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3話~試し合い~

 ――ガチャ。


 音を立てて颯爽と入ってきたのはどこか見覚えがある顔の女性だった。背筋はピンと伸び、入ってきた直後からこちらに射抜くような眼を向けてきている。猫人特有の縦に広がる瞳孔と、後ろで一房に纏められた長い白髪は彼女に凛とした雰囲気を纏わせる。また、白髪ではあるが、元の世界の一般人の老化現象で見られるようなものではなく、地毛の色が白なのだろう。その証拠に太陽の光を受け、艶やかに靡いている。


「私はシャ・ヴァレー支部の傭兵ギルド長、カイラ・シャ・ヴァレーだ。貴殿の名はソラ・カミヤで間違いないな?」


 有無を言わせない強い口調。思わず頷いてしまいそうになるが、グッと堪える。

 焦らず、冷静に。正直に答えても構わないはずだ。ならば、礼儀は失せず、不利益になる情報を隠す。いつも通りだ、自分を強くもて。


「はい、そうですよ。お初にお目にかかります神谷空と申します」


 内心の動揺は表に出さず、立ち上がり出来るだけ優雅に一礼をした。そして、どこで見かけたかを思い出した。ギルド長だ。つまり、この部屋に飾ってある肖像画の一つの彼女の姿が描かれていたのだ。

 一つの疑問が消えてすっきりした気分で彼女と向かい合う。


「貴殿は和人だったか。立ち話もなんだ、座ってくれ」

「失礼いたします」


 許可を受け、座った。今度は足を組むような無礼な真似はしない。ただ演技がはがれれば、ついいつもの癖で組んでしまいそうではあるが。

 

「さて、なぜここに呼ばれたかは分かっているか?」


 大体の推測は出来るが、こちらの世界での基準を知るためだ少々考えるふりをして首を横に振った。

 

「なるほど。分からないと言うか……おや、ソラ殿の茶が減っていないように見えるが? 口に合わなかったか?」


 一瞬笑みを浮かべて、尋ねた。

 俺にはその問いが、わざとらしく聞こえた。

 俺のついた嘘がばれているのだ。

 暗に「それほどの警戒心がありながら、呼ばれた理由が分からないなど嘘だろう?」、と目が言っているように思えた。

 こいつ相手に演技を続ける必要はないのかもしれない。そう思えるほどに頭が切れ、洞察力もある。三文芝居は効かないか。

 とは言え、ベルナールの様に素を見せられるほど、こいつを信用できない。確証が持てるまで続けるべきだろう。


「申し訳ございません。昨日より腹を下しておりまして」


 手を腹に当てながら答えた。

 少々品が無いが仕方ない。この位しか巧い言い訳が見つからない。それに仮病の芝居位はお手の物だ。


「それは気の利かぬ事をした。では、そろそろ本題に移ろうとしようか」

「そうですね。私も理由が気になって仕方なかったのです。説明をお願いします」


 頭を下げながらチラリと相手の顔を盗み見ると、楽しそうに、そして、俺にばれない様、静かに笑っていた。


「貴殿を呼んだのにはいくつか理由がある。それは安全の確保と事態の把握だ。理解できるかな?」

「はい、状況を知りたいというのは分かりますが、安全の確保というのは……」


 嘘だ。本当は分かっている。なぜ、呼び出す事で安全が確保できるのかという事を。


「では、仕方ない。説明するとしよう。だが、こちらには何の情報もないのだ。貴殿がなぜ他の者のギルドカードを持っていたのかを話していただけるかな?」


 やはり、その話題だったか。おそらく、罪には問われないはずだ。そうでなければシャ・フルールの傭兵ギルドの依頼の中に賊の討伐依頼が貼り出されているわけないからだ。賊たちの扱いは所謂賞金首。そのような依頼を出す事で風紀・治安を保とうとしているのだ。違法なはずがない。


「私はシャ・フルールからここへ向かう道中で山賊と思われる連中七名に襲われました。抵抗を試みた結果、七名全員を返り討ちにすることに成功いたしました」

「ほう。貴殿はなかなかの手練れだな。とは言えその推測は正しい。貴殿が討ち取った賊は皆【北の斧】に所属する一党だ。後ほど、賞金の方も渡そう」


 これで倒すと金になる事が分かったな。


「ありがとうございます。でも、肝心の呼び出された理由が分からないのですが?」


 自分でも言ってて笑えるくらいの白々しさだ。現に目の前に座るカイラは俺の前に置いてあった茶を笑いながら啜っている。


「食えない男だ。賊七名を余裕で倒す実力があり、警戒して飲み物にも手を出さない男が呼び出された理由が分からないはずがないだろう?

 正直に答えてくれ。

 分かっているはずだ。これは本当に安全を確保するためなのだ」


 そろそろ限界か。まあ、素人の三文芝居じゃここらが引き際だな。一般人ならば見抜かれることはないんだが、そこは支部とは言えギルド長を務めるだけはあるという事だな。


「分かった。だが、その前に茶を持ってきてくれ。喉が渇いた」

「それが貴殿の素か。先ほどまでの人の良い笑みが嘘のように消えているな。良いだろうギルド長たる私が直々に注いでやろう」


 笑顔? 嘘に決まっているだろう。正直に話すならば、無理に愛想良くする必要はない。

 渇いた喉に茶が染み渡る。ふぅと息を吐くと、足を組み、ソファーに凭れながら口を開いた。


「先に一つ言わせてもらうぞ。アンタだって黙っていることがあるんじゃないのか?

