表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した九十八歳のおばあちゃんです。転生先で再びおじいさんと出会いました。  作者: 丹羽坂飛鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

ドワーフ族の歓迎会

 ティロウ推しのメイドたちはドワーフのためにお給仕することも、私とお料理することも快く引き受けてくれた。


「何かあったら、流石にティルダーロの一柱からは降ろされるだろうな。

 それでも屋敷から人員を出す気になったのは、皆を信じているからだ。

 どうか俺に力を貸してほしい」


 こんなことを自分の推しに言われて、燃えないわけがない。


「ご主人様のためにーっ」


「頑張りますよーっ」


「「「おーっ」」」


 体育祭の優勝争奪戦くらい気合の入った女子の声を一緒にあげながら、考え尽くして作り上げたメニュー表を厨房に貼り出した。

 提供専用のメイドたちも一列に並んで、最も古株と教えてくれたティファナが指揮をとっている。


「ドワーフ族の皆様への礼儀作法は覚えましたね。

 本日は我々ヴァレスト邸のメイドがご対応させていただくことは周知の事実です。

 いいですか、ご主人様に恥をかかせないように!」


「「「全てはご主人様のために!」」」


 どこも気合いでいっぱいです。


 ヴァレスト邸はドワーフ族との会食の全てを請け負うことにした。

 本日の会談予定は午後五時まで。

 その後晩餐会の会場に入ったドワーフ族の皆様が、満足するまで食事会が続く。

 開始の合図はメイドのワープで始まる。


「奥様、お客様が会場へ向かい始めました!」


「わかりました。みんな、頑張りましょう!」


「「「はい、奥様!」」」


 廊下の移動時間を考えて、メニューはすでに組んである。

 お酒を運ぶメイドや、冷たいサラダを冷蔵庫から取り出して並べるメイド、人の行き来は繁盛している飲食店の厨房くらい賑やかだ。


「ソーセージが仕上がりました、エレイン、お願いします!」


「お任せ下さい、奥様!」


 調理を担当している誰かが声をかけると、メイドが受け取ってすぐに運び出してくれる。

 この世界のドワーフは乾杯の時、必ずソーセージから開始するらしい。

 仕事終わりに焼きたてを仲間と味わうのが流儀だから、凝った料理は好まない。


 しかし前回は料理人渾身の一皿が出てきたため「頭でっかちのくせにバカにしているのか」と喧嘩になった。

 そう聞いていたから、ドキドキしながら他のお料理を仕上げていたけれど……文句や中止の指示は来ない。


「よし、第二フェーズ開始……っ、アイリーン、メルクリウス、続けていきますよ!」


「「はい、奥様!」」


 ドワーフの皆様は仕事の緊張感を一気に緩和させるため、強いお酒を飲んで、ソーセージでお腹の準備をしている。

 会場の状況を想像しながら、本で得たドワーフの知識をフル回転させながら、厨房でひたすら鍋をふった。


「牛肉のナッツ炒めです、持っていってください!」


 鉱山の仕事でビーフジャーキーも齧るし、とにかく牛肉とナッツが好きらしい。

 ミックスナッツも会場には置いてあるけれど、塩味も強めにしている。


 すでに下ごしらえなども終えた食材を使って、熱々は熱々のままになるよう、他のメイドも仕上げをしていく。

 肉汁溢れる鳥の唐揚げに、カリカリの皮付きポテトといったおつまみから、具材が何種類もあるおにぎり、お味噌汁、何を食べても美味しいと言っていただけるよう味にも細心の注意を払いながら、仕上げて盛り付ける。


