と会長。
サバエ氏も名乗りを上げた。
「僕も一つ知っているぞ。方角規矩四神鏡のいわゆるTL模様についてなんだが。これが武威市の漢代の墓から出てきた賭博をしている像の盤面に似ているんだ。ひょっとしたら、ゲームの盤面を鏡の図案にしたのかもしれない」
「つまり、今、神秘化してありがたがっている図像も、遊びが元になっていた可能性がある、ということか」
会長らしくまとめたアマリ氏だった。
セフィロートの木の各部名称……Grok君にヘブライ文字から読んでもらった発音です。
方角規矩四神鏡……柿沼陽平先生の令和7年5月10日のツイートに私がコメントをつけたヤツです。




