表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/969

49話 「鬼屠姫」

 ヒナギク視点です。

 簡単に言えばぷっつんします←

 その証拠がサブタイですね←ヲイ

 レンが傷ついていく。


 現実ではなく、ゲームの中でだが、それでもレンが傷ついていることには変わらない。


(もういいよ)


 ヒナギクは傷つくレンを見て「もういい 」と何度も思った。もう私のために傷つかないで、と何度も思った。


(こんなお姫様みたいなの、嫌だよ)


 頭に浮かんだ言葉も、現状もまるでお姫様だ。おとぎ話にあるような、囚われのお姫様のようだ。


(どうしてわかってくれないの?)


 そんな扱いをされることが、ヒナギクは嫌だった。むしろ嫌っていると言ってもいい。


 だが、レンはどうしてもやめてくれない。それはゲームの中だけではなく、現実でも同じだ。


 現実でもレンはなにがなんでもヒナギクを守ろうとする。自分の身を盾にして守ろうとしてくれる。


(守られてばかりは嫌なのに。なんで気づいてくれないの?)


 現実では、ヒナギクはゲームの中でほど強くなかった。


 現実ではどうしても体力がついてくれないのだ。だからどうしても体力的に劣ってしまう。そのせいでどんくさいと言われてしまっていた。


 そんなヒナギクをレンは昔から支えてくれた。


「ノンちゃんは俺が守ってやる!」


 子供の頃にレンはそう言った。ただ言われた当時は思いっきり顔を殴ってやったが。


 その当時のレンが言った「ノンちゃん」とは、ヒナギクの昔のあだ名で、呑気でどんくさいからノンちゃんらしい。


 その名で呼ばれることをヒナギクは嫌っていた。だからこそレンを思いっきり殴ったのだ。


 結果は取っ組み合いの喧嘩に発展した。だが、喧嘩しながらもヒナギクもレンも笑っていた。


 お互いに思っていたことをその場で発散したというのもあるが、お互いにわかっているようでわかっていなかったことを理解できたのが嬉しかった。


 レンはヒナギクが「ノンちゃん」と呼ばれることを本当に嫌がっていることを、ヒナギクはレンが本気でヒナギクを守ろうとしていることを、それぞれに知った。


 お互いのことをまたひとつ知れたことが当時のレンとヒナギクは嬉しかったのだ。

 

 だが、その嬉しかったことが、いまひとつの問題となっていた。


 いや、当時から問題だったことが、いま改めて問題になってしまったのだ。


 ヒナギクを守る。


 レンにとっては「あたりまえ」のことだ。


 だが、その「あたりまえ」はヒナギクにとっては「あたりまえ」ではない。


 レンは幼い頃に自身が口にしたことを、ヒナギクを守ることをなにがなんでもやり通そうとする。……たとえどんな怪我を負ったとしてもだ。


 ヒナギクの盾になっているレンの現状こそがその証左だった。


 だからこそ、ヒナギクは思うところがある。いや、思うところしかないのだ。


(私は守られてばかりのお姫様じゃないんだよ、レンちゃん)


 子供の頃に思った言葉が、脳裏に浮かぶ。


 ごとりとなにかが動く音が聞こえた。


「が、頑張れ!」


「負けないでー」


 そこに観客からの声援が聞こえてきた。


 その声援は普通なら好意的に捉えられるものだった。


 しかしヒナギクにとっては真逆に感じられた。


(なにが「頑張れ」なの? どうして「負けないで」なんて言えるの? レンは頑張っているよ? もう倒れてもおかしくないくらいに傷ついているのに、自分に負けないでいるんだよ? なのになんでそんなことが言えるの? どうしてこれ以上レンに無理をさせるようなことを言うの? レンをもっと傷つかせるようなことを言うの?)


