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6-13.「ビッグニュースを聞きつけて」


 アレクセイがたどり着いた、ゼノン・ドッカーにまつわる衝撃の真実。


 それはあの『偵察』期間にアレクセイが垣間見てきたミレイシア・オーレリーという女性、その人物像のすべてを根底からくつがえしかねないものだった。


 しかしそれはまだあくまで可能性のことで、仮説の域を出るものではまったくない。論拠もなく物事を断定するなど、一端の研究者としてあってはならないことだ。


 だから私情を捨て、アレクセイは立ち上がる。

 泣き腫らした目をグシグシやってから、こうしている場合ではないと、そう己を律して。


 だって本当に苦しんでいるのは、ミレイシアかもしれないのだ。

 こうしている今も、まだ暗闇の中で泣いているかもしれない。

 助けを求めているかもしれない。


 そんな彼女を思えばこそ、ここでウジウジ泣いていることなんてできなかった。


 考えろ、考えるのだ。

 この明晰めいせきな頭脳は何のためにある。

 彼女を本当の意味で助けてやれるのは、もはや自分しかいないかもしれないのだぞ。


 こんなところでメソメソしている場合ではないだろう!

 しっかりしろ、アレクセイ・ウィリアム!


 そう己に言い聞かせ、改めて本格捜査へと乗り出していくアレクセイだった。


 果たしてその仮説が、真偽のどちらであってほしいのか。

 自身の中でも、その答えが定まらないままに。


 今はただ、真相の究明をと。



 ◆



 だがアレクセイが想定したより、ずっと捜査は難航することになる。


 一通り街を駆けずり回ってみたのだが、有力な手掛かりをなかなか得られないのだ。さすがに聞き込みだけでは限界がありそうで、事件の主要人物らを尋ねにいきたいのは山々だが。


 まず最初に尋ねたミレイシアの身柄は、すでにオーレリー邸になかった。

 最初は使用人がウソをついているのではと睨んだが、遠目から屋敷を張っても確かにミレイシアの姿が一向にうかがえない。


 おそらくはこれ以上の衰弱を防ぐためにどこかで療養しているか、安全を考慮して身を隠しているのだろう。とにもかくにもミレイシアへの接触は難しそうで、次に浮かんだ候補は実父、ライカン・オーレリーだった。


 だがなんというか、彼ももうダメそうなのである。

 テンで話にならなかった。


 現役は退いたものの、明哲めいてつと名高い彼なら分かってくれるはずと、こちらが垣間見た可能性の一端を包み隠さず話したというのに。あの男と来たら、帰れと一喝した挙句にこちらを「デクの坊」呼ばわりだ。


 どうやらもう、すっかり耄碌もうろくしてしまっているらしい。

 まぁ娘がそんなことになってしまった直後だから、仕方ないと言えばそうなのかもしれないが。


 いずれにせよ、ひどい八つ当たりをこうむったものだ。

 これ以上ヘタにつついて薮蛇やぶへびを呼んでも面倒だと、敬遠することにする。


 となると残るは、ゼノン・ドッカーのみとなるわけだが。

 奴については問題外だろう。接触を試みるだけ無駄だ。

 何をただしたところで、どうせシラを切るに決まっているのだから。


 しかし、そうなると手詰まりだった。

 ふらりと訪れた公園のベンチに腰を下ろし、ガックと項垂うなだれて。


 いや正確には1つだけ、あるにはあるのだ。

 こんなまだるっこしいことをしなくても、一発で真実を明かせてしまえる極めつけの決定打が。


 だがそれは同時に、禁じ手でもあった。

 魔法薬の道を行く者として犯してはならない、絶対の禁忌。


 バレたら一環の終わりなのだ。

 ブタ箱行きはまずまぬがれないし、研究者としての道も永劫閉ざされることだろう。(そもそも自分では万に一つもゼノンに太刀打ちできないとか、そもそもの問題はいろいろあるにしろ。)


 さすがにそこまでのリスクは犯せなかった。

 べつにその結果としてゼノンがどうなろうと知ったことではないが、奴と心中なんてゴメンである。


 何よりせっかくミレイシアを助けても、自分が捕まったのでは何も意味がないではないか。だからその選択肢はずっと、アレクセイの中であってないようなもので。


 でもだからといって、どうすれば良いのか。

 いよいよ八方塞がりとなって、頭を抱えていたときだった。


 おい聞いたかよと、ヨソからあらぬ情報が耳に飛び込んできたのは。

 彼らがどうやら今年の魔女狩り試験について会話しているらしいことは、さっきから耳半分にも届いていたことだが。


「なに……?」


 アレクセイは咄嗟に耳を疑うことになる。

 どうやら近ごろゼノンの周囲をうろついているらしい、アリス……?とかいう魔女の子どもの存在についてもまったく初耳だったが、何より。


 それが今年の魔女狩り試験に出てくるらしいなどとビッグニュースを、思いがけず聞きつけてしまったのだから。


 そして当日――。

 アレクセイは実に数年ぶりに、試験会場となるスタジアムへと赴く。

 それは『アリス』について調べているうちに浮上した、とある突拍子もない仮説を確かめにいくためだったのだが。


 まさかそんなはずはないだろうと、最初は半信半疑だった。

 でも結果はそのまさかで、ビンゴもビンゴの大当たり。


 あらかじめ仮説を立て、瞬き1つすら惜しんで『アリス』だけを注視していたアレクセイだからこそ見抜けた真相ことだった。やはりそうか、そういうことだったのかとニヤリ笑みを吊り上げる。


 ゼノンめ、ついに……。

 ついに尻尾を掴んだぞ、と。


 なにせ局面の終盤でリオナ・コロッセオとの試合が中断され、ゼノンに抱えられる格好で会場を後にしていた『アリス』だが。その姿が最後の瞬間だけ、確かに。


 アリシア・アリステリアという、まったく別の少女の容姿にすり替わっていたのだから。

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