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47話 ヒナギクは俺が守る

 タマモへの心配をひとまずは呑み込んだヒナギク。


 そんなヒナギクにレンは小さくため息を吐いた。


(本当にヒナギクは、タマちゃんには甘いよなぁ)


 レンからしてみればヒナギクのタマモへの態度はずいぶんと優しい、というよりも甘い。


 少しだけ。そう、ほんの少しだけ不安を覚える程度にはヒナギクは、タマモには甘いのである。


 ……端から見れば、「どこが?」と言われるであろうことは間違いないだろうが。


(俺の知っているヒナギクなら、そもそもここまで面倒を見ることないし)


 レンが知っているヒナギク。リアルでのヒナギクであれば、ここまで面倒を見ることはない。


 もっとも面倒見が悪いというわけではなく、一応面倒を見ることはする。


 ただしタマモにするほど、親身にはならない。どこかおざなりになってしまっているのが、はっきりとわかってしまうのだ。それも面倒を見てもらっている相手がわかってしまうくらいにはっきりと。


 だからと言ってリアルでのヒナギクは優しくないわけじゃない。単純にその優しさには、ずいぶんとムラがあるというだけのこと。


(でもそれを理解してもらいづらいんだよなぁ)


 ムラのある優しさに気づいてもらえれば、レンとしては言うことはない。


 ないのだが、どうにもクラスメイトたちからは理解してもらえない。


 理解を示してくれるのは昔から懇意にしてくれている友人たちくらいであり、新しい交遊関係をヒナギクはなかなか築こうとしないのだ。


「だって、私にはあんたがいるもの」


 もっと交遊の輪を広げようと言ったところでヒナギクは聞いてくれやしない。


 それどころか、レンをも黙らせる笑顔で、顔をほんのりと紅く染めてはにかむように笑ってくれる。


 その笑顔にいつも見惚れてしまい、結果なにも言えなくなってしまうのだ。


(ヒナギクは俺が性質悪いと言うけど、俺からしてみればヒナギクの方がよっぽどだよ)


 言いたいことも言えなくさせられてしまっているレンにとってみれば、ヒナギクの方がよっぽどだと思っていた。


 ……実際にはクラスメイトからはどっこいどっこいだと思われていることをレンは知らない。レンが知らないのだから、ヒナギクもやはり知らない。


 リアルのヒナギクとレン。このふたりは、揃って性質が悪いのだが、そのことにふたりが気づくことはない。気づかぬまま、「どちらがより性質が悪いか」で言い合いをしょっちゅうしている。


 しかし性質が悪い者同士が喧嘩しても、より上位が決まるわけではなく、かといって減衰するわけでもない。


このふたりの場合だと、より性質が悪くなるのである。


 口喧嘩どころか、お互いに手を出し合っての喧嘩をしていたはずだったのに、気付いたら誉めちぎり合ってからの、お互いに赤面するという、端から見れば「なにがしてえんだ、おめえら」としか言いようがない結果になってしまうのだ。


 そんなふたりの喧嘩を見たクラスメイトは口々に言う。


「信じられるか?こいつら、これで付き合っていないんだぜ?」


「もう結婚しろよ、おまえら」


「あー、口の中が甘ったるい」


「状況が変わりすぎてわけわかめ」


「草も生えんわ」


 等々と散々な言われようなのだが、ふたりからしてみれば、まことに遺憾なのだが、個人個人の意見は総意には敵わないというのは、歴史が示す通りである。


 よってふたりの意見は黙殺されてしまうのだが。


 とにかくヒナギクもレンも双方に性質が悪いのだが、その性質の悪いはずのヒナギクが、珍しくわかりやすい優しさをタマモには向けている。それがほんの少しだけ気に食わないとレンは感じていた。


(嫌いというわけじゃないのになぁ)


 タマモを嫌っているわけではないのだ。なのにタマモへとわかりやすい優しさを向けるヒナギクの姿に、なんとも言えない寂しさを感じるレンだった。


 その感情がなんであるのかはいまいちわからなかった。試合中であるというのにも関わらず、関係ないことを考えてしまっていた。それがレンのミスを生んだ。


「「「「シールドバッシュ!」」」」


 また「フルメタルボディズ」の4人のシールドバッシュが放たれた。そのシールドバッシュを大きく弧を描きながら回避して、レンは自分のミスに気づいた。


「っ!」


(しまった、誘い込まれたか!)


 回避し終わったとき、後ろが舞台の縁すれすれだった。


 正面に視線を戻したときにはすでに囲まれていた。


「捕まえたぞ」


 目の前には不敵に笑う「フルメタルボディズ」の4人がいる。


 いくらか息を切らせているようだが、シールドバッシュを連続で放ち続けたのだから無理もない。


「……しまったな」


追い込まれ、囲まれてしまった。完全にレンのミスであった。


 試合中に別のことを考えてしまっていたせいで、追い込まれていることに気づかなかった。


 加えてヒナギクを降ろすことなく行動してしまったこともミスだった。


 せめてヒナギクがいなければ。いや、ヒナギクを囲みの外に出せればどうにかなるのだが。


(そんな猶予はくれないよなぁ) 


 どうしたものか。レンは思考を巡らし、ヒナギクを降ろした。そしてみずから一歩前に出た。ヒナギクを背中に隠す形で前に出た。


「レン?」


「なんだい、兄さん? そこの姉さんを背中に隠すってのはどういう了見かな?」


「フルメタルボディズ」の4人のうちのひとりが困惑気味に声を掛けて来る。背中に隠したヒナギクも困惑している。


 無理もない。背中に隠す意味などほとんどないのだ。


 少し押せばヒナギクともども場外に落とせる状況だった。


 ゆえにレンがしていることは意味がない。そう、傍から見ればの話だ。


 だが、レンにとってはその行動は意味のあるものだった。いや、レンのそばにヒナギクがいるからこそ意味が生じてしまうのだ。


「……ヒナギクは俺が守る」


 ミカヅチを正眼に構えながらレンは言った。


「れ、レン!?」


 レンの背中にいるヒナギクが顏を真っ赤にした。対して「フルメタルボディズ」の面々は少しだけ面白くなさそうな顔をしていた。それでも構わずにレンは言った。


「だから俺があんたらをぶっ飛ばす」


 はっきりとレンが告げた。その一言に「フルメタルボディズ」の4人はそれまで以上に苛立ったようだった。


「やれるものならやってみろ!」


「フルメタルボディズ」の4人が叫びながら攻撃を仕掛けてくる。


 レンはミカヅチを構えながらまっすぐに「フルメタルボディズ」の4人を見つめ続けた。

 実に「レン」らしいセリフとなりました。

 次回はヒナギク視点になります。

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