脱出か幻想か
日本語が少し変なところがあるかもしれませんが、温かい目で見てください。
どれだけ走っただろうか。
恐らく二十分以上は、逃げ続けている。
最初のうちは、息が潰れるくらい全力で走った。
でも途中から脚が言うことをきかなくなって――
止まれない。
速歩きに落として、息を整える。止まったら終わる気がした。
どっちゃんが言っていた通り、ずっと真っ直ぐ。
それなのに、階段はなかなか見つからない。
ここな「ここの地下牢、広すぎでしょ……。てか、どうして私がこんな目に合わないといけないの……」
思わず、苦言が漏れる。
息が切れていて、言葉は掠れた。
ここな「……でも、文句言ったって現実は変わんないし」
そう言って、もう一度だけ前を見る。
……なのに。
息は上がってるのに、距離感だけが変。
――そのとき、ふと違和感が刺さった。
こんなに広い地下牢なのに、私はまだ一度も“囚人”を見ていない。
鉄格子の向こうに誰かがいる気配も、声も、物音もない。
(……え、ここ、空っぽ?)
私は足を止めた。
後ろを振り向く。
ヨロイが来ていないか確認する。
……いない。
足音もしない。
(来てたら、あの足音で分かるよね。絶対)
私はすぐ隣の牢へ近づいた。
壁に掛かった蝋燭の、薄暗い明かり。
錆びた鉄格子の隙間から、中をのぞき込む。
……何もない。
言葉通りの意味で、何もない。
ベッドも、桶も、鎖もない。
ただ、石の床と壁だけ。
奥まで光が届いていなくて、部屋の隅が見えない。
何かある気がして、私は後ろを向き、壁の蝋燭を手に取った。
ここな「熱っ……え、熱っ。ちょ、マジ熱っ」
持ち替えて、持ち替えて、やっと安定させる。
そして――牢の中へ放り込んだ。
ここな「えいっ!」
……その瞬間。
手首がチリッ。やば、焦げた。……でも痛くない。
いや、痛くないのが一番怖いんだけど。
投げられた蝋燭は、手から二メートルほど離れた位置で止まった。
火は消えず、そのまま部屋の隅まで照らした。
そして、部屋の全貌が見えた。
ここな「……なんか、書いてある」
さっきまで黒に飲まれていた壁に、文字が浮かんでいる。
目を凝らして、読み取る。
赤黒い色で――乱暴に。
「反省しただから出してくれ」
震える手で殴り書きしたみたいに、助詞が抜けていた。
ここな「……え」
喉が、少しだけ乾く。
舌が上あごに張り付く。
ここな「昔はここにも誰かいたんだ……でも、もういないってことは……」
言いかけて、私は首を振った。
明るくいこ、うん。
私は、止めた歩みをまた再開した。
――そのとき。
背後から、声が落ちてきた。
ヨロイ「そうだよ。昔はこの部屋にも人が入ってたんだ。二十分くらい」
心臓が、嫌な音を立てた。
今いちばん聞きたくなかった声。
今いちばん会いたくなかった存在。
ここな「……も、もう追いついたんですね。結構遠くまで来たつもりだったんですけど……」
鉄を舐めたみたいな匂いが、鼻の奥に刺さる。
必死で走って、途中で歩いて息も整えた。それでも距離は稼いだはずなのに。
――追いつかれた。
ヨロイ「ああ大変だったよ~~。まず僕の邪魔をしたあいつを片付けて~~」
ゆるい声。
なのに、空気が冷たい。皮膚が粟立つ。
ヨロイ「で、壁に向かって必死に走る君に話しかけた。“昔はこの部屋にも人が入ってたんだ”ってね」
ここな「……壁に向かって走る? は?」
言葉が、うまく飲み込めない。
ヨロイ「君、ずっと“まっすぐ”走ってたつもり?(笑)」
背筋が、ぞわっとした。
ヨロイ「理解できないのも仕方ないよね~~。僕の能力、“幻想”でそこをずっっと通路だと思ってたんだから。君がこの走っていた時間はぜーんぶ幻だったわけ~~」
何を言っているのか理解ができなかった。
能力? 幻想?
ここな「……なに言ってんの……」
私は声のするほうへ視線を戻した。
ここな「私は騙されな――……え?」
胃が、ふっと浮いた。
視界が揺れた。
まるで薄い膜が剥がれるみたいに、景色がひっくり返る。
そこにあったのは、地下牢の通路じゃない。
必死で逃げた、あの拷問部屋。
そして――床に倒れている、どっちゃん。
目をこすった。
息を止めた。
目の前の現実は、そこにある。
足元には血の池。
さっき、どっちゃんが血まみれで立っていた場所だと、嫌でも分かる。
私は火傷跡を、もう一度見る。
ヨロイの言葉が信じられない。だから、自分の目で確かめたかった。
指先が小さく震える。呼吸が浅い。
……そこにはちゃんと火傷があった。
(え、じゃあ……どこまでが嘘?)
頭が追いつかない。
怖いのに、冷静なふりをしちゃうの、マジで悪い癖。
(逃げなきゃ)
反射で後ろを向いて走り出そうとして――止まる。
壁。
ここな「……は?」
ヨロイ「無駄だって~~。僕から逃げるなんて」
背中に、空気が重くのしかかる。
見なくても分かる。あの圧が、こっちに来る。
私は震えそうな指を握り込んで、視線を走らせた。
床。壁。影。
役に立ちそうなもの――
……蝋燭。
さっき牢に投げたはずの蝋燭が、二メートルほど離れた場所にある。
あれは“通路”じゃなかった。でも、蝋燭は確かに存在している。
炎が小さく揺れて、空気が熱く歪む。
私の中で、何かが繋がった。
(……通路が嘘なら。牢も嘘。じゃあ――“壁”も?)
私は、壁に向かって走り出した。
ここな「外れたら、終わり。……だから、当てる」
次の瞬間――
私の体が、ふっと“壁”に飲まれるみたいに抜けた。
視界が反転して、空気が変わる。
湿った冷気が一段濃くなって、肌が粟立つ。
そして、目の前に――階段。
ここな「……っ、あった!! 今いちばん見たかったやつ!!」
背後で、ヨロイが面倒くさそうに息を吐く。
ヨロイ「あー、破られちゃった。これで“二人目”か」
私は振り向く。
ヨロイは追ってこない。
ただ、そこに立ったまま、こっちを見ている。
――顔を覚えようとしてるみたいに。
私は喉の奥で息を飲み込み、階段を駆け上がった。
(立ち入り禁止の部屋……そこに、みんながいるんだよね)
上りきった先、扉が見えた。
白い板に、でかでかと――
『立ち入り禁止』
震える手でノブを掴む。ひやりと冷たい。地下の冷気のせいか、校舎の冷房みたいな冷たさが指先に貼りついた。
蝶番がきしむ。その音がやけに大きく聞こえて、胸の奥がきゅっと縮む。
「立ち入り禁止」を破る背徳感と、開けなきゃ終わるって焦りが、そして
本当に、ここにみんながいるのか、疑問と焦りが同時に喉までせり上がった。
私は息を殺して、ゆっくりと重いドアを開けた。
次はどういう感じにしようかなにも考えてませんができる限り面白くできるように頑張ります。つまり面白いってこと。




