12 残ったのは有望株、今後に期待したい、今はまだまだでも
「申し訳ない」
ロクデナシが消えた後、村長はゲール達に頭を提げに来た。
よこした人間がとんずらしたのだ。
詫びの一言くらいは口にせねばならない。
だが、ゲールは特にそれを問題にするつもりはなかった。
「その程度の連中だったってだけだ」
威勢は良いが根性のない人間。
それが消えただけである。
別に文句はない。
確かにロクデナシ達が数人ほど消えた。
人数だけ見れば大きな損害だ。
だが、使えない人間が何人いても邪魔になる。
足を引っ張るくらいならいない方が良い。
これが戦闘では致命傷になる。
だから、早々に消えてくれてありがたいくらいだった。
それに、
「あいつらが残ってる」
今も黙々と素振りを続ける3人。
「村はあいつらを出してくれた。
それで十分だ」
「……そう言ってもらえるなら助かります」
村長としては、何がそんなに良いのか分からない。
だが、下手な勘気をこうむらなくて済むならそれで良い。
それでは、と言ってそそくさと立ち去っていく。
これで問題は決着がついたと確信して。
実際、ゲールは村長や村にあれこれ言うつもりはなかった。
余り物を押しつけてきたのはどうかと思ったが。
それでも邪魔になりそうなのは消えた。
手元には使えそうなのが残ってる。
収支は黒字といえるだろう。
何よりも思わぬ掘り出し物があった。
訓練をしてる者達の一人。
それが意外な才能を発揮している。
武器の扱いが上手いのだ。
槍の代わりに長い棒を持たせているのだが。
一人、これの扱いが上手い者がいる。
兵役か何かで訓練を受けたわけでもない。
今回、始めて戦い方を習ったというのだが。
それにしては動きが良かった。
動作そのものは単調なのだが。
それだけに誤魔化しがきかない。
粗があればすぐに出る。
それが見えない。
さすがにやり始めの時には少しはあったが。
すぐにそれも消えた。
無駄の無い滑らかな動きをするようになった。
「打ち込み稽古や試合もしてみましたが。
あれはかなりのもんです」
「そんなにか?」
「まだ素人の域を出てませんが。
すぐにその段階を抜けるでしょう」
グロスデンがここまで言うのも珍しい。
残念ながら他の二人にそこまでの才能はなかった。
だが、訓練に真剣に取り組んでいる。
その心意気は十分に評価出来た。
指示に素直に従う素直さも良い。
「兵士としては十分です。
しっかり働いてくれるでしょう」
それだけでも十分だった。
そんな者達が残ったのだ。
ゲールに不満などあるわけがない。
出来ればもう少しまともなのがいればな、とは思ってしまうが。
これが無いものねだりなのも分かってるので、割り切る事にした。
「それと、あいつはどうだ?」
気持ちを切り替えるためにも、別の話題を口にする。
こちらも片づけておきたい事だった。
「やたらと声をかけてくる狩人の息子。
あいつはどうだ?」
これも気になる事だった。
森の中に入る時に案内についてきてくれた者の一人。
狩人の息子はゲール達にやたらと声をかけてきていた。
物珍しさもあるのだろうが、それ以上にある種の熱意があった。
自分の売り込みである。
「まあ、やる気はあるようですな」
相手をしていたグロスデンはそう評した。
「森や村でくすぶっていたくない、外に出てみたい。
若者によくある熱病ですな。
それにかかってるようです」
「だろうな」
それはゲールも感じ取っていた。
「まあ、手伝ってくれるならありがたいけど。
兵士としてはどうなの?」
「悪くはありません。
弓が使えるし、森での動き方も分かってる。
いれば役立つ事もあるでしょうよ」
「じゃあ、採用する?」
「それは何とも。
熱意が先走ってるのが気がかりですので」
そこがグロスデンにとって引っかかる所だった。
やる気があるのは良い。
だが、それだけでも困る。
まして理由が村から出たいといった都会への憧れのようなものなのだ。
理由のひとつとして、きっかけとしては良いだろう。
だが、これだけでは困る。
戦場に出るとなれば、それなりの心構えが求められる。
やる気だけではやっていけない。
殺し、殺される場所だ。
憧れや熱意だけではやっていけない。
淡々とやるべき事をこなす冷静さや平静さが欲しい。
それを今の狩人の息子には見いだせない。
自分が戦場で活躍する所だけを。
取り立てられて立派な身分になった所だけを。
活躍して出世してる所だけを思い描いてるだけでは話にならない。
良い面だけではなく、辛く厳しい部分にも思いをはせてもらいたい。
「そのあたりも含めて、色々と考えるものがあります」
「じゃあ、まずは話し合わないと駄目か」
人手は欲しいが、だからといって即採用とはいかない。
日頃の業務など地味で目立たない部分も考えてもらわねばならない。
なにより、戦場で使えるかどうか。
「それはゴブリンとやりあうのを見て判断できるか」
幸か不幸か、ゴブリンがそこにいる。
衝突も間近だろう。
その時にどう動くか。
それを見て兵士として取り立てるかどうかを決める事になるだろう。
弓の腕だけではない、闘いで動じない胆力があるかどうか。
指示に従って動く事が出来るか。
時にその場における最善を見付ける機転があるかどうか。
こういった事を実際の戦いの中で見ていく事になる。
「けど、候補が多いのはありがたい」
「まったくです」
どこまで使えるかはまだ分からない。
それでも、有力な若者がいるのはありがたかった。
「それじゃあ、若造がもう少し活躍できるよう、鍛えてきますか」
「頼むよ」
村の者達の所へと向かうグロスデンを見送る。
この場における適任者は、この古参の従士だ。
彼に全てを任せておけば問題はあまり無い。
ゲールはゲールでやるべき事をやっていく。
ゴブリンの襲撃に備えて。
あるいは、ゴブリンに襲撃をするために。
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【よぎそーとのネグラ 】
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