32話 試合開始
タマモたち「フィオーレ」が舞台に上がると、そこにはすでにほかのクランが2組ともいた。
2組とも男性プレイヤーだけのクランだった。片方は見た目からしていかにも粗暴そうであり、もう片方はわりと軽薄そうなプレイヤーばかりのクランだった。
数は粗暴そうなクランが5人で軽薄そうなクランは4人だった。どちらのクランも「フィオーレ」よりも人数的に有利ではあった。
「ん~。3人組か。こいつは余裕かな?」
粗暴そうなクランのリーダーが言うと、ほかの4人がそれぞれに笑っていた。もう片方のクランは粗暴そうなクランの様子に辟易とした様子で肩を竦めていた。
「野蛮だな。相手は女の子もいるというのに」
軽薄そうなクランのリーダーがため息を吐くと、ほかの3人もそれぞれに頷いていた。その言葉に耳ざとく反応する粗暴そうな5人組のクラン。
「おいおい、誰が野蛮だって? てめえらみたいにちゃらちゃらした連中よりもよっぽどましだと思うんだけどな?」
「誰がちゃらちゃらしているだって? 俺たちは俺たちに相応しい姿格好をしているだけだ!」
4人組のクランと5人組のクランがそれぞれに睨み合いを始めた。
それどころか「モテない奴のひがみだ」とか「女をとっかえひっかえしているんだろうが」とか風評被害じみたことを言い募っていた。
(子供の喧嘩みたいですねぇ)
言っている内容はまさに子供の喧嘩そのものである。
一応10歳以上からプレイできるゲームであるので、低年齢層がこの場にいてもおかしくはないのだが、口にしている内容からして双方ともに十代だったとしてもハイティーンないし成人間近であろう。
つまりは決して子供とは言えなくなった年齢だと言える。
その大人に近い年齢同士の口喧嘩が子供じみているというのはなんと言えばいいのだろうか。
これがまだ「おまえの母ちゃんでべそ」と言い合っているのであれば、まだかわいらしいのだが、片思いの相手を取ったの取っていないだのという言い合いになると、あまり笑えない。
その言い合いを聞かされている観戦しているプレイヤーたちもかなりしらけた顔をしている。
「どうでもいいからさっさと始めろよ」という声が飛んでくるのだが、その声さえもヒートアップした2組の耳には届いていないようだった。
「……どっちがいい、ヒナギク」
「粗暴そうな人たちの方がまだましかなぁ」
「奇遇だな、俺もそっちがいい。でもヒナギクにあのチャラ男どもの相手をさせるのも嫌だから、俺があっちにするよ」
「うん、了解」
2組の言い合いを聞いていたヒナギクとレンがなにやら話し合いをしていた。どうやらどちらのクランの相手をするのかの話のようだった。
「えっと、ボクは」
「タマちゃんはまだ見ていていいよ」
「いまのタマちゃんがするべきことは、その目に焼き付けることだからね」
1回戦とは違い、今回は活躍したいと思っていたタマモだったが、ヒナギクとレンに後ろに控えているようにと言われてしまった。
「焼きつけるってなにを」
「俺とヒナギクの戦い方をだよ」
「タマちゃんは私たちのリーダーだもの。ならメンバーの戦い方を焼きつけていてほしいんだ。どう戦えば最良なのかを、タマちゃんには理解していてほしいから。だからそれまでは私とレンが頑張るよ」
「でも」
「いいから、いいから。それに」
「すぐ終わるよ」
くすりとヒナギクとレンが笑う。ふたりが笑うと同時に、運営側も呆れているのか、2組のやりとりを無視して試合開始のアナウンスを流した。
「……試合開始します」
わずかに間が空いたことが運営側の呆れであることは間違いなさそうだった。とにかく試合はそうして始まった。