 お酒を持ち出すメイドたちの動きが慌ただしいのにも気を配った。

 今出ているのはビールだから、熱々の手羽先に甘辛いタレを絡めて皿に出す。仕上げに小ネギと胡麻を散らして、メイドにお任せする。


 会談の行方なんてものは、厨房には全く届かない。

 それでも順調に食事が進んでいることは戻ってくるお皿でもわかるし、お酒の瓶が溢れ返り始めたのでもわかる。量が。何あれすごい。


「アイリーン、ごめんなさい。焼き物を先にお願いできるかしら? 皆様の飲むお酒がウォッカに変わったみたい」


「はい、ではキノコとベーコンのバター醤油炒めにします」


「メルティはヌカ漬けと酒盗を冷蔵庫から出していきましょうか。強いお酒と合いますからね」


「はい、奥様っ」


 バルデル先生は料理を作って出せばいいと言ってくださったけれど、実際はそんなに簡単なものじゃなかった。

 ドワーフ族はお酒と合わせる食べ物にもこだわっている。

 仕事終わりの時間を大切にしているから、おつまみとお酒のマリアージュを楽しむのだと、いくつもの本に書かれていた。


 だからお食事を出すタイミングなどにも気を配りながら、ビールに合わせてアスパラガスの豚肉巻きを仕上げる。

 みんなで分担しているけれど緊張しているのもあって、菜箸を持つ手がつりそうになる。


「奥様、鳥が食べたいとお客様からご要望がございました。甘辛いやつだと仰せです」


「手羽先のことですね、すぐにご用意します」


 仕込んであった手羽先を揚げ直して、カリカリに仕上げる。タレを絡めれば、流れるようにメイドたちが持っていってくれる。


「奥様、あっさりしたものが食べたいそうです」


「ファセット、たたききゅうりを冷蔵庫から出してもらえるかしら。

 だし巻き卵もあっさりしていますよ、アイリーンが作ってくれているから、出来立てを持っていってあげてくださいね」


「奥様、ワインに合うお料理を」


「じゃがいものニンニク醤油炒めを出しましょうか。メルクリウス、お願いできますか?」


「奥様、ブランデーにも料理を合わせてほしいと仰せです」


「クリームチーズの味噌漬けがいいかしら……リーエン、冷蔵庫に入っているからお出しして……」


「奥様、そろそろ甘いものが欲しいとお客様が」


 ぴええん。忙しい。


「冷凍庫からゆずのシャーベットをお出しましょう。ごめんなさい、メイドのみんなに盛り付けはお願いできるかしら」


「「「心得ました奥様!」」」


 もはや今がいつなのかもわからないくらい、厨房でぐるぐると指示を出して料理を作って回り続ける。

 少しオーダーが落ち着いてきたと思ったら、メイドたちとドリンクタイムにした。気づいたら全員汗だくです。アイリーンも砂糖づけのレモンを齧りながら、呆然と天井を見上げています。


「レモンのお砂糖付け、美味しいですね……塩がちょっと効いているのが味を引き締めています……あ、メモメモ」


「水分補給してもお塩がないと倒れてしまうから、ちゃんと全員食べておきましょうね。

 まだ食べていない子は? いない? 余っているから欲しくなったら食べてしまってね……」


「アサ」


 女性ばかりの厨房に、太一郎さんの声がした。

 ヴァレスト邸の主人でありティルダーロの一柱として、太一郎さんはドワーフ族との会談にも出席している。

 艶のある黒髪をオールバックにした、イケメンアイドルはスーツ姿だ。

 高い背丈にすっきりと合わせたスーツが凛々しいから、その姿を見るだけでメイドたちから歓喜の悲鳴が上がった。


「少しだけ相談があるが、いいか」


「相談? はい、なんでしょう」


「料理を作っている妻を連れてこいと。無茶を言われていて」


 わーお。

 火元にいた私は汗だくでズタボロだ。

 この場にいる全員が状態を知っているし、改めて目にして、なんとメイドたちが前に立ってくれた。


「ご主人様、奥様はすでにお疲れのご様子。これ以上のご負担をかけるわけにはまいりません」


「私がご主人様の妻を名乗ります」


「いいえ私がお供します」


「私です、私がご主人様の奥様になります!」


「あらっ待ってください、目的が違っていませんか!?」


 危ない、妻の座を乗っ取られるところだった。

 太一郎さんも笑っているけれど、私も面白かったから笑ってしまう。


「お客様の前ですから、着替えるお時間はいただけますか?」


「いいや、そのままで構わない。着飾ったアサが見たいわけではないと言われた。

 ……実際に作った者を確かめたいんだ。本当に俺の妻か疑っている」


「こんな汗っぽい格好でもいいんでしたら、ぜひ行きましょう。

 ふふ、私もドワーフに会ってみたかったんです」


 料理していたことをご存知のお客様が望むなら、隠すものもないし汗を拭って頷いた。

 太一郎さんに連れられて、会食の場に向かう。

 中にいるのは着飾った悪魔たちと、獣の皮で出来た装束に身を包むドワーフたちだ。

 一番立派なおヒゲのドワーフに近づくと、彼が立ち上がって手を差し出した。


「ドワーフ族の族長、ブレウだ」


「初めまして。今宵のお料理を担当させていただきました、アサと申します」


 手を握ると大きくて、ドワーフと聞いて想像している手のひらの皮の厚さに触れた。

 日々大きな槌を振って金属を鍛えているのを実感する硬さに、感動が込み上げてくる。

 ドワーフと触れ合ってる! すごい! 想像していた通りの力強さがたまりません……!

