37 森の願い
思わぬ報酬をもらい、驚き喜ぶゲール達。
だが、それだけでは終わらない。
更なる願いが彼等に求められる。
「出来ればでいいって言ってるけど」
絶対にそうではないのが分かる言い方だ。
本音は、お願いだからやってくれ、だろう。
シーンが伝えてくる森からの言葉を受け取る。
しかし、そんな控えめな態度が好ましい。
無理難題をふっかけるよりは。
「やって欲しい事があるって言うんだけど……」
代弁するシーンも言いにくそうだ。
「とりあえず言ってみろ。
出来る事ならやるし、無理なら断るから」
そういって先を促す。
聞けば、この森には主人といえる植物の妖精がいるという。
それがこの森をこのようにした元凶だとも。
かなうなら、それを退治してくれないかという森からの願いだった。
「そういう事なら」
断る理由もない。
危険な存在をのさばらせるわけにはいかないのだから。
やる事は簡単だ。
女面虫の率いていた巨大虫を倒す時と同じ。
火攻めで燃やし尽くすだけである。
幸い、樹木の妖精、妖樹と言える存在の周囲にまともな木々はない。
樹木の妖精が根を張った時に、周囲の養分を吸い尽くしたからだ。
木々が成長する、生きていく余力が無くなっている。
おかげで普通の木々は立ち枯れして、今は倒れてしまっている。
火を付けても周りに引火する危険性はない。
あとは火種があればというところだが。
これは森の木々がもたらしてくれた。
松ヤニなどの燃えるものを。
これらを使って、妖樹を燃やしにかかる。
樹木と草花の妖精の生い茂ってる場所。
そこに出向いたゲール達は、火種に火を付けて投げこんでいく。
樹木を中心として、その周囲に拡がる草花。
それらは一旦火が付くと簡単に燃え広がっていった。
ある程度燃えたところで、シーンが追い打ちをかける。
自然に祈願して風を呼び込む。
森の加護と違い、直接恩恵を受けてるわけではないので、その効果はさほそ大きくはない。
だが、火に空気を送り込み、より激しく燃え立たせるには十分だった。
植物の妖精に飛び火させるには。
最初に草花が灰になり。
樹木の妖精が燃えさかる。
その場から動けない植物の妖精共は、次々に燃え尽きていく。
とはいえ、樹木の妖精は簡単にはいかない。
図太い幹は火が付いてもすぐに死ぬわけではない。
いずれ死ぬだろうが、時間がかかってしまう。
それに、最悪の場合枝葉が燃え尽きても、幹や根っこが生き残るかもしれない。
そうなったら再生してしまう。
だからトドメを刺していく必要がある。
その役目をゲール達が請け負っていく。
立ち並ぶ樹木に近づき、弱点を見つけて一撃を加える。
樹皮が燃え尽きて剥き出しになった木々の本体。
脈打つ内蔵のような本体に、ゲール達が刃を突き立てていく。
ゲールの剣が。
カイルの槍が。
エドは手斧で。
それぞれ最後の一撃を加えていく。
サイトによって見つけられた急所に。
心臓にあたる部分を、あるいはそこを傷つけられたら確実に死ぬという弱点。
そこに刃が食い込み、血のような樹液を吹き出して死んでいく。
これを繰り返して樹木と草花の妖精を片づけていき。
最後はその中心にいた大樹の怪物へと至った。
高さは10メートル程度とそれほどでもないが、幹は太い。
直径は2メートルから3メートルはあるだろうか。
そして、横に広く枝が伸びている。
最も長く伸びてるそれはゆうに10メートルはあるだろう。
この巨大な怪物樹木が、この付近の植物型妖精の中心になってる存在である。
生かしておくわけにはいかなかった。
まず、エドの弓が巨木を攻撃する。
火矢を枝に射かけて末端から燃やしていく。
塗りつけた松ヤニによって燃える火は簡単に消えない。
燃料である松ヤニが消えるまで燃え続ける。
これが巨木の彼方此方に突き刺さっていく。
最初は小さく燃えていたが、暫くすると怪物樹木に燃えうつる。
あとは自動的に枝葉を燃やしていく。
幹や根っこまではいかないが、長く巨大な枝葉が消えるのは大きい。
それらが振り回しての攻撃は、広範囲にわたり、大きな威力を振るうからだ。
なので、まず攻撃手段を奪っていく。
そのまま炎が大きくなると、巨大な樹木が火に包まれる。
さすがにここまでくると巨体でも堪えがたいのか、幹を揺らしてもだえ始める。
それをあおるためにシーンが風を呼ぶ。
風によって炎は勢いを増し、巨木の表面を更に燃やしていく。
それらが葉を消し去り、枝を灰にし、幹へと迫る。
幹が揺れる。
苦痛に悶えてる。
そして、地面の下から根っこが飛び出してくる。
槍のように細く長いそれが。
近付いた動物をこれで刺し殺し、養分を吸いあげる。
