明治20年(1887年)9月 ドイツベルリン セントラルホテル 伊達忠七
ベッカーに差配してもらい、北海道から製糖業のために視察来ていた堀宗一と、札幌農学校の後輩でボンに留学している新渡戸稲造。そして、買い付けのために連れてきた、札幌の今井呉服店の手代の高橋栄三郎の三人。こちらはベッカーとリヨンから連れてきた佐々木源次郎と自分の計6名での会食となった。一通り挨拶を済ませると、ミュンヘン産のビールで喉を潤した。
「札幌では無いのですが、私はいささか北海道には縁がありましてな。有珠の伊達様とは懇意にさせて頂いております…確か有珠にも製糖工場がありましたな?」
そう聞くと、宗一殿が答えられた。
「ええ、有珠の工場は伊達様ら現地の者達に払い下げられています。我らは札幌に新しく製糖工場を創るべく、こうしてドイツに足を運びました」
「その払い下げの費用の一部を、我が商会で融資させて頂いております。伊達様の興した永年社にも幾らか融資させて頂き、最近設立された東京人造肥料会社の株式の調達もお手伝いさせて頂きました」
報告を受けていた最新の情報を、ここぞとばかりに披露して関心を惹いた。
「そこまで伊達様と深い関係をお持ちなのですね、もしかして伊達家の関係者の方なのですか?」
「いえいえ、私の苗字は師に付けて頂いたもので決して仙台とは縁は無いのです。ですが、師が申しますには北海道はこの先、防衛拠点としても食料基地としても大きく発展を遂げる。そのための投資を怠ってはならないと」
札幌からやって来た三人は、大きく頷いている。
「もしドイツでお困り事がありましたら、この源次郎にお申し付けください。何かと役に立ってくれるはずです。資金のことはベッカーに言って頂ければ、リヨンの正金銀行に繋がるよう手筈は整えておりますので」
「それは有難い、買い付けにも大量の資金を持ち運ぶ訳には行かず難義していた。それにこの新渡戸君は、この先もボンで留学を続けることになる。源次郎殿のような存在がいてくれれば、多いに助かることになる。なあ、新渡戸君」
「はい、大変助かります。源次郎殿、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、困り事がありましたら何なりとお申し付けください」
こうしてベルリンの夜は和やかに過ぎて行った。今なら正様が言われていた事が理解出来る。北海道の事、人を繋ぐという事。横浜よりはやや冷えるが、ビールの酔いを醒ますには心地良かった。