 久しぶりに溢れてきたファンタジー熱に興奮していると、ブレウは私が作った手羽先を差し出した。


「悪魔なんぞ信頼に値しないと思っていたが、今日のはうまい酒と肴だった。

 あんたは『神の寵愛を受けし者』だろう。悪魔に捕まってこき使われているわけじゃないのか」


「いえ、こちらにいるティロウと夫婦です。仲睦まじくしております」


「残念だ。悪魔の嘘なら、さらって持ち帰りたいくらいだと話していた。

 しかし夫婦として仲睦まじいのなら、レンコドリにも参るのか。その時には歓迎しよう」


「……? レンコドリ、ですか?」


「神の寵愛を受けし者は、神鳥に参って子を授かるだろう。

 その神鳥を、我が家ではレンコドリと呼んでいる。

 ……おかしいな、神から知らされていないのか。それとも忘れたのか」


 え。

 食事の場がざわついたし太一郎さんも目を丸くしているけれど、私も瞬きが止まらない。


「神の寵愛を受けし者は、神鳥に参って子を授かる……というのは、ドワーフでは一般的な常識ですか?」


「生まれた時に神から授けられた、お前たちの知恵の中にあるはずだ。

 俺は家の裏手にレンコドリの巣があるから、子を授かりたい『神の寵愛を受けし者』が参ることは知っている。

 悪魔の国の客人など突き返すところだが、お前は別だ。いつでも来い」


 ドワーフの国からまさかの伝承が出てきて、太一郎さんと目を合わせてしまう。

 国交断絶から二百年の間に他種族の知識は失われ、書物なども焚書や意訳改訂されてしまっていたということでしょうか。昔の教科書の話をすると、孫にもよく首を傾げられたものです。

 何を騒然としているのか気にしないドワーフは、手にした手羽先を口に放り込んだ。骨を食べにくそうにしながら、ガラを吐き出している。


「この味は忘れられそうにない。我が家でも飯炊をさせるかもしれないが、頼めるか」


「お邪魔させていただく際には、ぜひお料理させてください。

 そうだ、こちらの手羽先ですが……こうすると食べやすいですよ」


 下準備してある手羽先から骨を捻って外すと、歯で残る肉を噛んで一気に引き剥がした。

 手には二本の骨だけ残す豪快な食べっぷりに歓声が沸いたけれど、ここまで簡単だと確かに感動しますよね。もぐもぐ。うん、美味しいわ。


「おい姉ちゃん、どうやるんだ」


「ここを持って、まずひねるんです。すると残りがこの二本の骨だけになるので、噛んで引っ張ります」


「うおお、できたぞ」


「もっと早くに呼んでくれよ族長、食べたいのにもう腹ぁ一杯だよぉ!」


「今度お招きしてやるから黙ってろ!」


 こうして宴は、大盛り上がりのうちに終わった。

 汗だくで駆け抜けたけれどメイドのみんなも楽しかったみたいで、厨房に戻ると女子みんなでキャッキャしながら成功をお祝いしていた。

 後片付けは全部してくれるという約束は守られたため、ヴァレスト邸のメイドたちも全員、無事屋敷に戻っている。


「助けてくれてありがとう、アメリア。……今日のこと、感謝している」


「い、いえ、ご主人様のためなら当然ですぅぅ……っ」


 色っぽいティロウから今日の特別手当を一人ずつ手渡しでいただいて、告白タイムみたいな時間もあった。メイドたちはお渡し会で疲れが取れたみたいに興奮して騒いでいる。

 一人ずつ盛り上がったら、ついに解散だ。私も部屋に戻った。


「はぁー……おわりましたぁ……これがしょうくんの言っていた、体育祭実行委員会の疲れでしょうか……」


 お風呂の準備を進める体は、汗と調味料でベタベタだ。

 全身は疲れてフラフラ。足はガクガク。頭は寝ること以外の何も思いつかない。


「アサ」


「あら? はいはい、なんでしょうか」


「今日は風呂で、汗でも流そうか」


 ネクタイを外すスーツ姿の悪魔が、色っぽい。

 背の高い男性の碧眼と見つめ合うと、途端に全身に血が巡って目が覚めてしまった。現金なものです。


「あ、あの……もしかして……特別手当、ですか?」


「……俺をどう使うかは、アサに任せる」


 恥ずかしそうな旦那様にそんなことを言われて、膝から崩れ落ちた。

 だめです、襟元のボタンを緩める姿だけでセクシーすぎます。手首のボタンを外すだけで様になるとか何事ですか。


 近づいてきた太一郎さんに迷ったけれど、……立ち上がらずに手を伸ばす。

 すると細身なのに、簡単にお姫様抱っこされてしまった。

 近くで見つめ合うと微笑んだ悪魔が、顔を近づけて……唇を奪ってしまう。

 吐息すら飲み込んで見つめる私の前で、太一郎さんは微笑んでいる。


「疲れて足が弱っているだろうから、風呂まで運ぼう。

 どうやってベッドに移動したのか、必死になって聞いていたからな」


「……おじいさんの遊び人。どこでこんな技術を学んだんですか」


「遊び人? あさが子供と縁側で昼寝をしていても、同じことをしたぞ?

 そうか……深く眠っていたから覚えていないんだろう。

 寝ているあさを持ち上げるのは、何度も練習した」


 七十年目の新事実が恥ずかしくて、真っ赤になりながら顔を押さえてしまった。

 こうして太一郎さんから、私もご褒美のドキドキタイムをいただけた。

 メイドたちのように告白タイムまでもらって、疲れも吹っ飛ぶような充実の夜を過ごしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