妖精になった樹木の根っこは、土以外からも栄養を奪っていく。
これがあるから、ゲール達は近付かずに遠距離からの攻撃を始めたのだ。
地中からの攻撃は避けにくい。
どこから来るか分からないからだ。
だが、根っこが張ってる範囲までしか攻撃が出来ない。
なので、ある程度距離を置けば問題は無い。
怖いのは近付いた時だけだ。
その根っこが炎のが燃え広がるごとに激しく地中から着きだしてくる。
これが人間なら、身をよじって苦しんでる所だろう。
それを見てるゲール達は誰も同情しない。
巨大なこの妖精のせいで、他の植物が潰えていってるのだ。
ゲール達だって襲われて殺されていたかもしれない。
そんな相手の苦痛に苛まれる姿を見て思うコトは一つ。
「ざまあみろ」
爽快感だけである。
あとはこのまま火が通るのを待つだけ。
樹木全体に燃え広がり、幹が灰になるのを待つだけ。
さすがに芯の方まで燃え尽きる事はないだろうが。
そうなったら、樹皮も無くなってる。
あとは近付いて急所に一撃を加えれば良い。
それでこの妖精も死ぬ。
時間はかかるが、これで片づける事が出来る。
ただ、問題が一つある。
これがただの樹木なら良かったのだが。
なにせ相手は怪物・魔物だ。
妖精でもあるこれらは、植物でありながら動物の要素も持つ。
それらが焼け焦げる時に出す臭いは酷いものだ。
「しょうがないけど」
「酷いもんですね」
これまで何本もの樹木・草花型の妖精を燃やしてきた。
その度に嫌な臭いが立ち上った。
髪の毛を燃やした時のような、生理的な嫌悪感を抱ような。
そんなおぞましい臭いがたちのぼる。
「慣れないですね、こればかりは」
サイトが顔をしかめながら燃え上がる樹木を眺める。
隣のゲールも頷く。
「まったくだ」
顔をしかめながら燃える樹木を眺める。
やがて幹も燃え始めていく。
巨大な樹木は震えながら死に向かっていった。
枝葉が燃え落ちて。
幹も半分以上が消える。
残った部分の先端は灰になって消えて、そこから樹液が溢れる。
地面から突き出ていた根っこも、力なく横たわっていく。
そんな樹木の残骸に近付き。
ゲールはその表皮に剣を打ち込んでいく。
カイルとエドも、同じように表皮の樹木をたたき割っていく。
その下から脈打つ肉のような内部があらわれる。
更にそれを切り裂いて穴を開けていく。
松ヤニをねじ込むために。
これを立って武器を打ち込める部分と。
幹の下、根元にも同じような穴を作っていく。
樹液が出てくるので、これが抜けきるまで待つ。
それから火種の松ヤニをねじ込んで火を付ける。
まだ完全に燃え尽きてない樹木に、火が再びともる。
根っこから完全に燃やし尽くすために。
直径2メートルから3メートルとなると、刃で急所を穿つのも難しい。
なので、炎で出来るかぎり焼き尽くす事にする。
こうでもしないと死に至らしめる事も難しい。
終わったと思った火攻めがまた始まる。
樹木の妖精は身を震わせた。
そんな樹木の表面を炎が覆う。
突っ込まれた松ヤニから伝う火が内部を焼いていく。
燃えた部分から炭化し、そこから更に燃えていく。
悶える樹木は死ぬまで苦痛を味わう事になった。
やがて根元から燃え尽きていき。
樹木の残骸は灰として周囲に残るに留まった。
土の中の根っこはまだ残ってるが、これはいずれ死滅する。
根っこだけあっても生きていられるわけではない。
ここから再生するという事もない。
既に中枢となる部分は燃え尽きている。
人間でいえば脳や心臓が灰になってるようなものだ。
ここから再生する事はない。
残った根っこは土の中で微生物や虫が食い尽くしていく。
そうして空いた場所に新た草木がやってくる。
その時、森は完全に再生する。
時間はかかるが。
それを見る機会はゲール達にはないだろう。
だが、きっかけを作ることは出来た。
本来の任務とは関係のない作業にはなったが。
怪物や魔物が関わってるのだから放置も出来ない。
どのみち、ゲール達にとっても邪魔になる。
なので、ついでに倒していった。
その結果、よりよい未来が出来上がるならありがたい。
それに余録もついてくる。
報酬は無いものと思っていたのだが。
森はゲール達に木々の実を提供してくれた。
心細くなっていく食料の補充になってありがたい。
また、怪我や病気の治療にもなるという優れもの。
山を越える前に森からもらったものと同じだ。
こうした臨時収入を手にして進んでいく。
他にどんな怪物がいるのかを確かめるために。
調査はまだ何も進んでないのだから。
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