 声援が聞こえるたびにヒナギクの感情が徐々に高ぶっていく。


 それでもどうにか自分を抑えようとしていた。


 抑えるためにレンに下がってもらおうとした。


 いや、一緒に戦うためにまずは下がってもらおうとしたのだ。


「もう、いいよ。もういいってば、レン!」


 だが、口から出たのは感情が先走った言葉だった。


 これではダメだとヒナギク自身も思ったが、それ以上の言葉は出てくれない。


 そしてその言葉では、レンは止まらなかった。


 まるでヒナギクの言葉を無視するようにしてミカヅチを構えていた。


 そんなレンにヒナギクはレンの名を叫んだ。すると──。


「……大丈夫。俺は負けないから」


 ──レンは振り返って笑った。その笑顔はヒナギクが昔から見ていた笑顔。ヒナギクを安心させるための笑顔だった。その笑顔を見てヒナギクは言葉を失った。


(やだよ、やめてよ)


 いつもなら安心できる。けれどいまだけは無理だ。


 レンからは悲壮感しかない。そんな悲壮感のある笑顔なんて浮かべられて安心できるわけがなかった。


 だがそれを言うよりも早く「フルメタルボディズ」は一斉攻撃を仕掛けてきた。斧が、メイスが、ハンマーがレンへと迫っていく。


 だがレンは避けるそぶりを見せない。ヒナギクが後ろにいるから避けようとしない。


 ヒナギクを守る──。


 その宣言通りに行動するために。ヒナギクを守るためにみずからを盾にしようとしている。


 その姿に、その笑顔にヒナギクの中で大きく弾け飛ぶ音がした。そしてヒナギクは一歩大きく踏み込み、レンの前に立った。


「私の幼なじみに──」


「ヒナギク!? なんで前に」


 レンが慌てるがヒナギクにはもう届かない。


 ヒナギクは拳を強く、いままでになく強く握りしめていた。そうして握りしめた拳をヒナギクは全力で打ち付けながら叫んだ。


「なにしてくれているのぉ!」


 ヒナギクの一撃は閃光を思わせる速度で放たれ、「フルメタルボディズ」の先頭にいたメンバーの甲冑に直撃する。


 本来なら金属と生身の拳の激突など結果は火を見るより明らかである。


 だが今回の結果はその本来起こりうるはずの結果を超越した。すなわち──。


「がはぁっーっ!?」


「ちょ、マジ、げふっ!?」


「なにがどうな、のわぁっ!?」


「う、嘘で、はぅ!?」


 ──ヒナギクの一撃は「フルメタルボディズ」の甲冑を突き破った。そしてその衝撃ゆえに先頭にいたメンバーは踏ん張ることもできずに後ろへと飛ばされた。


 その背後にいたメンバーもまた避けることも受け止めることもできずに吹っ飛んだ。


 そのあとはまるでボーリングのピンを思わせるように次々に巻き込んでいき、最終的には「フルメタルボディズ」4人は場外にと転がり落ちることになったのだった。


 レンへの声援に包まれていた会場が静かになった。全員が唖然としていた。

 

 このとき、ヒナギクはとある称号を得ていた。


 その称号はとあるスキルを同時に入手できるものだった。


 そのスキルの効果は、ヒナギクの右拳に形として現れていた。ヒナギクの右拳は赤熱していたのだ。


 その称号の名は「鬼屠女」の上位称号である「鬼屠姫」であり、入手したスキルは「鬼鋼拳(炎熱)」である。


 ますますヒナギクの怒りに火をつけそうなネーミングではあるが、その怒りが向かうのは特定の人物だけ。すなわち──。


「ひ、ヒナギ、ク?」


 恐る恐ると声を掛けてくるレン。そんなレンにヒナギクはとてもきれいだが、とても威圧感溢れる笑顔を浮かべて言った。


「こんの、ドバカァァァァっ!」


「ほげぇぇぇぇーっ!」


 ヒナギクの怒りの鉄拳が火を噴いたのだった。


 その鉄拳が火を噴いた結果がどうなったのかは言うまでない。


 とにかくそうして「フルメタルボディズ」の4人とレンとヒナギクの戦いは終結したのだった。

鬼屠姫おとめ」……「愛しているのだからちょっと怒りすぎちゃってもいいよね」という重たすぎる愛はついに対象へと牙を剥いたそんなあなたへと贈る称号。「鬼屠女」の上位称号。取得方法は重すぎる愛ゆえにぷっつんすること。効果は戦闘中にSTRとAGIに補正(小)あり。加えてスキル「鬼鋼拳(炎熱)」を取得する。


「鬼鋼拳(炎熱)」……その拳は鬼の拳のように堅牢となる。その堅牢さはまるで鋼の如く。戦闘中に任意で拳を鋼のように固くなる。炎熱は火属性を付与させる。取得方法は「鬼屠女」を取得後、素手での攻撃を100回すること。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