 安全確保といえば、さも俺の心配をしているように聞こえるが他にも意味はあるだろ?」


 彼女はカップをコースターに置き、ふっと笑うと言った。


「見事なものだ。そこまで読み切ってくるか。だが、仕方あるまい。なぜかは知らないが貴殿が演技をしていたのだ。警戒して然るべきだろう?」

「そうだな。だが、前置きは良いさっさと言え」


 若干引きつった笑みを浮かべた後、苦笑した。


「これが素ならば、確かに演技の必要はあるな。

 まあいい。確かに貴殿の言う通り言い忘れていたことがあった」


 ここで忘れていたと言えるこいつもなかなかの者だろう。


「付け加えるべきことは安全が確保される対象にある。

 それは貴殿も入るが、それだけではない。他の者とは分かるか?」


 笑いながらこちらに尋ねてきた。これは試しているな。


「ああ、それは周りの無関係な者たちであり、対抗手段を持たない者を指すんだろ?」

「正しくその通りだ。この辺りで【北の斧】の奴らが討たれたとなれば、報復対象になる可能性がある。その時、一番被害を受けるのはそういった者たちだ。

 さて、これを踏まえたところで貴殿に聞きたいことがある」

「何だ?」


 にやけた笑みはなりを潜め、入室時の品定めをするような鋭い目つきに変わっていた。


「危険性がある事が分かっていたのならば、なぜあの場で出した」


 静かな殺気。


 正義感の強い女性なのだろう。声を荒げてはいないが、膝の上に置いてある手が強く握りしめられていている。


「すまなかった」


 頭を下げた。そして、上げずに続けた。


「一番の理由は試したかった。言うなれば、俺の興味本位でやったとしか言えない。本当にすまなかった」


 少しの間、沈黙がこの場を支配した。

 それを破ったのは女性にしては低い声。


「もう良い。貴殿に本当の事を聞いても答えてはくれなそうだ。最初に言われただろう? 賊を倒した時にどのようにすればいいかを。次からは気を付けてくれ」


 最初に説明? えらく簡略なものだったが……まさか。


「聞いてないぞ」

「な……!? それは本当か?」


 身を乗り出して聞いてくる。ひどい慌てようだ。だが、こうして見るとずいぶんと若く見える。歳は二十代か?


「嘘をつく必要があるか? まあ、危険性があると知っていながら、行った俺にも落ち度はあるがな。それでも最初に警告を受けていればこのような事はしなかった」


 それもそうだ。あえて危険な事をする馬鹿がどこにいる。

 そうするのは自分の好奇心とリスクで秤にかけて前者が勝った時だけだ。


「はぁ、頭が痛い。貴殿が説明を受けたのはどこだ?」

「シャ・フルールだが?」


 妙に納得した顔でため息をついた。


「あのサボリ魔がいるところか。ならば、こちらの落ち度だ。職員が迷惑をかけたな」

「いや、気にしなくて良い。あの時は俺も話が短くていいと思っていたからな」

「そうか。そう言ってくれると気持ちが軽くなるよ。だが、これだけは言っておく。

 もし、万が一の事が起きれば、貴殿には前線に立ってもらう。いいな?」

「ああ、元よりそのつもりだ。そこで頼みがあるんだが――」


 それから何度か言葉を交わすと、賞金を受け取りギルドから出た。

 そして、宿の前まで戻ってくるとその日の疲れを癒すために眠った。ベッドも風呂もあり、何より夜中に誰かに入られる心配がないというのは大きい。夜中に目が覚め、部屋の中で軽く素振りをしたが、十分に疲れを取ることが出来た。


 


 朝起きて、朝食を食べると俺は昨日来ることが出来なかった武器屋の前にやってきていた。

 店内は広く、シャ・フルールよりも二回りほど大きい。そして、この一軒だけでなくこれよりも小さい店が軒を連ねている。

 とりあえず、品揃えが良さそうなここで一番大きな店に来たというわけだ。


「いらっしゃいませ! 何をお求めですか?」


 接客に来た店員に向かって注文した。


「とりあえず、剣と盾と槍、それと武器を収納する袋をください」

「かしこまりました」


 数分後に店員が手ぶらで来た。どういうわけかと思っていたら、持ちきれなかったので近くのテーブルの上に並べてあるとの事だ。

 見てみるとそこそこの物が揃っていた。買ったのは武器や防具をしまうことが出来る店で一番大きい収納袋、穂先にクリスタルのように透明でその中にバチバチと雷が奔っているのが分かる【雷晶石らいしょうせき】が使われている約2mほどの長さの魔槍に、衝撃に強く、火雷土属性に強い鉱石である【絶縁魔石ぜつえんませき】を大量に使って作られた蜷局を巻いた蛇が描かれた紅蓮の盾、魔法を纏いやすい【雷晶石】と耐久力に優れる【剛魔石ごうませき】の混合の刃を持つバスターソードだ。

 ついでに大きな面に風属性魔法が埋め込まれている魔槌も購入した。

 良い買い物ではあったがおかげで、潤いに潤っていた俺の財布の中身は2アル12キュイしか残されていない。

 

 剣と盾だけを袋から出して装備すると、カイラとの約束を果たすために次の町へと向かった。


次回は戦闘メインになる予定!!

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