白壁の主(4)
真の隠し蔵をあける方法は難解だった。
私たちはまず、棚に載ったわずかなお宝を全て取り出した。
周三さんは、その中身をいちいちチェックしている。時々「すばらしい! 薩摩の色絵だ!」などと感嘆の声を上げている。その奥で私たちはカラクリのヒントを探す。
「ここの棚が斜めに動く!」
道を開いたのは、今度もまたメリーさんだった。一見、太くて頑丈そうな横桟が斜めに持ち上がるのだ。すると、後ろの木の壁が少し押せるようになった。
横桟を完全に持ち上げると、奥の壁が横の壁の後ろにおさまった。
上下の横桟も同様に動かす。人が並んで通れるほどの空間が開く。
そして、その奥に見えたのは……
「何でしょう。ブリキ缶みたいですけど」と澪さん。
「これは、フィルム缶だな。この厚さからすると三十五ミリ――映画館用だ」
一つ取り出して表のテーブルに置く。
缶には白いペンキで「下津井・しゃちほこ・卷三」と書いてある。
「下津井というのは?」
会長がたずねる・
「ここから南に行った瀬戸内海沿いにある港町です。昔は宿場として栄えたそうです」周三さんが説明する。
「中を見ても?」と会長。
「どうぞ」と周三氏。
フィルムを取り出す。
裸電球に透かそうとする会長をサバエ氏が止める。
「硝酸セルロースのフィルムだったら燃えるかもしれない。注意してくれ」
周三さんがフォローする。
「LED電球なので、多分大丈夫です」
フイルムには芸者さんと二人の禿が写っていた。額を畳につけて足を天井に上げる逆立ちのようなポーズをしている。ただ、わざとなのか着物の裾を大きくはだけて、茂みや割れ目がはっきりと写っている。
「これは、何なんです?」と私。
会長が答えた。
「ブルーフィルムだ。昔のアダルトビデオだよ」
メリーさんは興味津々、澪さんは顔が真っ赤だ。
「他の収蔵品も見てみよう」と会長。
いろいろありました。
フィルム缶に収まったものが半分、昭和のアダルトビデオテープやエロ写真集が半分。凄いコレクションだった。
「確かにこれは隠したくなりますね」とメリーさん。
「私は、どうすればいいのでしょう」と困惑する周三さん。
「昔のブルーフィルムは今では芸術作品として評価されています。一度廃棄してしまうと、二度と取り返しがつかない貴重品ですね」と会長。
「でも、ロリコン写真集は違法なんじゃ……」と澪さん。
「それは、現行法では、だ。時代がかわって、また合法になるかもしれない」
「そんなことがあるでしょうか」
「可能性はある。昔――平成初期までは、ヘアヌード写真には全てモザイクがかけられていた。けど、そもそもモザイクがかけられるようになったのは昭和50年代の後半からだ。価値観がかわる可能性はいつだってあるし、国会図書館でもロリコン写真集は保管されている。閲覧不可というだけだ」とアマリ会長。
「まあ、これだけの資料がまとまっているのを、今の価値観で廃棄するとしたら、将来の研究者にとっては不幸としか言いようがないな。それに、そもそもこれらはこの教会の財産なんだ。僕らが決めるべき問題じゃない」サバエ氏が断じた。
「昔、浮世絵の中のあぶな絵は公開禁止だったの。でも、今は芸術雑誌に載っている。価値観は永遠じゃないの」とメリーさん。
「私も、このまま封印する方に賛成、かな。時代の証拠として残しておきたいし」と私。
「皆さんがそうおっしゃるのなら……」
澪さんが折れた。
真の隠し蔵はダミーの隠し蔵の裏に再び封じられた。そして、隠し蔵もまたダミーの棚に隠された。
周三さんが持ち出したのは、棚の一番下に置かれていた小判の入った木箱――小さくても千両箱と言うらしい――と、数点の掛け軸だった。絵は、今ではエロさを微塵も感じない、行水をする日本髪の女性などだ。蔵にしまわれた頃は、世に出せない品だったのだろう。
そして、私たちは新幹線で帰途についた。お礼の品としていただいた数枚の一両小判とともに。




